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Jアラート どうする情報提供のあり方

8月29日、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが北海道の上空を通過し、およそ2700キロ飛行して太平洋に落下しました。政府は発射後、速やかに「Jアラート=全国瞬時警報システム」を使って、対象の自治体や住民に情報を伝えました。
一方で、Jアラートでの避難の呼びかけに対し、住民からは「どこに避難していいかわからない」など戸惑いの声も聞かれました。緊急の情報提供には伝えられる内容に限界もありますが、専門家からはJアラートの内容に改善すべき点があるという指摘が出ています。
(社会部記者 中村雄一郎 宮下大輔)

Jアラートって何?

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Jアラートは、今回のように弾道ミサイルが発射された場合のほか、津波警報が発表された場合など、緊急の事態に政府が国民に情報を伝えるためのシステムです。

情報は人工衛星を通じて自治体に送られ、防災行政無線で住民に放送されるほか、携帯電話会社を通じて個人の携帯電話にメールで伝えられます。テレビ局も情報を伝えます。

北朝鮮は弾道ミサイルの発射を繰り返していますが、Jアラートで情報を伝えるケースは、発射されたミサイルが日本の上空を通過、または日本の領土・領海に落下するおそれがある場合となっています。

発射の1報は4分後

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今回の発射で情報はどのように伝えられたのでしょうか。
北朝鮮が弾道ミサイルを発射したのは、早朝の午前5時58分ごろでした。政府は、アメリカの早期警戒衛星や自衛隊のイージス艦がとらえた情報などをもとに、4分後の午前6時2分に発射の1報をJアラートで伝えました。

Jアラートでは、あわせて避難の呼びかけも行われ、対象地域として、予測された飛行コースをもとに北海道から長野県にかけての12の道県が挙げられました。

住民から戸惑いの声

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発射の情報は、ミサイルが日本の上空に到達するより前にいち早く提供されました。
一方で、Jアラートの画面は「北朝鮮からミサイルが発射された」ことと「頑丈な建物や地下に避難して下さい」という呼びかけを伝える内容で、12分後に「上空通過」という次の情報が提供されるまで、ミサイルが具体的にどのように飛行しているかわからない状態が続きました。

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これに対し住民からは「『逃げてください』と言われても、どこに逃げていいかわからない」とか「駅のホームにいて怖くてどうすればいいのかわからなかった」などの戸惑いの声が多く聞かれました。

不意打ち的との受け止めも

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なぜこのような混乱が生じたのでしょうか。危機管理が専門の防衛大学校の宮坂直史教授は「もう少しきめ細かい情報提供が必要ではないか」と指摘します。

宮坂さんは「発射の情報」と「避難の呼びかけ」を伝えるJアラートの1報について、「日頃から北朝鮮をめぐる国際情勢に関心を持っている人は別だが、多くの人にとって今回は不意打ち的に情報が伝わってきて、『よくわからないが不気味なことが起きた』という感じだったと思う。中には、自分のところに飛んでくるかのように受け止めた人もいて、戸惑いの声につながったのだと思う」と話しました。

「きめ細かな情報提供を」

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そのうえで宮坂教授は、自衛隊のミサイル防衛のシステムでは発射後まもなく飛行コースの予測ができることを踏まえ、「政府はミサイルがどこを飛行しているかわかっているので、きめ細かく情報を提供すれば、住民に与える余計な不安や心配を減らせるのではないか。情報提供はできるだけリアルタイムに近づけるべきで、それを技術的にどこまで改良できるのかが今後の課題になる」と述べ、「発射」と「上空通過」の情報の間に「通過の見込み」など情報を加えてはどうかと提言していました。

「危機のレベルに応じた情報提供を」

また、別の専門家は現在の情勢を踏まえることが重要だと言います。

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海上自衛隊の元海将で、弾道ミサイル防衛に詳しい金沢工業大学虎ノ門大学院の伊藤俊幸教授は、「北朝鮮のいちばんの目的は、グアムやアメリカ本土に届く弾道ミサイルの開発であって、ミサイルと核の両方を持つことでアメリカから攻撃されないための平和条約の締結に向けた交渉が対等にできると考えている。発射を繰り返しているのは、実際に飛ばして性能を確かめるためだ。試験のための発射なので、現状では弾頭部分に爆弾を積んでいる可能性は低い。北朝鮮がいきなり日本を攻撃するのではないかという懸念があるかもしれないが、日本を攻撃すれば同盟国のアメリカから反撃され国の崩壊を招くため考えにくい」と指摘します。

部品落下 どんな状況想定される?

しかし、試験のためとはいえ、ミサイルが日本の上空を通過する場合、何らかの理由で部品などが落下するおそれがないとは言い切れません。万が一、落下する場合、どのような状況が想定されるのか、伊藤教授は次のように話します。

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「部品などが数百キロのはるか上空から落下してくるケースが考えられるが、大気圏でほとんどが燃え尽きてしまう。また、日本に落下するおそれがあると判断された場合は、イージス艦やPAC3が迎撃するので、被害を及ぼすものが落下してくることはほとんどないのではないか」

「避難呼びかけの内容 改善を」

伊藤教授はそのうえで、今後、Jアラートで情報を伝えるケースが起きた場合は、避難の呼びかけの内容を改善する余地があると指摘します。

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「家の中にいる人が『頑丈な建物や地下に避難して下さい』と言われてそのとおりに行動すると、家の外に出てかえって危険になってしまう。家の中にいるのであれば、カーテンを閉めて窓ガラスから離れるか、トイレや風呂場など柱が丈夫な空間にいれば、けがをする可能性は減らせる。外にいて周りに建物がない場合は、木の陰に隠れて身をかがめるだけでも意味がある。最悪のケースを想定することは危機管理上、大事なことだが、正しく想定しておかないと不安をあおることになりかねない」と話していました。

政府「必要なタイミングで伝達できた」

内閣官房の担当者は今回の情報提供について、「ミサイルが飛来する前に緊急情報を発信でき、必要なタイミングで情報が伝達できたと考えている。より正確かつ迅速な情報発信ができるように不断の努力をしていきたい」としています。

中村雄一郎
社会部記者
中村雄一郎
宮下大輔
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