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2020へメダリストを発掘せよ!

2020年の東京オリンピック・パラリンピックまで3年を切る中、日本の新たなプロジェクトがスタートしました。その名も「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト」。隠れた才能を発掘して多くのメダリストを生み出そうという国家的プロジェクトです。
「そんなに簡単にメダリストが生み出せるの?」と疑問もわきますが、戦略あり。キーワードは「お家芸を増やせ」です。
(ネットワーク報道部記者 佐藤滋)

メダリストの卵を発掘せよ!

オリンピックやパラリンピックのメダリストの卵を発掘しようという今回のプロジェクト、事実上のスタートとなったのが7月から全国各地で行われた体力測定会です。

日本体育協会などが呼びかけ、オリンピック競技の測定会だけでも全国の13歳から18歳までの若者およそ1000人が参加しました。

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ここで測定する12項目を見ると具体的な狙いがわかってきます。30メートル走や垂直跳びなどの基礎的な能力のほか、ウエイトリフティングのバーをまっすぐ持ち上げられるかや、ソフトボールでゴロを取ってスムーズに投げられるかといった具体的な競技を想定したテストが目立ちます。

プロジェクトでは対象の競技を水泳の飛び込み、ウエイトリフティング、女子のソフトボールと7人制ラグビー、それにボート、ハンドボール、自転車の7つに絞っているのです。

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お家芸に偏在 日本のメダル

なぜこの7競技なのか?

答えは日本がこれまでに獲得した金メダルの傾向にあります。日本が夏のオリンピックで獲得した金メダルは合計142個、そのうち90%近くは柔道、レスリング、体操、それに競泳に集中しています。

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「日本のお家芸」と呼ばれる競技ですが、さらにメダルを増やそうとするとこれ以外の競技で獲得する必要があります。ちなみに2020年東京大会の日本の目標は、世界3位。合計20個から30個ほどの金メダルが必要ですが、去年のリオデジャネイロ大会は12個。最高でも1964年東京大会と2004年アテネ大会の16個ですから、非常に高い目標です。

そこで選手層が薄い競技で才能を発揮できる選手を発掘し、新たな「お家芸」に育てれば短期間でのメダルが期待できるとして7つの競技が選ばれたのです。

メダリスト育成の方程式

測定会では、7つの競技の強化担当者が若者たちの一挙手一投足に目を光らせています。その1人が日本水泳連盟の飛び込みの強化部長、野村孝路さん。まなざしの先には選手強化の方程式が見えています。

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野村さんが測定会で特に注目するのは「倒立」のテスト。逆立ちの姿勢をどれくらいの時間保てるかを測るものですが、実は、飛び込みの選手に欠かせない能力です。飛び込みでは空中で回転したあと倒立に近い姿勢で入水すると高得点を得ることができるからです。

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この測定会のあと野村さんたちは次のステップの合宿に進んでもらうメンバーを選ぶため検討会議を開きました。

「イチオシの子は中学1年生の体操の子」「あの子は抜群だった。体操をやっていた」

ここで交わされた会話からは、野村さんが考えるメダリスト育成の方程式が見えてきます。「体操から飛び込みへ」です。

この日の会議で選考されたのは、およそ1000人の参加者のうちわずか7人で、その大半は倒立を日常的にこなす体操の経験者でした。日本のお家芸、体操。その最前線でしのぎを削る大勢の選手たちの一部でも飛び込みの世界で切磋琢磨してくれれば、世界レベルの選手の短時間での育成も夢ではない。野村さんはそう考えています。

“モデルケース”がすでに

取材を進めると今回のプロジェクトのモデルとなるような選手がすでに活躍し始めていることがわかりました。

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3年前、体操から飛び込みに転向した26歳の久永将太選手です。かつて久永選手は体操の強豪・順天堂大学で技を磨き、日本代表にもなりました。しかし、「お家芸」と言われ、選手層が厚い体操ではオリンピック出場はかなわず、大学で競技を引退することを決めていました。

転機は大学4年の冬、「飛び込みでオリンピックを目指さないか」という関係者からの誘いでした。その時の心境について久永選手は「もう一度、オリンピックに挑戦できる」という喜びからすぐに「プールに行ってみたい」と答えたといいます。

転向後、すぐに頭角を現した久永選手は、わずか2年で「室内日本選手権」で優勝。今では東京オリンピックで活躍が期待される選手にまで成長しました。

久永選手の強みはやはり「倒立」です。試しに久永選手に倒立をやってもらったところ持続時間は1分9秒。飛び込みのトップ選手に匹敵する能力が備わっていました。

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また、小学2年生から体操で磨いてきた「空中で体を自在に操る能力」も生きています。久永選手は東京オリンピックを見据えた今、この能力を生かした大技に取り組んでいます。体を3回ひねりながら前方に1回転し、さらに1回転半回って入水。日本の選手は誰もできず、海外でもオリンピックの金メダリストなどに限られる高難度の技です。

3年後の東京大会を目指す久永選手は「2つの競技で日本代表になるってかっこいいじゃないですか。東京オリンピックで『早くやってのけたい』という気持ちです」と語ってくれました。

一人一人の個性を発掘

今回のプロジェクトを取材した私自身、小学3年生から大学卒業まで13年間、「野球一筋」でやってきましたが、取材を始めてからは心のどこかで「ほかの競技をしていたらどんな今があったのだろう」とふと思う時もありました。

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プロジェクトを進めているスポーツ庁のトップで、金メダリストでもある鈴木大地長官は、次のように話しています。

「さまざまな競技があるのに、それを知らない選手が結構いると思う。自分がどの競技に向いているのかわからなかったり、今やっている競技に100%合っていなかったりすることも多いのではないか。そういった選手が選手層の薄い競技に転向することを後押しすれば、いい結果が出せるはずだ」

今回始まった新たなプロジェクト、単にメダルの数を増やすだけにとどまらず選手一人一人の豊かな個性を発掘し日本のスポーツのすそ野を広げる機会になってほしいと感じました。

佐藤滋
ネットワーク報道部記者
佐藤滋
平成15年入局
スポーツニュース部時代に
五輪取材を2回経験