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女性の活躍阻む「アンコンシャス・バイアス」

『いまこそ変化を!』求める女性たち

人口の半分を占める「女性」。その女性の活躍をどのように進めていくか、日本のみならず、世界各国で高い関心を集めています。

日々、国際情勢を取材している記者が、いま、世界の「女性」たちをめぐる問題において、何を課題だと感じているのかーー。2回にわたり世界の女性たちを取り巻く現状について考えます。

1回目は、女性の活躍を阻む「アンコンシャス・バイアス」です。(国際部記者 山口芳)

アンコンシャス・バイアスとは

「子育て中の女性社員に、泊まりがけの出張はできない」

「男性は、子どもが生まれても変わらず仕事に全力投球できる」

「時短勤務で働く社員は家庭が最優先なので、大きな案件を任せては悪い」

これを読んで、「自分でもこう思っている」、「こう思っている人は多いな」と感じた人もいるかと思います。

これは、性別にまつわる「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」と呼ばれるものの典型です。

男性はこうだろう、女性はこうだろうと、自分の育った環境や経験に基づき、気付かないうちに持つようになった物事への見方や考え方のことを指します。意識的なコントロールは利きません。
日本のみならず、欧米諸国など世界的に女性の社会進出の重要性を訴える声が大きくなってきています。しかし、その期待とは裏腹に、女性の進出はそれほど進んでいないのが現状です。その理由はどこにあるのか…?

最新の研究から浮かび上がってきたのが、「無意識の偏見」の存在です。初めて聞くという人もいるかも知れません。日本では、まだあまりなじみのない言葉ですが、欧米では、この「無意識の偏見」への関心が、いま、急速に高まっています。いったい、どんなものなのでしょう?

良かれと思って…?

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「女性が輝く社会」を目指して、今月(11月)初めに開かれた国際会議「WAW!2017」。

女性の活躍を考える国際的な会議は、先月にも相次いで行われ、私は一連の会議を取材しました。

その中で驚かされたのは、国籍も職種も違う、さまざまな女性たちの口から「無意識の偏見」という言葉が次々と出てきたことです。

中でも、大きな焦点となっていたのが、子どもを育てながら働く女性たちをめぐる「無意識の偏見」でした。

▽良かれと思って、責任の重い仕事や負荷のかかる業務をさせない気づかいが、当の女性のやる気をそぎ、成長の機会を奪い、キャリアの道筋を描きづらくしている。

▽こうした悪意のない偏見にさらされるうちに、女性たちの側も「自分はできない」と思い込むようになり、本来もっている能力を発揮できなくなってしまう。

▽他人に対して、そして、自分自身に対して抱く「無意識の偏見」が、女性活躍を妨げる大きな障壁となっている。

参加した多くの女性たちが、こうした問題点を熱く語っていました。

“格差是正に217年”

「女性の社会進出」を進める背景には、まず、女性の人口が半分を占めるにもかかわらず、男性と比べて仕事の機会に恵まれなかったり、賃金が低かったりすることは不公平だとの問題意識があります。

また、経済成長を図る上で、女性の労働力が必要不可欠だという理由もあります。

マッキンゼー・グローバル研究所は、女性が男性並みに就労した場合、2025年には、世界のGDPは28兆ドル(約3200兆円)増加すると試算しています。これはアメリカと中国を合わせた経済規模に匹敵します。

しかし、世界的に見ても、女性進出のペースは思ったほど進んでいません。スイスの研究機関「世界経済フォーラム」は、今月はじめに、ある調査結果を発表しました。

それによりますと、世界的に“教育分野”での男女格差は縮まっている一方、女性の就労や賃金、管理職登用の状況といった“経済分野”では、格差が逆に広がっているというのです。この研究機関は、このままのペースでは、“経済分野”の格差是正までに217年かかると警鐘を鳴らしています。

配慮はありがたいけれど…

なぜ女性の参画が進まないのか?欧米を中心とした研究で、職場での仕事の割り振りや昇進などの判断に、「無意識の偏見」が悪影響を与えていることがわかってきました。

そして、日本でも、「無意識の偏見」という言葉は知らずとも、子育て中の女性たちが日常的にその存在を感じていることがわかりました。

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1歳の息子を保育園に預けながら、融資事業を行う組織でフルタイムで働く35歳の女性は、職場の上司や同僚は親切で、働きやすいと感じています。

その一方で、ほかの同僚がやり残した補助的な業務をあてがわれたり、責任を伴う大きな案件は任せてもらえなかったりと、日々、悔しさと向き合っているといいます。

「配慮してもらっているのはありがたいけれど、もっと仕事をやりたいと思っているのに、スタートラインにすら立てていないことにさみしさを感じる。頑張ってもむだなのかもしれないという諦めの気持ちと、悔しい気持ちが常に葛藤している」

女性は苦しい胸のうちをこう明かしてくれました。

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また、都内でコンサルティング業を手がける40歳の女性は、小学校低学年になる娘がいることを、顧客には隠しているといいます。女性に、その理由を尋ねました。

「子どもがいる男性は一家の大黒柱で、責任感があってしっかり仕事もこなすと思われる。それが、子どもがいる女性だと、家庭に時間をとられて仕事をきちんとやってくれないとか、家庭もあるから負担をかけては悪いなどと思われる傾向が強いと感じる。推測から、『この人に仕事を任すのはやめておこう』と思われたくはない」

男性上司の本音は?

制約があっても精いっぱい働き、結果を出したいと思っている女性たち。しかし、東京・新橋を行き交う男性たちからは、無理をしないでいいという声が多く聞かれました。

「子どもの発熱で、急に休むこともある。家庭がだめになってはいけないので仕事を押しつけたくはない。体は1つしかないので、仕事の質が落ちるのはしかたがない」(公務員 50代・男性)

「あすまでにやらなければいけない仕事が急にでてきた場合、男性と女性がいたら、やっぱり男性を選んでしまう。特に育児中の女性に無理なお願いはできないと思ってしまう」(IT企業勤務 50代・男性)

話を聞いた男性たちは、皆、職場にいる女性の働きぶりを高く評価していました。そのうえで、女性に対する心づかいから仕事を任せることをちゅうちょしてしまいがちな実情がひしひしと伝わってきました。

「アンコンシャス・バイアス」に気付くには?

「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」には、どうしたら気付くことができるのでしょうか?

アメリカのハーバード大学の研究者などは、自分の「無意識の偏見」度をチェックできるテストを作成しました。インターネット上で手軽に受けることができ、日本語版のサイトもあります。

質問に答えていき、その回答内容と回答するまでにかかった時間などから、その人の潜在的な考え方を引き出してくれるものです。

私も、「偏見なんてもっていない」と思いながら、ジェンダーにまつわるテストを受けてみました。しかし、「男性と仕事」、「女性と家族」を自動的に強く結びつけて考えているとの判定を受け、少しショックでした。

このテストの日本語版サイトを管理しているフェリス女学院大学の潮村公弘教授によりますと、「無意識の偏見」は誰もが持っているもので、この結果はごく普通だそうです。重要なことは、「無意識の偏見」が与える悪影響を減らしていくことだといいます。

女性の「定着」から「活躍」へ

ヘルスケア企業「ジョンソン・エンド・ジョンソン」グループの日本法人では、3年前から、無意識の偏見による悪影響を抑えるための研修を始めました。

研修では、上司が部下に昇進を打診した時の会話が3パターン示されます。

この中で、女性の部下が昇進をためらったり、上司側も女性の謙そんに気がつかず、“もう一押し”をしなかったりする例などが紹介されます。

そのうえで人事の判断にあたっては、年齢や性別ではなく、個人の資質や実績を重視するという価値基準をしっかりと持つべきだと伝えているといいます。

研修を終えた社員からは、「女性に対して過剰に配慮をしてしまい、かえって女性に『期待されていない』と思わせていたかもしれない」とか、「自分から勇気を持ってチャンスを得ていくことの大切さを感じた」といった感想が寄せられているということです。

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村田洋子部長

社内の研修を担当する、研究開発本部の村田洋子部長は「性別や子どもの有無などの属性で社員をみるのではなく、一人一人の実情を知ることが必要だ。1対1で面談をしてコミュニケーションの機会を増やしたり、他人に相談して自分の考えに偏見が潜んでいないかをチェックしたりすることを促し、女性だけでなく誰もが働きやすい組織を目指している」と話していました。

育児休業の制度整備や長時間労働の見直しもあって、日本でも子育てと仕事の両立を進める女性は増えてきました。

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パク・スックチャさん

しかし、人事コンサルタントのパク・スックチャさんは、「制度面が充実したことで、女性は職場に『定着』するようになったが、『活躍』の視点がまだ欠けている。働く女性が置かれた状況は人によって異なり、『無意識の偏見』の影響を抑える取り組みなしには、女性活躍は頭打ちになってしまう。直感を疑い、情報とデータを集めて『意識と知識』で意思決定をしていかなければならない」と指摘しています。

言葉で社会は変化する

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今回の取材で、さまざまな働く母親たちに話を聞きました。その中で、あるひとりの女性の言葉が印象に残っています。

「ひと昔前までは、『妊娠した職場の女性に不利益な扱いをしてはだめだ』とか『男性も育児に参加すべきだ』とか頭ではわかっていても、実際の行動にはあらわれにくかった。それが、『マタハラ』や『イクメン』という言葉が生まれたことで、一気に社会の意識が変わった。『アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)』も同じように、言葉として広く浸透することで、社会の変化につながってほしい」

仕事を一時的にセーブしたいという母親。泊まりがけの出張や夜遅くまでの勤務には対応できないが、できる範囲で精いっぱい働きたい母親。経験を積みたいとバリバリ働く母親。仕事への向き合い方や、家庭の内外で得られる子育てサポートの状況は人によってさまざまです。

しかし、子育てをしながら働く女性は、職場でも「お母さん」として、ひとくくりにとらえられがちです。独身や男性の同僚たちと同じ戦力として扱われない悔しさ。男性は子どもがいても思う存分仕事をし、飲み会にも参加するのに、なぜ女性の多くが仕事を制限し、家事や育児を中心的に担わなければならないのだろうかという不満。将来のキャリアが描けないという不安。

「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」という言葉の力で、子育て中の働く女性たちを取り巻く現状に、スポットライトがあたらないか。取材を通じて、私自身もそんな思いをもつようになりました。

思い込みによって可能性が閉ざされてしまうことは、本人にとっても組織にとっても、そして、社会にとっても、もったいないことに思えてなりません。誰もがいきいきと働くことができる社会の実現に向けて、まずは、あなたのまわりでも、これまで気付いていなかった「偏見」を意識してみませんか?

山口芳
国際部記者
山口芳