“50ゼロ”へ陸海空で電動化って?
「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」
菅総理大臣が初の所信表明演説で示した新たな目標です。これを達成するには、技術革新=イノベーションが欠かせません。その大きな要素の一つとなりそうなのが、『電動化』です。電動化といえば、このところ価格がガソリン車にぐっと近づいてきているEV・電気自動車が思い浮かびますが、それだけではありません。電動化のフィールドは、いまや海や空にも広がり、急ピッチで開発が進んでいます。経済部で自動車業界などを担当する樽野章記者に聞きます。
2050年に温室効果ガスの排出をゼロにするという目標を掲げたことで、EVなどへの注目がさらに高まりそうですね。
樽野記者
ちょうどことしから来年にかけて国内ではホンダ、日産自動車、トヨタ自動車、マツダと相次いでEV=電気自動車を発売しますし、ヨーロッパや中国など海外メーカーも新しいタイプのEVを発売します。
注目されるのはその価格です。
ドイツのフォルクスワーゲンが去年発売した小型のEV「eーup!」(新型モデル)は1回の充電で走れる距離が260キロに伸びた上、価格は2万1975ユーロ、日本円でおよそ270万円です。
ガソリン車の価格帯とほぼ同じ水準です。
さらにEV専業のアメリカのテスラも、イーロン・マスクCEOがことしの株主総会で2万5000ドル(日本円でおよそ260万円)のEVを販売する構想を打ち出したほか、フランスのルノーもグループの低価格ブランド「ダチア」から販売する新しいEVについて「ヨーロッパで最も手ごろな価格を実現する」としています。
これまでEVはその割高感から一般の消費者にとっては縁遠い存在だったかもしれませんが、価格が下がってきたことで普及の弾みとなる可能性もあります。
タンクに積んだ水素と、空気中の酸素を化学反応させて、みずから発電して走行するタイプの「燃料電池車」も開発の加速が望まれます。
ところで、こうした“乗り物を電動化する動き”ですが、陸の上だけではないんですよ。
えっ、船とか飛行機でも電動化が進んでいるということですか?
樽野記者
はい。
「海」=船の分野では、電池とモーターだけで動く「電動タンカー」が世界で初めて建造されることが10月に発表されました。
手がけるのは香川県丸亀市にある「興亜産業」と徳島県小松島市の「井村造船」でそれぞれ1隻ずつ造ります。
大手機械メーカー「川崎重工業」の電動システムを使うそうです。
全長およそ60メートル、総トン数は499トンの中型のタンカーで実に電気自動車およそ100台分の容量があるリチウムイオン電池を搭載し、スクリューなどの動力部分はモーターで動かす仕組みです。
このタンカーを発注した東京の海運会社は将来的にフェリーや貨物船の電動化も検討しているということです。
従来のタンカーに比べて建造の費用はかかるそうですが、電動化されることで運航を管理する作業は少なくできるそうです。
人手不足が深刻な船舶業界にとっては船員の負担を軽減する効果が期待されています。
もちろん二酸化炭素などの排出も大幅に減らすことができるということです。
タンカーのような大きな乗り物を電池とモーターだけで動かせるのってすごいですね。
「空」の分野はどうなんですか。
樽野記者
今の航空機は、ジェットエンジンやレシプロエンジンで大量の燃料を使い、二酸化炭素を排出しますが、電池とモーターで飛ぶ航空機の開発も活発になっています。
経済産業省によりますと、去年は水上飛行機を運航するカナダの会社が商用機としては世界で初めて電池とモーターだけで動く小型機の試験飛行に成功しました。
ことしに入ってからもヨーロッパの航空当局がスロベニアの小型航空機メーカーが開発した電動飛行機に型式証明を出すといった動きがあったということです。
また、完全な電動化だけでなく、自動車のようにエンジンとモーターを併用する「ハイブリッド航空機」についても、IHIや日立製作所、三菱電機などの日本の大手メーカーが連合を組んで研究を行っています。
新しい乗り物“空飛ぶクルマ”も電動のものが多いです。
電動のプロペラを使った大型のドローンのような乗り物で、世界各地で実験が行われています。
垂直に離着陸し、遠隔から操作できるのが特徴で、ことし8月には愛知県で人を乗せた飛行実験も行われました。
「陸」「海」「空」すべての乗り物が電動化される日も近いのでしょうか。
樽野記者
カギの一つとなるのは電池の技術革新ですが、乗り物すべてが電動化するという世界はそう簡単ではなさそうです。
とりわけ「空」の電動化は難しいとされています。
ドイツの調査会社ローランド・ベルガーの山本和一プリンシパルは「ハイブリッド化は進むとみているが、完全電動の飛行機がどんどん飛ぶようになるかといえば現実的には難しい。
大量の電力を蓄えられる電池は重くて、大型の飛行機を飛ばすにはコスト的にも技術的にもまだ厳しい状況だ」と指摘しています。
先に紹介したスロベニアの航空機メーカーが開発した電動飛行機も飛行時間は2人乗りで最大80分です。
ただし、「2050年に温室効果ガス排出の実質ゼロ」という目標は日本だけでなく世界の多くの国々が掲げていて、脱炭素に向けた機運は今後高まっていくことは間違いありません。
その機運がEVの普及をはじめ「海」や「空」の電動化のスピードを加速させていくことになるはずです。
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