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自衛隊 “宇宙防衛”に乗り出す

防衛省が来年度予算案の概算要求に盛り込んだ「宇宙関連経費 887億円」。
5年後2022年度に、宇宙を監視する専門の部隊を発足させる方針です。
まさか、地球外生命体が侵略してくるのか?
映画やアニメの世界が現実になるのか?
発足の背景を取材すると、空の向こうで深刻な事態が起きていることが明らかになってきました。(政治部 防衛省担当 西井建介)

きっかけは「ゴミ」

宇宙を監視する専門の部隊について、防衛省は3年前、「宇宙開発利用に関する基本方針」を改訂。「宇宙監視を任務とする専従の組織を設置できるよう検討する」と盛り込み、検討を進めてきました。

きっかけは、宇宙を漂う「ゴミ」でした。

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今から60年前、1957年にソビエトが人類初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げてから、各国は、気象観測や情報収集、それに通信や放送などの衛星を競うように打ち上げ続けてきました。

国連宇宙部によると、これまでに世界各国で打ち上げられた人工衛星は、ことし2月時点で7600機を超え、地上に回収されたり高度が下がって落下したりしたものを除いて、現在も4400機以上の人工衛星が軌道上を回っています。

こうした中、使用が終わった衛星や打ち上げた際のロケットの部品、それに壊れた燃料タンクの破片などが同じように軌道上を回り始め、これが、「スペースデブリ」=「宇宙ゴミ」となっているのです。

ゴミは幾何級数的に増加

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長年、宇宙ゴミへの対策などを研究してきた防衛研究所の政策研究部長の橋本靖明さんです。

橋本さんによると、こうした宇宙ゴミは「幾何級数的に」増え続け、地上から観測できる10センチ四方以上の大きさの宇宙ゴミだけでも、2万個以上が軌道上を回っているといいます。

加えて、各国が打ち上げる人工衛星は、観測などに使い勝手がよいとされる、地球から高度1000キロ以下の「低高度周回軌道」と、高度およそ3万6000キロの「静止軌道」に集中していて、この軌道上にゴミが漂っているのです。

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地球を周回する衛星とゴミ

では、稼働している人工衛星にとって、これらのゴミはどのくらいの障害となるのでしょうか。

橋本さんは「銀座の大通りにガラスのかけらがたくさん落ちていて、そこをはだしで歩くようなものだ」と危険性を指摘します。

「人工衛星は、引力に負けないように非常に速く、秒速7キロほどで飛んでいます。東京ー大阪間を1分ほどで飛ぶスピードです。このスピードで10センチ四方の破片がぶつかると人工衛星は致命的な破壊を受けます。数十億円、数百億円かけた人工衛星が『ゴミ』1つで寿命が尽きてしまうのです」

人工衛星が正常に稼働しなくなることは、私たちの生活にとっても、無関係ではありません。最悪の場合、携帯電話の位置情報や車のカーナビ、天気予報、テレビの衛星放送など、身近にある情報が一瞬にして失われる可能性があるのです。

兵器の脅威も

さらに、人工衛星を直接狙う兵器「対衛星兵器」の脅威も指摘されています。

防衛省によると、2007年、中国が老朽化した自国の人工衛星を地上から発射したミサイルで破壊する実験を実施。その結果、およそ3000個もの宇宙ゴミが軌道に飛び散りました。

加えて中国やロシアでは、対象となる衛星に接近し、アームで捕獲して機能を失わせる対衛星兵器の開発も進められているとされています。

これらの兵器によって、弾道ミサイルの発射を感知する早期警戒衛星や情報収集衛星が使用できなくなれば、貴重な軍事情報も得られなくなり、安全保障上の危機に直面するおそれもあります。

カギは「よける」「逃げる」

こうした宇宙のゴミや危険に対して、現状ではどのような対応が可能なのでしょうか。

橋本さんによると、JAXA=宇宙航空研究開発機構などが宇宙ゴミを除去する技術の研究を進めていますが、ゴミを抜本的に除去する技術はまだ確立されていません。

さらに、仮に技術が完成したとしても、今度は、「ゴミの所有権」をめぐる国際的なルール作りが進んでいないため、勝手に除去することができない事態に陥りかねないと指摘しています。

「ゴミを回収する技術もまだない。誰のゴミかわからず、費用を誰に請求したらいいかわからない。こうした中、できることは『よけること』。ぶつかりそうな宇宙ゴミや、怪しい動きをする衛星を見つけたらロケットを噴射して少し軌道をずらしてやり過ごし、元の軌道に戻る、これを繰り返すしかありません」(橋本氏)

つまり現状では、「宇宙ゴミをよける」ことと「対衛星兵器から逃げる」ことしか、できないのです。だからこそ、橋本さんは宇宙空間を常に監視しておくことが何よりも大切だと指摘します。

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国際宇宙ステーションの「こうのとり」

部隊発足と国際的な監視網

こうしたなか、防衛省は具体的な取り組みを始めました。

宇宙を監視できるレーダーの設置などにかかる費用として44億円を来年度予算案で概算要求に盛り込み、11月21日にはレーダーの建設予定地の山口県山陽小野田市で住民説明会を開きました。

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住民からは「他国からの攻撃目標にならないのか」などと不安の声も上がりましたが、防衛省は、住民の理解を得て今年度中にボーリング調査などを始め、6年後からの運用開始を目指すとしています。

そして、こうしたレーダーの運用にあたる、いわば「宇宙監視部隊」を5年後の2022年度に発足させて、常に宇宙を監視する方針です。

一方、日本が宇宙監視レーダーを設置しても、監視できる範囲は日本上空とその周辺に限られます。そこで、重要になってくるのが国際的な監視網です。

防衛省は、去年から、アメリカやイギリス、オーストラリアなども参加する多国間の宇宙監視訓練に参加しています。北米、ヨーロッパ、アジア、南半球の国々が協力することで、幅広い範囲の宇宙を監視することが可能になります。

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去年の多国間演習

たとえば、日本のレーダーが捉えた宇宙ゴミが、「まもなくアメリカの人工衛星に衝突する危険がある」とアメリカに連絡します。そうすると、アメリカはいち早く人工衛星の軌道を変え、宇宙ゴミをやり過ごすことができるのです。

根本的な解決に向けて

2009年、アメリカの携帯電話会社「イリジウム」社の通信衛星と、使用済みで放置されていたロシアの軍事衛星が、上空およそ800キロの宇宙空間で衝突し、NASA=アメリカ航空宇宙局は、宇宙での「初めての衝突事故」と発表しました。

今後、宇宙ゴミはさらに増えることが予想され、事故のリスクは高まる一方です。

ゴミを監視する日本の取り組みはまだ始まったばかりですが、根本的な解決には、宇宙ゴミを減らす新たな技術の開発や国際的なルールの確立も必要となり、まだまだ課題が多いのが現状です。

防衛研究所の橋本さんは「地上に足をつけて生活する人類は、宇宙のことを忘れがちです。これまで、政治家はそもそも宇宙のことをあまり想像せず、科学者やロケット製造者はプロジェクトの成功は気にしますが、そのあとのゴミの話はあまり気にしない。みんなが後手後手で先延ばしにしたまま現在に至り、ようやく危険性に気づいたのです」と指摘します。

空を見上げてみて下さい。その先の宇宙空間の出来事は、もはや映画やアニメの世界ではなく、私たちの生活を直接脅かしかねない「危機」となっているのです。この身近にある危機は、どうすれば根本的な解決に至るのか、取材を続けたいと思います。

西井建介
政治部記者
西井建介
防衛省担当