風疹の最新ニュース

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50年を経ても繰り返す 風疹の流行を止めたい 2022年12月07日


妊娠中に感染するとお腹にいる赤ちゃんの目や耳、心臓などに障害が出る恐れがある「風疹」について、改めて知ってもらい、中高年の世代に予防接種を呼びかけるため、12月11日、患者会が主催して演劇を上演することになりました。

上演されるのは前回の東京オリンピックが開かれた1964年に沖縄で大流行した風疹で、障害を負った高校生たちが、困難を乗り越えて甲子園を目指した実話に基づく舞台です。関係者を取材すると、50年あまりを経ても繰り返されている風疹の流行をなんとか止めたいと願う人たちの強い思いがありました。

クーポンが使われない

国が「東京オリンピックが開かれる2020年までに患者をゼロにする」としていながら、いまも達成できていない感染症が「風疹」です。

風疹はこの10年ほどは子どものころワクチンを接種する機会がなかった40代から50代の男性を中心に数年ごとに流行を繰り返しています。
そのため、国は、1962年4月2日から1979年4月1日までに生まれた男性を対象に無料で抗体検査やワクチン接種を受けられるクーポンを配布してきました。
しかし、新型コロナウイルスの影響もあって、クーポンの利用が進まず、昨年度末としていた期限は3年延長されました。

風疹は妊娠中の女性が感染するとおなかの中の赤ちゃんの目や耳、心臓などに障害が出る「先天性風疹症候群」になる恐れがあります。その確率は妊娠初期ほど高く妊娠1か月では50%以上と言われています。そうした子どもたちの親などで作る「風疹をなくそうの会」は、コロナで感染症の怖さを多くの人が知ったいまだからこそ、改めて、風疹の怖さを知ってほしいと、12月千葉市で舞台の上演を企画しました。

上演されるのは1964年、本土復帰前の沖縄で大流行した風疹によって難聴などになった高校生たちが困難を乗り越えて甲子園を目指した実話に基づく舞台「*はるかなる甲子園」です。


50年前の沖縄でも


当時は妊娠中の女性が相次いで風疹に感染し、その結果、沖縄では、400人を超える子どもたちが耳や心臓などに障害を負って生まれました。

成長した子どもたちは期間限定で設置されたろう学校で硬式野球部をつくりましたが、ろう学校が甲子園に出場することは認められていませんでした。作品は閉ざされた甲子園への道を切り開こうとする生徒たちや、学校の関係者らの姿を描いています。

公演開催の活動の中心になった大阪・守口市の大畑茂子さんは、自身も妊娠中に風疹に感染し、三女が難聴で生まれました。医師から中絶をすすめられるなどつらい思いを経験したことから同じような思いを他の人に二度と味わってほしくないと、啓発活動を続けています。

「はるかなる甲子園」は、本が出版されたあと、漫画や映画にもなって話題を集め、関西芸術座は1997年から独自に舞台を上演していました。
大畑さん自身、2018年にこの舞台のことを知り、そのころ再び風疹が再流行したことから、劇団に公演を依頼しました。

依頼する際、大畑さんが伝えたのは「耳の聞こえない子どもたちがよく頑張った」という話で終わらせてほしくないということでした。障害は風疹の流行が原因で、この舞台を通じて風疹の流行を絶対に繰り返してはいけないという事実を伝えてほしいと訴えたのです。

劇団で制作に携わっていた鴻池央子さんも、それまで舞台は“高校生の懸命な姿”に焦点をあてていたといいます。この舞台の背景については知っていましたが、実際に風疹をなくそうと活動している大畑さんの話を聞いて衝撃を受けました。

(鴻池さん)
この作品を若者たちがハンデがありながら壁をのりこえ、努力している姿を主軸にとらえていました。しかし大畑さんの『風疹をなくしたい』という思いを知って、演じる側も意識が変わりました。俳優たちもより深い部分で発見があって、舞台はどんどん成長させてもらっている感じがします

以前の公演の様子


風疹をなくそうの会が主催する公演は2019年に東京と大阪で行って以来になります。今回、千葉市の舞台で鴻池さんは初めて念願の「母親」役を演じます。

(鴻池さん)
モデルは大畑さんです。自分自身傷つくことがあっても子どものために負けないで前へ進んでいく姿を演じられたらうれしいです


「まだ風疹の被害は現在進行形」


当時、沖縄で「風疹児」と呼ばれていた子どもたちの教育に携わっていた木村まち子さんによりますと、ろう学校が廃校になったあと、子どもたちは自立のための十分なサポートを得られず、生活に苦労した人も少なくないといいます。その後の追跡調査もきちんと行われておらず、支援も届きにくい現状です。名簿もほとんど残されていない中、子どもたちやその家族の証言を集めて本を出版するなどして、沖縄の風疹の歴史をきちんと残したいと考えています。

(木村さん)
彼らにとって風疹は過去の話ではなくまさに今も続く現在進行形の話なのです。風疹が再流行したときに、なぜこれまで沖縄の風疹の歴史がきちんと伝えられてこなかったのだろうかと思いました。流行が繰り返されていることについてなんとかしなくてはいけないと声をあげていきたい。当事者の思いにこれからもできるだけ寄り添い“沖縄風疹児”たちの実態を伝えていきたいと思います。

何回同じことを繰り返すのか


舞台の上演に向けて、中心になって企画した大畑さん。風疹が再流行する前までは、自分が風疹にかかって娘が難聴になった、と自分を責め、事実を隠して生活していました。50年を経てもなお風疹の流行が繰り返されていることに憤りを感じています。
またいつ風疹が流行するかわかりません。大畑さんは、いま改めてその怖さを知ってほしいと呼びかけています。

何回同じことを繰り返せばいいのでしょうか。悲しい思いをする人を二度と出したくないです。なかなか風疹をなくそうという目標を達成できずくやしくて情けないです。ぜひ今回の舞台をひとつのきっかけにして再び風疹の怖さを知ってほしいです

舞台「はるかなる甲子園」は、12月11日に千葉市生涯学習センターで午後1時から上演される予定で、入場は無料となっています。

※遥の異体字で「謡」のつくりに点1つのしんにょう※