高校生がなぜ金融?
「きのう子ども(高校生)と『運用』の話で盛り上がっちゃったよ」
友人や同僚からこんな話しを聞いたらどう感じますか?
うちはないない?
いや、近い将来、あるあるになるかもしれません。
子どもたち、そして大人たちが金融を学び始めているんです。
いったい何が起きているの?
サタデーウオッチ9の長野幸代キャスター、教えて!
金融って難しいイメージがあるんだけど、子どもたちが学び始めているって本当?
長野記者
本当です。
まず、こちらをご覧ください。
『最初の元本のみに利子がつくことを単利、利子も運用すれば利子にも利子がつくことを複利という』
『元本が2倍になる金利と年数の関係=72の法則』
『1つの資産だけに投資するより、値動きの異なる複数の資産に分散投資を行うことで、価格の変動が小さくなる』
いずれも投資に関する内容です。銀行や証券会社で使われる用語みたいですよね。これらが高校の授業で紹介されることになるかもしれないんです。
しかも「家庭科」で。
え、高校?家庭科?どういうことですか?
長野記者
実はこの春から高校での金融教育の内容が拡充されることになったんです。これまでも授業で金融に触れることはありましたが、国の高校学習指導要領が改訂され、家庭科に「資産形成」の視点が盛り込まれたんです。
家計のお金に関することだから、家庭科というわけです。
ちょっと意外ですよね。
金融庁が授業をする先生の参考になるようにとまとめた「金融経済教育指導教材」には次のような内容が載っています。
株式、債券、投資信託といった金融商品の特徴を学ぶ以外に、資産をためる・増やす方法やシミュレーション、トラブルの事例などがあります。
お金に関することって大人になってから自然と理解するのでいいんじゃない?どうして高校生が授業で学ばなければならないの?
長野記者
この学習指導要領を改訂した文部科学省がいくつか背景を挙げているんですが、大きな柱は「成人年齢の引き下げ」と「長寿化」だと思います。
ちょうどこの4月から成人年齢が18歳に引き下げられましたよね。18歳からクレジットカードをつくることができるようになり、この世代が利用できる金融サービスは増えることになります。ただ、同時にお金に関するトラブルも高まるかもしれないと心配されているんです。
そして「長寿化」。
人生100年時代とも言われていますが、所得は伸び悩んでいます。高齢になってから受け取る年金をめぐっても、最近、大手生保が運用利率を引き下げるというニュースがありましたよね。
昔のように「会社に入り、定年まで勤め上げれば安泰」とはなかなか言い切れない時代になっています。そこで、金融トラブルに巻き込まれるのを避け、お金の特徴をわかったうえで、将来のプランを立てていくには、若いころから自分で考える習慣を身につけておく必要があると指摘しているんです。
子どもに金融の授業で習ったことを質問されても、答えられないかも…。
長野記者
実際、そう感じている人も多いようです。
例えば投資。
進路情報のサービスを手がける会社が先月行ったアンケートでは「子どもから『投資って何?』と聞かれた時、どの程度説明できるか」という質問に対して、答えはこうでした。
保護者の3人に1人が、投資のことを聞かれても「説明できない」と答えています。たしかに日本はアメリカと比べると株式などの投資が少ないというデータがあります。
最近ではスマートフォンのアプリを使った少額からの株式投資のサービスも始まるなど、ひところと比べると投資は身近になりました。ただ、価値が上下し、投じたお金が目減りするおそれがある株式などより、低金利でも預貯金にお金を“置いておく”方が安心できる、こう考える人も多いのです。
質問されたらちゃんと答えたい。でも詳しくないし…どうしよう。
長野記者
実際、高校生の金融教育の拡充を自分の“学び直し”のきっかけにしようとしている人も多いようです。
先月、東京証券取引所が開いた「親子金融セミナー」(オンライン)には募集の1.5倍にあたる150組の応募があったということです。
「お金のことは自分で稼ぐようになってから…」
こうした考えは江戸時代に広がったと指摘する金融の専門家がいます。
先の進路情報サービスの会社が先月、保護者に「家庭の中でどの程度金銭に関する話をするか」とアンケートで尋ねたところ、次のような結果でした。
高校で金融教育が本格的に始まり、大人による学び直しが広がってくると、数百年続いた「家でお金の話はタブー」という価値観が変わるかもしれません。
でも、最初に紹介された「複利」とか「分散投資」とか聞くと、金融教育といっても、結局は投資のテクニックを学ぶことになるだけような…。
長野記者
もちろん、学校での金融教育のねらいはそうではないので、学ぶ側が「本質は何か」を意識することが大事だと思います。
では、金融教育は結局、何を身につけるべき学習なのでしょうか。アメリカの投資銀行、ゴールドマン・サックスの元トレーダーで、いまは金融教育を研究している田内学さんに聞きました。
「金融リテラシー(知識や理解)は投資リテラシーと思われているがそうではなく『お金のリテラシー』だ。お金を増やすことが目的になってしまうとお金に支配されてしまう」
「お金をどうやってためるかということばかり考えるが、金融教育の中でそこだけを勉強してしまうとだめだ。お金を増やさなければならないというよりも、お金の向こう側で社会がどのように動いているかを理解し、考えることが大事だ」
「アメリカのIT産業には巨額のお金が回り、それによってさまざまな技術者が開発に力を入れることができ、結果として社会が便利になっている。ITが発達すれば生活も豊かになり、お金が回って関連する産業で働く人も増える。そこまで理解しないと自分はお金だけで生きていけると誤解してしまう」
金融を学ぶということは、お金という「窓」を通じて社会を知ること。お金をためる、お金を増やそうとする(投資する)行動は、社会とどうつながり、社会にどういう影響をもたらすのか、その仕組みを学ぶことが本質かもしれませんね。
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