NEW2020年01月20日

倒れないはずが…送電鉄塔24万基総点検へ

全国に24万基にのぼる送電用の鉄塔。そのすべてが点検されることになりました。きっかけになったのは、“倒れるはずがない”鉄塔が去年の台風15号で2基も倒壊し、大規模な停電につながったからです。気候変動で台風の大型化も指摘される中、日本の鉄塔、そして電力供給は大丈夫なのか?エネルギー分野を担当する野口佑輔記者、教えて!。

千葉県で倒れた鉄塔の映像、インパクトありました。

野口記者

台風の強風で、高さ50メートルの鉄塔2基が根元からぽっきりと折れた。

ニュース画像

山の上に立っていたので幸いけが人はいませんでしたが、そのせいで周辺地域のおよそ10万戸が停電したんです。送電用の鉄塔は、発電所から各地へ電力を送るためのいわば「幹線道路」の役割を担っているので、これが倒れると、大規模な停電につながってしまいます。

日本は台風が多いし、鉄塔はきちんと対策していると思っていました。

野口記者

もちろん安全基準はあります。経済産業省は、送電用の鉄塔は風速40メートルの風が吹いても耐えられるように電力会社に求めている。倒れた鉄塔は、もちろん基準をクリアしていて、保守・点検などでも問題はなかったとされていました。

安全基準をクリアして、しっかり保守されていても、倒れてしまったということですか!?

野口記者

国としても、“倒れるはずのない”鉄塔が倒れた事実を重く見て、外部の専門家を含めた検証チームをつくり、原因を調査しました。その結果、鉄塔が立っていた山の地形の影響で、局地的に基準を大幅に上回る風が吹いたことがわかってきました。鉄塔と海の間に、急な斜面の山があり、台風による海側からの風がその山にあたって吹き上げられた上に、鉄塔の手前にある丘でさらに勢いづけられて、最大瞬間風速は70メートルに達したと見られます。

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経済産業省の作業部会

こうした地形はほかにもありうるということで、経済産業省が全国の電力会社に24万基すべての鉄塔を点検するように指示を出すことになったんです。

どんな点検をするんですか?

野口記者

鉄塔が立つ周辺の地形について調べるよう求めることにしています。海岸から25キロ以内にあるかどうかや、周りの山の斜面の角度などを調べます。対策が必要となれば、電力会社は3月ごろまでに国に補強計画を提出することになります。ことしの台風シーズンが来るまでに、できるだけ対応を進めようという姿勢です。

24万基もあるのに、3月までに間に合うのかな?

野口記者

まずは、千葉の鉄塔が倒れた場所の地形と似ている場所や、台風が多くやってくる太平洋側などの鉄塔を優先的に調べることになりそうです。それとは別に、経済産業省は、全国一律だった鉄塔の強度の基準も地域の実態に応じて改めることにしています。台風の接近が多い九州や四国、そして千葉県などは基準が引き上げられる見込みです。

安全最優先でお願いしたいけど、費用もけっこうかかりそうですね。料金が高くなってしまわないですか?

野口記者

ニュース画像

鉄塔を作る費用は1基当たり平均で4000万円を超えるとされています。基準引き上げに応じて、強度を高めると、その分費用がかさむ可能性もあります。電力の全面自由化によって、以前よりは価格競争が促される形になっているけど、鉄塔の整備や修繕など送電にかかる費用は大手電力会社だけでなく、送電網を利用する「新電力」も含めてすべての会社が同じように負担することになっています。

鉄塔の整備や修繕の費用が増えれば、電気料金がアップする要因にはなります。そのため、経済産業省は、鉄塔をまるごと建て替えるのではなく、部分的に補強するなど、なるべくコストを抑えながら短期間で補強できる方法を検討することも求めています。

さらに、鉄塔をめぐっては、老朽化が進んでいるという課題もあります。高度経済成長時代にたくさん建てられ築50年といったものも多く、今回の総点検がなかったとしても、補修は欠かせません。地球温暖化の影響で台風が大型化しているとも言われているので、電力を安定して使えるようにするためにも、対策の重要性は増しています。