NEW2022年07月06日

円安を追い風に 越境ECに注目

1ドル=130円台と、歴史的な円安水準となっている中、日本企業や個人の間で参入が増えているのが「越境EC(Electronic Commerce)」です。
「越境EC」とは、国をまたいだネット通販による取り引きのことを指します。
越境ECの最新の動き、経済部の寺田麻美記者、教えて!

足もとでは円安基調ですね。

「越境EC」にも、影響は出ているんですか?

円安を背景に「越境EC」の売り上げは増加しているとみられます。

越境ECのサポートサービスを行う国内最大手の「BEENOS」によると、円安が進んだことし3月、大きな変化が出たそうです。

この会社では、3月11日の前後10日間で、海外からの購入金額が18.8%と大幅に伸び、購入者数も10.9%増えたということです。

寺田記者
寺田記者

円安が、売り上げや購入者の増加につながっているんですね。

「越境EC」にとって、円安は追い風となります。

「越境EC」では、日本の企業や個人が、ネットを通じて、商品をアメリカや中国などの海外の消費者に売ります。

このため、国内の商品を輸出しているのと同じになり、円安はプラスに働くからなんです。

新型コロナウイルスの影響で海外旅行に行きにくい状況が続くなど、世界的に「越境EC」を利用する人が増えていた中で、日本では円安基調になったことで、大きな影響が出ていると見られています。

寺田記者
寺田記者

越境ECは、企業にとって、新たなビジネスチャンスになりそうですね。

そうですね。

国内企業の間では、新たに「越境EC」に乗りだそうという動きが広がっています。

世界190の国と地域でECを展開するアメリカの「イーベイ」の日本法人によりますと、円安が進んだことし3月は、国内の新規の販売業者の数が、2月と比べて37%伸びたということです。

また、「BEENOS」でも、ことしの4月から5月にかけての新規の越境ECの導入件数は、去年の同じ時期と比べて、およそ3倍に伸びたということです。

企業の中には、円安の影響で原材料費などが上昇して厳しい状況にあるものの、それを逆手にとって海外に向けて商品を売り出そうという動きも活発になっています。

寺田記者
寺田記者

参入している企業は、どんな業種が多いんですか。

中古カメラを扱う企業や、アパレル、日本の雑貨を販売する企業など業種はさまざまです。

人気の業種の1つが、“日本ならでは”のものを扱ったものです。

寺田記者
寺田記者

たとえば?

映画などのエンタメ事業を展開する東宝の子会社が運営するオンラインショップでは、ことし4月に初めて、海外向けに商品の販売も始めました。

ギガンティックシリーズ ゴジラ(2016) ゴジラ・ストア限定 レッドクリアver.

このうち全長およそ83センチのゴジラの特大フィギュアは、5月に国内外で販売を開始したところ、海外からの注文が相次ぎ、全体のおよそ3割が海外からの購入だったということです。

東宝ステラの宮嶋広樹EC事業室長は、「新型コロナの影響でインバウンド需要がなくなったこともあり、『越境EC』化したいと思った。海外市場でもゴジラへの熱は高く、今後は、海外でのトレンドをつかんで、新商品の開発も進めていきたい」と話していました。

寺田記者
寺田記者

日本ならではのもの、ほかにもいろいろありそうです。

神戸市に住む若林誉弘さんは、2年前から、車の整備に関わる仕事をするかたわら、主にアメリカに向けて、趣味で集めていた日本車のパーツの販売を始めました。

若林さんによると、日本車が登場するアメリカ映画の影響で、マニアの間で日本車をカスタマイズするのがはやっているそうで、修理のため、日本車の部品のニーズが根強くあるそうなんです。

こうした背景に加えて、円安が進んだことなどから、ことし1月から6月までの売り上げは、去年の同じ時期と比べて、およそ2倍に伸びたそうです。

若林さんは、「円安の効果を期待して、新規の販売業者も増えてきているので、カスタマー対応を充実させて、ファンを増やしていきたい」と話していました。

寺田記者
寺田記者

円安を追い風に、日本企業などによる越境ECの利用は、これからも広がりそうですね。

もともと、海外の消費者が「越境EC」を通して、日本の商品を買う購入額は増加傾向にあり、経済産業省の推計によりますと、
▽2020年の中国の消費者による日本事業者からの越境EC購入額は、前の年と比べて17.8%、
▽アメリカの消費者からの購入額は7.7%増えたということです。

世界の越境ECの市場規模は、年平均で成長率がおよそ30%ずつ拡大するという予測データもあり、拡大の勢いは今後もさらに続きそうです。

寺田記者
寺田記者

でも、海外の消費者に販売するということは、いろいろなハードルがありそうです。

実際のところ、「越境EC」は、現地語での対応や、安全な決済方法での対応、現地での制度面の把握など、さまざまなハードルがあります。

一方で、「越境EC」の拡大に伴い、サポートするサービスも増えてきています。

多くのものを輸入に頼る日本では、急激な円安はマイナスな部分もありますが、攻めの姿勢で視点を変えてみると、円安は、日本のよい商品をアピールするビジネスチャンスなのかもしれません。

寺田記者
寺田記者