COPでの焦点・石炭火力発電、世界はどうなっているの?
イギリスで開かれていたCOP26。石炭火力発電の扱いをめぐって先進国と新興国のあいだで主張がぶつかり合い、交渉は難航続きでした。その石炭火力発電ですが、世界ではどのように使われているのか、日本はなぜ使い続けるのか、意外に知らないことが多いですね。COPを現地で取材した早川俊太郎記者、エネルギー担当の西園興起記者、教えて!
今回のCOP26。石炭火力発電の扱いをめぐって各国が激しい応酬を繰り広げたそうですね。
早川記者
議長国・イギリスは当初、石炭火力発電の廃止を打ち出したかったのですが、石炭火力に電力の多くを依存するインドなどの新興国や、産油国であるサウジアラビアなどが反対しました。
石炭なのにサウジアラビアが反対ですか?
早川記者
はい。石炭の次は原油だ!とターゲットにされるのを恐れたようです。
あまり厳しい文言になるとそれが原油にも波及したときに不利になるとの判断が働いたと見られています。
なるほど。ところで、その石炭火力発電、世界ではどのように使われているんですか?
西園記者
国によって大きく異なります。まず、議長国のイギリスでは、石炭火力発電の割合はわずか2%です。
そんなに少ないんですか!
西園記者
イギリスは遠浅の海が広がり、安定的な風が吹くため洋上風力発電が普及しているほか、パイプラインで天然ガスを大陸から運んでくることなどもできるため、石炭への依存度が低くなっているんです。
こうしたエネルギー事情からイギリスは石炭火力について、2024年までにすべて廃止することを表明しています。
2%しか使っていないならゴールは近そうですね。
早川記者
そういうこともあって、COP26では「石炭火力発電を廃止しよう!」と胸を張って主張できたのでしょうね。
同じようにフランスは、原子力で電力の多くをまかなっているため、石炭火力への依存割合はわずか1%です。
ドイツも再生可能エネルギーの国というイメージですよね。
西園記者
再生可能エネルギーを積極的に導入している国であることは間違いないんですが、現状はどうかというと、ちょっと違うんです。
石炭火力の比率が高いのですか?
西園記者
30%を占めています。国内で多くの石炭が採れるため、これまで安い石炭火力で電力需要をまかないながら、産業を発展させてきた歴史的経緯があり、比較的依存度が高くなっています。
ただ、9月に行われた連邦議会選挙で第1党になった社会民主党は、第3党の緑の党と第4党の自由民主党との連立交渉の中で、2030年までの石炭火力廃止を目指すことで合意しています。
アメリカはどうなのでしょう?
早川記者
アメリカはシェール革命によって産出される天然ガスの勢いに押されて石炭火力の比率はじょじょに下がっていますが、それでも24%を占めています。
トランプ前大統領が選挙で炭鉱労働者の支持を受けたこともあり、石炭復活政策を打ち出しました。
ウェストバージニア州など石炭火力の割合がほとんどを占める州もあり、政治的に対応が難しい側面があります。
廃止の時期は決めているんでしょうか。
早川記者
廃止の時期は明言していませんが、バイデン政権になって二酸化炭素を地中に埋める技術を活用するなどして、2035年までに発電にともなう排出をゼロにすることを目指すとしています。
COP26で石炭火力廃止の文案に反対していた国はどうなのでしょうか?
早川記者
石炭火力の依存度はかなり高いですね。
例えば、中国では2018年のデータで、石炭火力の割合は67%。
また、インドでは73%を占めていて、いずれも今回のCOPでは「“廃止”を約束することはできない」という立場でした。
インドは「石炭火力を使う権利がある」とまで主張していましたね。
アジアはどうなのでしょう?
西園記者
東南アジアも依存度が高いですよ。
インドネシアは56%、フィリピンは52%、ベトナムは47%です。
まだ電気が通っていない地域も抱え、今後、経済成長で電力需要が大きく膨らむことが見込まれていて、コストの安い石炭火力は簡単には手放しにくい状況なんです。
そういえばCOP26のニュースでは日本の存在感がなかったような気がします。
早川記者
新興国が前面にたって石炭火力廃止に反対の声をあげていただけに、後ろにひっそり隠れていたという感じでしょうか。
日本政府の関係者は悪目立ちしなくて済んだとほっと胸をなで下ろしていました。
一方、政府は交渉の中で、特定の分野に言及するべきではないと主張していました。
抑えた表現ながらも石炭火力に言及されることになり、国際的な圧力がますます高まると警戒感をにじませていました。
日本の石炭火力の割合は?
西園記者
2019年度で32%です。
LNG=液化天然ガスの37%に次ぐ高い比率なんですね。
これを2030年度には19%にまで引き下げることを目指していますが、当面、使い続けることにしています。
廃止の時期は表明していません。
なぜ脱石炭火力の廃止時期を表明しないのでしょうか?
西園記者
燃料となる石炭は、最近でこそ価格上昇が目立ちますが、長期的にみると価格はほかの燃料より安いという特徴があります。
また、石炭は石油と違って中東だけに依存しなくてよく、オーストラリアなど比較的近い国からも輸入ができます。
安全保障上、重要だというのが日本政府の考え方なんですね。
太陽光発電などをもっと導入できないんでしょうか?
西園記者
太陽光などの再生可能エネルギーの導入を増やしたいのはやまやまなのですが、例えば蓄電池の容量といった技術的な壁がある、コストが高い、適切な設置場所がなかなか見つからないなどの課題があり、どうしても時間がかかります。
二酸化炭素を排出しないのは原子力発電ですが、再稼働するには極めて高いハードルが課せられているほか、世論の厳しい見方もあり、こちらも課題山積です。
電力会社の姿勢は?
西園記者
採算が合う設備については、なるべく長く使って収益力を高めたいというのが電力会社の本音です。
ただでさえ原油や天然ガスなどのエネルギー価格が高騰していますから、すぐに石炭火力を止めるという考えにはなっていません。
早川記者
今、日本が進めているのは技術でカバーするという戦略です。
燃焼時に二酸化炭素を排出しないアンモニアを石炭に混ぜて燃やす技術などの開発を進めています。
また、CCSといって、排出された二酸化炭素を取り出し、地中に埋める技術でも日本は世界をリードしています。
今回のCOPで脱石炭火力という目標が示されたことは脱炭素社会実現のためには大きな一歩です。
各国は経済とのバランスをとりながらどれぐらいのスピードで石炭火力を減らしていくのか、覚悟が迫られることになります。
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