ニトリ、どうして島忠TOBに参戦?

ニトリホールディングスが、ホームセンターの「島忠」に対し、子会社化を目指してTOB(=株式の公開買い付け)を行うと発表しました。しかし、島忠に対しては「ホーマック」などを展開するホームセンター大手の「DCMホールディングス」が、すでにTOBを実施中。TOBが行われている企業に別の企業がTOBをしかける異例の展開で、島忠をめぐる買収合戦が始まりました。なぜこんなことが起きたのか。そして3社の間で今、何が起きているのでしょうか。経済部で流通業を取材している茂木里美記者に聞きます。

DCMとニトリが島忠を「奪い合う」展開、何が起きているのですか?

茂木記者

最初の動きは10月2日。DCMが島忠を完全子会社化するため、TOBを行うことを発表しました。

島忠は1890年に創業した家具店が祖業。ホームセンターを展開するようになった今も、家具を得意としています。DCMとしては、島忠を傘下に収めることで品ぞろえが充実するだけでなく、共同で商品開発を進めることで競争力を高めていきたいというねらいがありました。

島忠にとっても、ホームセンター業界2位のDCMのネットワークを利用すれば、強みを持つ家具などの販売が強化できると考えたんです。島忠はDCMのTOBに賛同し、経営統合に合意していたんですが、そこに、ニトリが現れたというわけなんです。

ニトリは、なぜこのタイミングで、手をあげてきたのでしょうか?

茂木記者

ニトリが島忠に対するTOBを表明したのは、10月29日。DCM側のTOB開始から3週間余りが過ぎたタイミングでした。

その1週間余り前の21日、ニトリは島忠への買収検討を明らかにし、関係者は驚きを持って受け止めていたんです。

ただ29日の記者会見でニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は、実は3年前からホームセンターへの参入を検討し始め、その時点で島忠も提携先として候補にあがっていたとしています。似鳥会長はさらに、「(ニトリ創業の地の)北海道から本州に進出した頃に、私は何度も島忠の店舗を訪れ、店作りの参考にした」と話し、島忠が意中の会社だと言うことをアピールしました。そんな島忠に対して、DCMがTOBを実施することが明らかになったことから、ニトリとしても真剣に島忠の買収の検討に入ったと説明しています。

島忠との経営統合でどんなメリットがあるとニトリは考えているでしょうか?

茂木記者

1つは、やはり事業の拡大です。「お、ねだん以上。」というキャッチフレーズで、低価格で質の高い家具や日用品を展開して急成長してきたニトリですが、国内の市場は人口減少で成長に限界が見えています。

一方で、住生活全般を扱うホームセンターはニトリにとって業種としても親和性が高く、参入しやすい分野。ニトリとしては、家具から園芸品まで幅広い商品を扱う島忠を取り込むことで、今後の成長につながると判断しています。

そして、もう1つの理由が、島忠が首都圏に持つ店舗網だとみられます。国内外に600余りの店舗を展開するニトリに対して、島忠の店舗数はことし8月現在で60。実に10分の1の規模です。ただ、島忠はその9割以上が東京、埼玉、神奈川、千葉の1都3県に集中しています。中には東京23区内にありながら、大きな駐車場を備えた大型店もあるんです。

ニトリはこれまで、幹線道路沿いに大型店を出店するやり方で成長してきました。最近では東京・銀座や渋谷に大型店舗をオープンさせるなど、都市部への出店を強化していますが、首都圏、特に都市部は大型店の出店の余地は限られていますし、費用もかかります。首都圏、都市部に地盤を持つ島忠を傘下に収めることができれば、大きな補完性があると判断しているようです。

ニトリ、DCM、島忠を交えた三つどもえのTOB、この先どういう展開になりそうですか?

茂木記者

ニトリがTOBで示した1株当たりの買い付け価格は5500円。これに対して、DCM側が提示済みの価格は4200円と大きな開きがあります。

DCMはTOB表明の際の記者会見で、島忠との間では補完性が高いとラブコールを送り、島忠もそれに賛同していました。一方でニトリ側も会見で、島忠のブランドや従業員の雇用は維持する考えを示し、島忠側に配慮する姿勢を強調しました。

ニトリと島忠は今後、経営統合の内容をめぐって協議を始める予定です。島忠側がどういった対応を取るのかが、大きな焦点となります。さらに、DCMがニトリに対抗する形で買い付け価格を引き上げるのかどうかが、一般の株主の動向を左右することになります。

DCMのTOBの期限は11月16日。対するニトリは、DCMのTOBが成立しないことを条件に、11月中旬からTOBを開始する計画で、この先の展開に注目が集まっています。