震災後に大がかりな区画整理も……
いまだに「3割が空き地」

「親から譲り受けた土地を売りたくなかった。諦めて、売りたいと思うようになったのに、買い手が誰もいない……」

東日本大震災で津波の被害にあった、宮城県気仙沼市の女性から私が聞いたことばです。

この女性が所有しているのは、区画整理をした「空き地」です。津波の被害を受けた岩手、宮城、福島の3県では、住宅を再建するために区画整理をしましたが、およそ3割が活用されず、空き地のままです。

震災から12年、被災者の生活環境が変化するなか、空き地を売ろうとしても売れない実情が見えてきました。(仙台放送局記者 武藤雄大)

被災3県 整備面積730ヘクタール

東京ドーム155個分で、およそ730ヘクタール。

震災の津波で被害を受けた土地のうち、住宅を再建するため、岩手、宮城、福島の3県で、自治体が中心となって区画整理を行った地区の面積です。17市町村の合わせて50地区で行われ、一連の事業は2021年までにすべて完了しました。

こうした地区のなかには、住宅が建ち並び“新しい街”として生まれ変わったところもあります。

宮城県名取市の閖上地区は、地盤のかさ上げもして土地を整備し、小中学校や商業施設なども含めた区画整理が行われました。

名取市 閖上地区

2022年12月末時点の国土交通省のまとめでは、この地区の土地の利用率は97%。110万近い人口を抱える仙台市に隣接し、交通のアクセスもよいことから、若い世代や子育て世帯にも人気のエリアとなっています。

市の担当者も「いくつもの不動産会社から『空いている土地を教えてほしい』と依頼がある」と打ち明けます。

区画整理をした50地区のうち、閖上地区を含めた14地区は、土地の利用率が90%を超えています。

閖上地区の商業施設

空き地に悩む地域も

しかし、すべての地区が順調なわけではありません。空き地の割合が大きい地区もあります。

岩手県陸前高田市は、今泉地区で65%、高田地区で59%といずれも半分を超えています。

また、山田町の大沢地区では42%、福島県いわき市の薄磯地区では41%などとなっていて、50地区全体で見ても28%が空き地のままです。

震災から12年が経過するなか、世代が替わったり、別の場所で生活を再建したりしたことが背景にあると見られています。

宮城県北端の気仙沼市では、区画整理を行った場所のうち、鹿折地区と南気仙沼地区でいずれも4割近くが空き地のままです。

気仙沼市 鹿折地区

鹿折地区の斉藤喜代子さん(70)の土地も、いまだ空き地です。

震災による津波で、沿岸部にあった自宅を失い、生まれ育った家など2棟も住めなくなりました。

斉藤喜代子さん
「震災当日は孫の誕生日で、お寿司とケーキを買いに出ていましたが、戻った時には自宅付近は皆いなくなっていて、近所の人の車で避難しました。家自体は流されなかったものの、使いものにはならなくなってしまいました。(震災の)翌朝、両親が住んでた家の方を見ると、まだ火が出ていました」

震災後、斉藤さんは、海から離れた場所に新しい家を建てました。

さらに、被災した2棟の土地を所有していた父が2013年に亡くなったため、斉藤さんは土地を譲り受けました。そして、新たに区画整理をした鹿折地区の土地と交換。この地区の区画整理は、2020年に完了しました。

土地所有が負担に……

斉藤さんの土地

斉藤さんは土地を生かそうと、当初は駐車場にしましたが、周りに家が建っていなかったこともあり、利用者はほぼゼロ。

さらに、被災した元の土地では減免されていた固定資産税が、区画整理をした鹿折地区では課せられるようになったため、新たな負担となりました。

斉藤さんは方針を変え、賃貸、そして土地売却をと不動産会社に足を運んでいますが、いまも買い手がついていません。

「親から譲り受けた土地だから、はじめはできれば貸したりして、維持していきたいと思っていました。子どもに譲ることも考えたけれど、維持していくのは大変だし、同じ思いを子どもにさせるだけだなと。固定資産税の負担も重なって売ることにしたんですけど、だれもいない状態で……。もう、半分諦めてます」

斉藤さんが相談している地元の不動産会社によると、この地区の賃貸や売却の相談はこれまでに10件ほどで、成約に結びついたケースは2、3件とのことでした。

畠山英輝 社長
「問い合わせを聞いていると、もともと住んでいた人たちの再建や土地探しは、落ち着いたと感じます。この地区では、取引の動きが少し遅いし、まだ時間がかかるというか、時間をかけてもどうかな、と感じています」

陸前高田市も半分以上が空き地のまま

「空き地」の活用を進めようと、対策に乗り出している自治体もありますが、顕著な効果はまだ現れていないのが実態です。

陸前高田市は、沿岸部の2つの地区で1600億円あまりをかけて区画整理をしました。合わせて2100戸あまりの整備を計画していましたが、いずれの地区も半分以上が空き地のままです。

高台に移転したり、災害公営住宅に住み続けたりする人が増えたため、住宅を建てるニーズが想定を下回ったと見られています。

空き地が目立つ陸前高田市の造成地(2021年3月撮影)

「空き地バンク」などで対策に乗り出すも……

市はこうした事態を改善しようと、2019年に土地を貸したり売ったりしたい人と、利用したい人を結ぶ「空き地バンク」を始め、この制度を通じて土地を取得して住宅を建てる場合には、5年分の固定資産税に相当する分を地域商品券で助成する制度も設けました。

しかし、ことし2月時点で、空き地の登録551件に対し、取り引きの成立は56件にとどまっています。

陸前高田市の用途変更の計画

さらに市は、土地の用途を拡大することで活用を促そうと、ことし2月、工場なども建てられるよう制限を緩和したほか、4月には、土地の活用を一元的に担う部署を設けて取り組みを強化します。

ただしそれでも、短期間で改善する見通しは立っていないということです。

陸前高田市都市計画課 高橋宏紀 課長
「12年という経過のなかで、高齢化したり、世帯状況が変わったりして、土地が維持できなくなってきている人もいると思う。特効薬といえるものはなく、具体的な解決策はみえていないので、10年から20年かけて少しずつ活用範囲を広げていくしかない」

「地権者と行政の協力」が解決のカギ

この現状について、被災地のまちづくりに詳しい東北大学大学院の増田聡教授は、時間とともに、被災した人たちの意識が変化したと分析しています。

東北大学大学院 増田聡 教授
「被災当初の状況から見ると、将来のいろいろな選択肢を残す意味で『土地を所有しておきたい』と思った人が多いことは自然な判断だと思う。当初『もう一回、現地で働き直そう』と思っていた人たちも、10年、15年とたつなかでリタイアしてしまい、収入が入ってこなくなる。『一軒家を建てて持ち続けることが果たしてよいのか』と変わっていったのではないか」

その上で、自治体が固定資産税を減税する代わりに、その分を、地権者がまちづくりを行う事業者に支払うことで地域の活性につなげられるのではないかと指摘していました。

そして、区画整理の結果を生かすためには、住民も加わって、今からでも、まちづくりと連動させた計画を作ることが欠かせないとしています。

「自然災害からの復旧で、どの部分まで公費を入れて、どの部分まで民間の力に委ねるのか、もう少し自由度の高い議論があってもよかった。復興で取り残したものがどこにあるのか、今後10年ほどにわたり、何をモニタリングし、どういう属性の人がどれぐらい事業を展開しているのかなど、きちんと見ながら、再生計画のようなものを作っていくのが重要だ」

取材後記

震災から12年がたち、被災者のニーズも変わるなかで、斉藤さんのように、初めは守りたかった土地が、次第に負担となり、手放そうと決心したものの、その見通しすら立たない現状が見えてきました。

自治体も活路を見いだそうと、対策をやつぎばやに講じていますが、暗中模索で出口が見えていないのが実態で、「答えは見えない」と話した課長の姿が、問題を解決することがいかに難しいのか、物語っていたように感じます。

東日本大震災の復興で、国がインフラなどハード面は「おおむね完了した」と言うなか、一人ひとりの目線に立つと「取り残された課題」が重くのしかかっています。

行政だけでなく、住民や企業が一緒になって、目指していた復興に向けた「芽」を見落としていなかったかを検証し、まちづくりと連携した計画を作っていくことが、必要だと思います。

顔写真:武藤 雄大

仙台放送局記者

武藤 雄大

2017年入局
山形局を経て仙台局に。宮城県政など行政を中心に取材
日本酒激戦区・東北の各地を歩きながら日々「味わい」を学ぶ