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空から氷や部品が!航空機からの落下物

もし上空から氷の塊や金属部品が落ちてきたら…。
実は、成田空港の周辺では、航空機からの落下物がかねてから問題になっています。しかし、その実態や対策については、あまり知られていません。 東京オリンピック・パラリンピックを控えて、成田や羽田で発着枠拡大に向けた準備が加速する中、安全対策はどうなっているのか。今回、国が行っている落下物調査の現場を初めて取材することができました。

こぶし大の氷塊 重さ12キロの部品も

成田空港周辺では、航空機からの落下物は、昭和53年の開港以来、わかっているだけで158件に上っています。

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これまでけが人は出ていませんが、農業用ハウスや屋根瓦が壊れる被害が出ています。

落ちているのは、氷の塊のほか、金属性の蓋やバネ、翼まわりについているカバーやゴム性の部品などです。

最も重いものでは、平成20年に、重さ12キロのパネルが千葉県香取市の畑に落下した例もあります。

ちなみに、被害が出た場合は、ものを落とした航空会社が補償しますが、特定できなかった場合は、落とした可能性がある複数の航空会社が分担して補償する仕組みになっています。

最近は年2件程度で推移していて、平均すると「10万便に1回」とごく少ないものですが、空港周辺の住民の気は休まりません。

目の前に落下で移転も検討

成田市荒海地区に住む農家の糸川幸一さん(67)は、飛行ルートの真下に自宅があります。

糸川さんは6年前、農業用ハウスで稲の苗に水やりをしていたとき、3メートル先で「ブスッ」という大きな音を聞きました。

駆け寄ると、金属製のバネが落ちていて、ハウスには穴が開いていました。

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バネは長さ20センチ、重さ500グラムあり、国の調査でアメリカの航空会社の機体から落ちたものと判明しました。

糸川さんは「直前まで自分がいた場所だったので、身震いがした」と振り返っていました。

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自宅周辺では、その後も部品や氷の落下が続きました。

糸川さんは、航空機の騒音については長年、我慢してきましたが、これを機に初めて移転を考えるようになったと言います。

法律には落下物を根拠とした移転の補償はないため、糸川さんは同じ地区の人たちと国土交通省や成田空港会社に対応を求めていて、「落下物をゼロにするのは難しいが、住民の移転がかなえば、落下物被害はゼロにすることができる」と訴えています。

独自調査1「脚下げ」

落下物を防ぐために、どのような対策が取られているのでしょうか。

一義的には、航空会社による国際基準で決められた整備と点検にかかっていますが、成田空港では、国と空港会社が、世界的にも例がない独自の調査を行っています。

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その1つ、空港から南に20キロ以上離れた千葉県山武市の海岸で行われた調査では、4人の調査員が、着陸しようとする旅客機が海上で車輪を出しているかどうかを確認していました。

航空機が格納されている車輪をおろす際の衝撃で、機体に付いた氷などが落ちる可能性があることから、成田空港では、風向きによって陸地を避け海上で車輪を出すことを義務づけています。

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調査は、このルールがきちんと守られているかどうかを確認するために行われるもので、毎年夏と冬、合わせて6000機をチェックします。

車輪を早く出すと空気抵抗が大きくなり、余計に燃料が消費されます。

それに、航空機の安全性は、このルールが導入された20年以上前に比べて大きく向上していることもあり、航空関係者の間で評判はよくありませんが、調査のかいもあって、ほぼすべての便が順守しています。

独自調査2「氷塊チェック」

もう1つの調査は、到着したばかりの航空機の胴体に氷が付いていないかを確認するというものです。毎年1月に行われています。

実は、氷が落下するケースは、部品の2倍近くにも上っています。

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では、氷ができるのはなぜでしょうか。

機体の腹の部分には、余計な水を捨てる穴や調理場で使う水の給水口などがあります。

点検が不十分だった場合などに、ここから漏れ出た水が、上空で氷となることがまれにあるのです。

部品と違い、氷はすぐにとけてなくなってしまうため、調査は時間との勝負です。

調査員10人が駐機場に待機し、高さ60メートルの建物にいる別の3人から航空機が到着するたびに無線で連絡を受け、到着後、時間をおかずに効率よく調査できる態勢を取っています。

発見した氷は、どんな小さなものでも記録し、採取します。

氷が実際に落下した場合、航空会社の特定が難しいため、調査を通じて注意を促し、整備や点検に役立ててもらう狙いがあります。

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ことしの調査では、1700機のうち37機で氷が見つかりました。

大半は数センチほどの小さなものでしたが、中には大きな塊も発見されました。

最新の科学技術が詰まった航空機の裏で、地道な調査が続けられていました。

3年後には羽田で「都心上空ルート」

国土交通省によりますと、国内では過去10年間、落下物の明確な事例は、成田空港の周辺以外では確認されていません。

成田では、いわゆる“成田闘争”の歴史から、住民の関心が高く、落下物の事例が把握されやすいという事情もあります。

ただ、海外では、統計のあるイギリスとカナダで年間30件前後も起きていて、中には人に当たってけがをしたケースも出ています。

さらに、こうした懸念は、今後、広がる可能性が出ています。

それは、東京オリンピック・パラリンピックがある2020年に、羽田空港の飛行ルートが変わり、風向きによって午後の4時間、着陸機が都心上空を縦断するルートを飛ぶことが決まっているからです。

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このため、国は、成田にならう形で、羽田でも今月から新たに氷塊調査を始めていて、チェック体制を強化しています。

落下物について、全日空の元機長で航空評論家の樋口文男さんは「便数が伸びる中で、落下物が増えていないのは、新しい機体の導入やメーカーによる部品の改良に加え、こうした国の調査など関係者の努力が進んでいる成果でもある。さらに、ゼロに近づけるべく、メーカーや航空会社、国をまたいだ形で、事例や原因の共有が必要だ」と指摘しています。

今後、空の便がさらに増えていくのは確実なため、安全を守るための一層の対策が急がれます。

高橋広行
成田支局
高橋広行 記者