NEW2021年04月19日

正社員と非正規社員の格差はなくなる?

契約社員やパートタイマー、それにアルバイトといった非正規雇用の社員と、正社員との間で、賃金などの待遇差をどう解消していくのか。その対応策が「同一労働同一賃金」です。すでに法律で大企業が対象となっていますが、この4月からは中小企業を含めて完全施行されました。
一体どんな仕組みなの? 経済部の長野幸代記者、教えて!

「同一労働同一賃金」。そのまま読むと、非正規社員でも正社員と同じ仕事をしたら同じ給料をもらえるということですか?

長野記者

そう思いますよね。でも、ちょっと違うんです。
このルールで企業は正社員と非正規社員の間に、給料や休暇などで「不合理な」差をつけることが禁止されました。
この「不合理な」というところがポイントです。
つまり、働き方や役割の違いに応じて、正規・非正規の間に、一定の待遇差をつけることは認めつつ、その差は筋が通ったものでなければならない、ということです。「ちょっとおかしい」と思える待遇には、非正規社員は企業にその理由の説明を求めることができるようになりました。

非正規の人の待遇を改善しようというルールですね。

長野記者

そうです。非正規で働く人は今や労働者全体の4割近くを占めていて、正社員を基本とした終身雇用はもはや当たり前ではなくなりました。しかし、非正規社員と正社員との格差は依然大きいままです。
厚生労働省の調査では、フルタイムで働く正社員の給料は、時給換算で1時間当たり2021円なのに対し、非正規社員は1337円。正社員の3分の2の水準にとどまっています(2019年「賃金構造基本統計調査」)。
また、正社員にあるボーナスや手当、休暇や福利厚生などが非正規にはほとんどないという企業もあります。
こうした格差が少子化や貧困などの社会問題を招いているという指摘もありました。こうしたことから、国は非正規というだけでちゃんと説明できない正社員との待遇差を法律で禁止したのです。

企業の対応はどうですか?

長野記者

残念ながらまだ進んでいるとはいえない状況です。

求人サイトの運営会社「エン・ジャパン」が去年12月からことし1月に全国の中小企業150社を対象に調査したところ、同一労働同一賃金への対応が完了したと答えた企業は全体の28%にとどまりました。回答した企業の中には「不合理かどうかの精査に手間取りそう(不動産・建設関連)」とか「労働が同一か判断するのが難しい(メーカー)」などの声もあり、待遇差の明確な判断基準がない中、多くの企業が手探りで対応を進めています。

守らないとどうなるんですか?

長野記者

罰則規定はないですが、労働局からの指導があります。それに守らないと、企業にとってもマイナスの影響が出ることも考えられます。

東京のIT企業「スタディスト」は、3月、同一労働同一賃金に対応するよう社内の規定を見直しました。これまで正社員だけに認めてきた慶弔休暇や慶弔見舞金、それにリモートワーク手当などを、契約社員やパートタイマーに支払うことにしました。従業員125人のうち、パートタイマーは6人、契約社員は2人ですが、サービスの開発や品質管理には欠かせない存在です。会社の担当者は「優秀な人材を確保するために、相応の待遇を設けることはコストというより投資だ」と話していました。

人手不足が深刻な業界もある中、必要な取り組みとも言えそうですね。

長野記者

労働法に詳しい神戸大学の大内伸哉教授は「時代にあわせて雇用制度を見直していくことは、企業が競争力を維持していくために欠かせない」と話しています。
最近では「ジョブ型」という仕事の内容に応じて報酬が決まる雇用形態や、特定の企業に所属せず仕事ごとに個別契約を結ぶ「フリーランス」など、正規・非正規の枠を超えた新しい働き方も広がっています。立場が違えどみんな充実感をもって働ける環境かどうか、自分の職場をいま一度点検してみるのもいいかもしれません。