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イノシシ対策にクラウドファンディング!

夏休みをふるさとの地方などで過ごして、イノシシの増加に手を焼いているという声を聞いた人も多いのではないでしょうか。人口減少に伴う耕作放棄地の増加などで、農作物の被害は一昨年度(平成28年度)、全国で50億円に達しています。その4分の1以上を占める九州では、地域の人たちが相次いで新たな対策に乗り出し、成果をあげています。(盛岡放送局記者 市毛裕史)

やまないイノシシ被害

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佐賀県で撮影されたこの画像。

深夜、田んぼに侵入して米を食べる2頭のイノシシです。

元来非常に臆病とされるイノシシですが、最近では、人が居住しているすぐそばまで現れて、わがもの顔で荒らし回る様子が各地で確認されています。

人がケガなどをするケースが相次いでいるため、環境省が最近になって統計を取り始めました。

それによりますと、昨年度全国で76人がケガをしていて、一昨年度の64人より12人増えています。

再び離島を訪ねてみると

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7月、佐賀県唐津市の中心部から北西におよそ23キロの玄界灘にある離島・馬渡島を訪ねました。

この島では、餌やすみかを探すイノシシが海を渡り、深刻な被害が出始めている状況を2年前に取材しました。

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その後の状況を聞いてみれば、対策のヒントが見つかるかもしれないと思ったからです。

しかし、事態は一段と悪化し、人々の安全を脅かす事態になっていました。

人に向かってくるだけでなく、車と衝突して事故になるケースが、この2年で少なくとも4件起きているというのです。

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運転中にイノシシと衝突した人

「イノシシとぶつかって急に車が動かなくなった。小さい子どもが歩いている時出てきたりとか、お年寄りの人が遭遇したりしたら怖い」

実際に夜道を車で走ってみると、住宅地のすぐそばで何匹ものイノシシと遭遇しました。

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人の生活圏にイノシシが迫ってきていることを実感させられました。

スーパーイノシシ!?

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離れて暮らす孫のためにと丹精込めて育てていたスイカをすべて食い荒らされてしまったという高齢の夫婦にも出会いました。

3日連続で人の背丈とほぼ同じ高さの柵を突き破られたといいます。

複数で侵入したとみられ、スイカは全滅。来年以降は、もう栽培できないと嘆いていました。

島の人たちは、対策をうつごとにそれを上回って弱点を突いてくることから「スーパーイノシシ」と呼んでいました。

専門家は

イノシシ対策を専門とする宇都宮大学の小寺祐二准教授に聞くと、少子化や高齢化が進み、猟の担い手が不足しているなど、島の現状には同情すべき点が多いとしながらも、問題点を指摘しました。

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宇都宮大学 小寺祐二准教授

「イノシシの侵入防止柵は、設置して、その外側の3メートルくらいはきちんと草刈りなどをしておかないと効果が得られない。やぶに潜んで、柵を探索して、柵の破り方を覚えてしまうからだ。頑張って対策をしているが、結果的にイノシシを訓練している状況になってしまっている」

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小寺准教授は、初期段階での正しい対応やそれを熟知した人材の配置などが必要だと強調したうえで、島のイノシシの警戒心がここまで薄れてしまっている以上、駆除するしか方法が無いと話しています。

九州各地で進む対策 長崎では

こうした状況に業を煮やして、九州各地で対策の動きが本格化しています。

このうち、長崎県では、県農林技術開発センターの平田滋樹主任研究員が中心となって、狩猟免許を持っている県内すべての人にアンケートを行いました。

すると多くの人が、最終的な処分を負担に感じていることがわかりました。

捕獲直後に食肉処理するか、埋設処分するにも、決められた場所に深い穴を掘って埋める必要があるなど、かなりの労力を必要とするためです。

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このため県が中心となって、処理したイノシシを腐らせずに保管できるよう、7か所に冷凍庫を設置し、いつでも持ち込める態勢を整えました。

これらのイノシシを定期的に回収して工場に運び、特殊な技術で完全に解体し粉状にします。栄養分を含むこの粉は、高騰している養殖魚の餌として活用が期待されています。

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負担がかなり軽減されたと地元の猟師にも好評です。

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長崎県農林技術開発センター 平田滋樹主任研究員

「日本が過疎化、高齢化社会に突入した時に野生動物とのつきあいは、今よりおそらく非常にシビアになっていく。条件不利を埋めるような技術はなかなかない。そういう地域で苦労されている方の負担が減ればというのがいちばん」

熊本では 若手農家たちが

一方、熊本県宇城市では、若手農家たちが立ち上がりました。その名も「くまもと☆農家ハンター」、リーダーは、洋ラン農家の宮川将人さん(39)です。

宮川さんが真っ先に取り組んだのが、IT機器の導入です。

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箱わな近くに小型のカメラを取り付け、周辺で動物などの動きを感知すれば、自動的に画像を撮影し、登録したメールに知らせてくれます。

見回り回数の大幅な削減につながりました。

このほか、イノシシの活動を広範囲にキャッチすることが可能な高性能のセンサーの導入などにも取り組みました。

利用したのはクラウドファンディング!

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こうした費用を賄うのに利用したのが、クラウドファンディング。

お礼に贈るのは、被害を減らすことで、収穫量の増加にもつながっている地元の農作物。

評判となり、全国各地から合わせて600万円ほどの資金が集まりました。

宮川さんは、ジビエの専門家を招いて、イノシシ肉の加工やおいしい調理方法などについて教えてもらうなど、楽しみながら取り組めるよう工夫しています。

2年前に50人だったグループのメンバーは、今ではおよそ100人にまで増えました。

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さらに将来も見据え、費用の一部を支援して地元の大学生に狩猟免許の取得を促したり、地元の工業高校と連携して、箱わなの製作に取り組んだりするなど若い世代を育てる地道な取り組みも続けています。

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くまもと☆農家ハンター リーダー 宮川将人さん

「地域の人からありがとうと言われる声が人を育てると思うし、自信になる。イノシシ対策を通じて、人作りのこんなによいチャンスってないんじゃないかなと思う」

佐賀県でも

佐賀県嬉野市では、こうした取り組みをさらに発展させている人がいます。

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あまりの被害の大きさから地元特産の茶農家を辞め、6年前に猟師になった太田政信さん(29)です。

太田さんは、猟の様子などをSNSで積極的に発信しているほか、クラウドファンディングで支援をしてくれた人に、捕獲する際の画像を配信するなど、一緒に猟をしているような感覚を味わってもらい、新たな担い手を増やそうと奮闘しています。

取材を終えて

深刻化するイノシシの被害は、少子化や高齢化にどう向き合うのかといった問題と密接に関わっています。

今回の取材を通じて、地域に住む自分たちが地域を守るという、当たり前の意識の大切さを痛感しました。日本全体で人手不足が深刻化しているだけに、他人任せでは決して解決できないのは明らかです。

もう1つ大切なのは、取捨選択です。

一律に現状を維持していくことが難しくなっている以上、どこを守るべきなのか。逆に言えば、どこは放置しても構わないのかの判断です。将来のまち作りの在り方もにらみながら、行政などのリーダーシップも欠かせません。

いずれにせよ、今後、被害の深刻化が予想されるだけに、場当たり的ではない腰をすえた取り組みが求められていると感じました。

市毛 裕史
盛岡放送局記者
市毛 裕史
この夏まで佐賀放送局