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迷惑カラスをカラス語でご案内

「カ~カ~カ~」。町なかでもよく耳にするカラスの鳴き声。この鳴き声に意味があるって知っていますか? 「こんにちは」や「家に帰るよ」など、いわゆる「カラス語」で会話しているんです。この「カラス語」を使って、人に迷惑がかからない場所にカラスを案内しようと取り組む研究者を取材しました。(山形放送局カメラマン 和田幸一)

農作物被害は年16億円超

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早朝、ゴミ集積所のネットをくちばしで開けてゴミ袋を荒らしたり、電線から大量のふんを落としたり。カラスはしばしばやっかいものの鳥として見られています。特に、カラスによる農作物被害は深刻で、被害額は全国で年間16億円を超えます。

多くの果樹を生産している山形市もその一つです。これまで大きな爆発音で脅かしたり、天敵のタカを使って追い払ってみたりするなど対策がとられてきましたが、効果は一時的でした。なんとか農作物のカラス被害をなくせないかと、半年前、「カラス語」の研究者に相談を持ちかけました。「カラス語」とはどんなものなのでしょうか?

15年で2000以上の鳴き声を収集し分析

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「カラス語」を研究しているのは、神奈川県葉山町にある国立総合研究大学院大学の塚原直樹助教です。カラスの研究を始めてから15年の間に、2000以上の鳴き声を収集し、カラスの行動と照らし合わせて分類しました。

分析には犯罪捜査で使われる「声紋」で視覚化する手法をとりました。その結果、これまでに少なくとも40種類の「カラス語」があることを突き止めたのです。

大学時代に生物学を学んでいた塚原助教。カラスの生態の専門家だった担当教授から「カラスの鳴き声の分析」という研究テーマを与えられ、それから毎日のようにカラスの鳴き声を集めました。カラスを追いかけるあまり、夢に出てうなされたり、鳴き声の幻聴まで聞こえるようになるなど、カラスの姿にうんざりしていたそうです。それでも丹念に研究を続けると、次第に愛着を感じるようになり、長い年月をかけてようやく「カラス語」を分析できたそうです。

鳴き声はどんな意味?

ここで「カラス語」をいくつかご紹介します。

「カ~カ~カ~」
カラスが餌を見つけ、仲間に知らせる時に鳴く声。カラス語では「こっちに食べ物があるよ」という意味です。

「カッカッカッ」
鷹などの天敵が近づいてきたことを仲間に知らせたり、警戒する時に鳴く声。カラス語では「危険だよ」という意味です。

「クア~クア~」
ねぐらに帰ろうとするカラスが発する鳴き声。「安全だよ」という意味です。

私もこの取材を始めてからカラスの鳴き声を注意深く聞くようになりましたが、ふだんの生活の中でここまで聞き分けることはできませんでした。15年カラスと向き合ってきた塚原助教だからこそわかる「カラス語」なんです。

追い払うのではなく うまく利用できないか

塚原助教はカラスを脅かして追い払うのではなく、「カラス語」を使うことで、人に迷惑がかからない場所にカラスを案内できないかと考えました。

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カラスのねぐらになっている山形市役所前の街路樹に向かって、市役所からカラスの天敵、オオタカの声と、カラス語で「危ないよ」という鳴き声を流し、また、少し離れた場所にある建物からカラス語で「安全だよ」という鳴き声を流してみました。

するとカラスたちは街路樹から一斉に飛び立ち、「安全だよ」という鳴き声を流した建物の方向に移動していきました。「カラス語」でカラスたちをうまい具合に誘導できました。

「カラス語×ドローン」で誘導

手ごたえを得た塚原助教は、新たな作戦を試すことにしました。空に飛ばしたドローンから「カラス語」を流して、自然に山奥へと誘導するという作戦です。

しかし、塚原助教には肝心の「ドローン」の製作費がありませんでした。あまりに意外な発想だったため、大学から研究費が出なかったのです。

クラウドファンディングで資金調達

そこで「クラウドファンディング」で広く一般から経費を募集しました。ネットで研究の面白さを伝えられれば、応援してもらえるのではないかと考えたのです。支援してもらった人には、カラスの羽で作った「カラスペン」やカラスの剥製を送りました。

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その結果、およそ60万円が集まりました。製作にあたっては、モノとインターネットをつなげる「IoT」と呼ばれる技術を研究するシンガポール大学研究員の末田航さんとタッグを組み、3年かけて開発を進め、『カラス語を話す「ドローン」1号機』が完成しました。

「ドローン」で誘導 その成果は

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山形市郊外の畑が広がる広大な土地で誘導実験を試みました。元JALパイロットの大井千明さんがドローンを操縦するという本格的な布陣で臨みます。準備万端、いざ実験開始。

「ドローン」からカラス語で「助けて」と呼び寄せる鳴き声で、カラスの群れに近づきます。しかし、カラスは四方八方へ飛び立ちました。見たことのないドローンに驚いたようです。ドローンを飛ばして5分後、すべてのカラスがいなくなってしまいました。カラスを誘導できず、実験はうまくいきませんでした。

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塚原助教は「ドローンの機体を黒く塗ったり、カラスの羽をつけたりするなど、もっとカラスそのものに近づけ、警戒されないようにすることが必要だ」と国内初の実験の成果を振り返りました。

「駆除」ではなく「優しく誘導」

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最新技術を使った人とカラスの知恵比べ。塚原助教はさらに研究を進めて、今後ドローンに人工知能を搭載し、「カラス語」でカラスと会話をしながら誘導してみたいと話していました。

私は今回の実験を取材して、カラスの賢さを改めて実感したと同時に、空飛ぶカラスも人間がコントロールできる可能性があることに驚きました。人間にとって必要のない生き物を「駆除」という形ではなく、「優しく誘導したい」という塚原助教の取り組みに、大きな共感を覚えました。これから生み出される技術を駆使すれば、将来、人間とすべての生き物が望ましい形で共存できる世界が実現できるのかもしれません。

和田幸一
NHK山形放送局 映像取材
和田 幸一