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介護人材はミャンマーから! 地方発 招き育てる独自の取り組み

佐賀県と聞いて思い浮かぶのは、「出かける時に家に鍵をかける習慣が無い」ことなどを自虐的に表現したお笑いタレントはなわさんの歌という人も多いのではないでしょうか。ご多分にもれず、少子化や高齢化が進み、人手不足が深刻化しています。こうした状況を受けて、県内の介護施設で作る協会は、国内での人材の奪い合いを避け、海外から招き育てる取り組みに乗り出しました。目をつけたのはアジア最後のフロンティアと言われるミャンマー。そのねらいは?(佐賀放送局記者 市毛裕史)

人手不足深刻な地方の介護施設 対策は

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お年寄りの体をボタン1つで持ち上げられる機械や、移動式の水洗トイレ。

ここは、佐賀県多久市の介護施設です。

入所者を持ち上げたり運んだりといった作業は、介護職員の負担が大きく、腰痛が多い要因になっているともされています。

施設では、人手不足が深刻化することを見越して、早くから対策をとってきました。

介護記録の入力をすべてタブレット端末で行うなど、最新のIT機器の導入も積極的に進めています。

定着難しい海外人材

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インドネシアから受け入れた2人(平成21年)

この施設には、苦い記憶があります。

9年前、EPA=経済連携協定を結んだインドネシアから介護福祉士を目指す2人を受け入れました。

住まいから試験対策まで全面的にバックアップし、2人は同じ時期に来日した人たちの中で最も早く資格を取得しました。全国的にも珍しかった2人の合格は、雑誌にも取り上げられたほどでした。

幹部候補として期待をかけ始めたやさき、1人は帰国し、もう1人も横浜の施設に移ってしまいました。

そのあと、海外から人材を呼び込もうと努力しましたが、なかなか選んでもらえなかったといいます。

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施設長 諸隈博子さん

「九州というので厳しいと思うし、佐賀さらに多久というとだんだんハードルが高くなる。物価が安くて住みやすいとPRしたけれど、全然効き目はなかった」

賃金水準や都市部への憧れという面で、佐賀のような地域はどうしても遅れをとってしまいます。

それだけにこの施設では、短時間勤務など柔軟な働き方を推進し、職員の定着に力を入れています。

それでも近い将来、人手不足はさらに深刻化するとして、海外からの人材獲得に目を向け続けていると言います。

目をつけたのは ミャンマー

佐賀県内では、程度の差こそあれ、状況はどこも似たりよったりです。

もはや単独の施設ではどうにもならないという切実な声を受けて動いたのが、介護老人保健施設で作る協会です。

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キーマンの傍示康久事務局長が注目したのが、アジア最後のフロンティアと言われるミャンマー、敬けんな仏教の国で、目上の人を敬う文化もあります。政情が不安定でインフラ整備が進んでいないために、多くの若者が給料の高い海外に職を求めています。

傍示さんは、独自のネットワークを作ろうと、現地を訪れるようになりましたが、すぐに壁にぶつかりました。

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現地の日本語学校で打ち合わせする 傍示康久さん(右)

欧米の先進国だけでなく、台湾や韓国なども交えた人材の争奪戦が、すでに激しくなっていたからです。

さらに、現地での日本の評判も決して高くはなかったと言います。

高くない 日本の評判

現地の人材派遣会社を取材しました。

この会社には、世界各国からひっきりなしに問い合わせが入っているといいます。この日もシンガポールの一行が訪れ、社長が満面の笑顔で応対していました。

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シンガポールは、賃金などでトラブルが起きても、国や受け入れ機関などが責任をもってすぐに解決するため、安心して働くことができるという人気の派遣先です。

かたや日本は、受け入れまでの手続きが煩雑で時間もかかるうえ、働き始めてからのトラブルも少なくないといいます。

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ミャンマーの派遣会社社長

「以前は日本に行きたいという若者は多かったが、今は減っている。残業代が出なかったり、想定外のトラブルもあったりするので逃げる人も多い。日本には失望している

動き始めた「佐賀方式」

傍示さんは、改めて戦略を練り「佐賀方式」とも言える新たな仕組みを作りました。

まずは、ミャンマーの日本語学校と連携し、一定の日本語能力を持ち、介護に適しているとみられる人材を見極めてもらいます。有望な人材には、現地で日本語を学ぶための奨学金も支給します。

さらに県や地元の短大とも連携し、来日したあとの学費を免除するほか、安い家賃で寮を貸したり、生活費を稼ぐためのアルバイト先を紹介したりと、生活環境も充実させます。

ただし、資格を取得したあと、少なくとも5年間は佐賀の施設で働くことが条件です。

大切なのは信頼関係

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こうして、第一陣として今年度来日したのは11人。

傍示さんは、異国で働く不安をやわらげるため、来日直前に、現地で家族も交えたパーティーを開いて、直接説明しました。

また、来日したあとも、何かと細かく面倒をみて、日本のお父さんと慕われています。

特に大事なのは、単なる労働力ではなく、一緒に働く仲間として受け入れようという気持ちだと強調します。

応募した人たちの思い

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ナイン コ コ トゥンさん

このうちの1人、ナイン コ コ トゥンさんは、鉄道関係の公務員という安定したキャリアを投げうって、来日を決めました。

最初は、条件が良すぎると怪しみましたが、行政も関わっていることで、信頼するようになりました。

ミャンマーでは、お年寄りは家族で面倒をみるという意識が強く、ナインさんも、祖母の面倒をみるために、母親がしばしば仕事を中断していたことが忘れられないということで「日本で学んだ知識を生かして、将来ミャンマーにも介護の仕事を根づかせ、お金を稼いで家族を助けたい」と話していました。

来日してからは

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来日しておよそ4か月。11人は徐々に日本の生活にも慣れ、勉強にアルバイトにと忙しい毎日を送っています。

ナインさんはすでにひととおりの介護の仕事を覚え、介護施設で夜勤業務にもついているということです。

それぞれが高い目的意識を持ち、実習などにも意欲的に取り組んでいて、短大の成績もトップクラス。

実習先の施設でも「うちにほしい」と評判になっています。

それぞれが、日々の様子をフェイスブックで発信していて、ミャンマーにも伝わり、昨年度25人ほどだった応募が、今年度はすでに100人を超えているということです。

佐賀方式で好循環生み出せるか!

順調にいけば11人は、再来年に短大を卒業して資格を取得し、その後5年間は佐賀で働くことになります。

このうちの何人が、将来にわたって働いてくれるかは未知数です。しかし、ミャンマーに「佐賀」というブランドを浸透させることができれば、自然と人は集まってくるし、仮に帰国したとしてもつながりが続くという目算もあります。

最後に、この制度は、ほかの地域でもまねするところが出てくるのではないかと尋ねました。

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佐賀県老人保健施設協会 傍示康久 事務局長

「簡単に見えるかもしれないが、人と人、それに地域のつながりが強い佐賀の強みを前提とした制度であり、現地での関係作りなども一朝一夕にはできない」

仮にまねされても、これまでのリードをいかして、さらにその先に進めばよいと力強く話していました。

傍示さんは、早くも来年度の受け入れに向けて、ひんぱんに現地を行き来しています。

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34万人、これは団塊の世代が、75歳以上の高齢者となる7年後の2025年に全国で不足するとされる介護人材の数です。

こうした状況を踏まえて、国は、外国人労働力の受け入れに大きくかじを切っています。

外国の人材を「受け入れる」のではなく、「招き入れて育てる」佐賀発の新たな試み。

今後のロールモデルの1つになりそうな気がします。

市毛 裕史
佐賀放送局記者
市毛 裕史