災害列島 命を守る情報サイト

これまでの災害で明らかになった数々の課題や教訓。決して忘れることなく、次の災害に生かさなければ「命を守る」ことができません。防災・減災につながる重要な情報が詰まった読み物です。

地震 避難 支援 想定 知識

好きなもの、もうひとつ 誰でもできる備蓄のヒント

あの日から10年が経ちました。

必要なのはよくわかってるし、いつかはやろうと思ってるんだけど、どこから始めたらいいかわからない。

「でも、これくらいならやってみようかな」。なかなか踏み出せない私にもできる備えのヒント、見つけました。

ポテチ1袋だって

20210311_02_01

高く積まれた段ボール箱。

先月末、防災担当の職員が住民に配ったのは、ポテトチップスです。

パッケージには「おかしで備えよう」と書かれています。

東京 板橋区が地元の菓子メーカー、大学と共同で企画しました。

板橋区 藤原仙昌 地域防災支援課長
「ポテトチップス一袋でもちゃんと災害備蓄になるんだと知ってもらいたい」

コロナ禍で自宅などでの分散避難も必要になる中、板橋区はメーカーから提供されたポテトチップスを防災訓練の参加者に配って家庭での備蓄を呼びかけました。

ポテトチップスの賞味期限は6か月あり、カロリーも比較的高くおなかが膨れます。

いつもより1袋多く買って、食べたあとは、買い足すことで常に1袋分が備蓄になるというのです。

つまり、やることはポテトチップスをもう1袋買うだけ。

これならできそう!と思えてきます。

20210311_02_02
湖池屋 福永千紗さん
「スナック菓子は食料の機能としてだけでなく、災害時にほっとする効果も期待できます。不安な時にいつも食べているもので少しでも日常の時間を取り戻すことにつながったらうれしいです」
板橋区 藤原仙昌 地域防災支援課長
「もちろん、これひとつで完璧というわけではないですが、備蓄をしたことがない人もひとつあるだけで気持ちが違いますし、まずは始めてみるのが非常に大事だと思っています」

好きなものを、もう少しだけ

「いつも食べてる好きなものを1つ、2つ多く買うことから始めてみませんか?」

そう話すのは自身も阪神大震災で被災し、看護師として国内外の被災地で支援活動をしてきた辻直美さんです。 気軽にできる備えの大切さを伝えています。

少し多めに食べ物を買っておき、使った分だけ買い足すことで常に一定量を備蓄しておく方法を「ローリングストック」と言います。

20210311_02_03
内閣府防災 動画「地震への備え」より

保存食を買いそろえるのと違い、ポイントは日常生活で普通に消費しながら備蓄にもつながること。

いざというときも普段と同じような食生活ができることにもつながります。

辻直美さん
「被災した時はただでさえ不安で水すら飲めなくなります。怖い、緊張してるのに普段食べたことない保存食はのどを通りにくいし、ストレスが募ります。それなら好きなお菓子でいいんです」

辻さんが強調するのは、防災を「非日常」ではなく「日常」にしていくこと。

自分の一番好きなものから始めることが大事だと話します。

20210311_02_04
辻さんの備蓄 「レスキューナースが教える プチプラ防災」より

辻直美さん
「私の場合、大好きなインスタントラーメンですが、お菓子とか好きなものは少なくなったら買い足しに行きますよね。それを少しずつ他のものに広げていく。そうしたら自然と家中が『ローリングストック』になっていると思います」

「100均備蓄」やってみた

20210311_02_05

SNSで手軽な備えを紹介する人もいます。さっそく取材しました。

宇都宮市の仮面屋さん。

一般に販売されている防災セットは高価だと感じ、自分なりの防災グッズを100円ショップでそろえてみようと思いついたそうです。

きっかけになったのは10年前の東日本大震災の経験でした。あの時、宇都宮にある自宅は震度6強の揺れで断水。 スーパーやホームセンターなどを10店舗以上も回りましたが、ほとんどの商品がすでに棚からなくなっていた光景を思い出したといいます。

当時の教訓も踏まえて集めてみたのがこちら。

20210311_02_06
仮面屋さんが公開した 100円防災グッズ一覧

備蓄の品は簡易トイレや缶詰め食品など80種類。

性能を確かめて、緑、黄、ピンクに色分けしています。

緑は「これで充分」というもの。例えば、ネームカードや防犯ベルなどをあげています。

黄色は「充分だが好みで変更してもよい」もの。例えば、簡易トイレやタオル。

そして、ピンクは「いらない」または「よりいいものに変更すべき」。ホイッスルや多機能ナイフなどが該当するそうです。

仮面屋さん
「本格的に備蓄するとなるとかなりお金もかかりますが100均なら手軽で安い。できる範囲で備えておけば、気持ちも楽になりました。一覧表は、自分に必要な商品を確認するチェックシートとして使えます。性能が不十分だと思うものがあれば、100円均一以外で買い足してさらに十分に備えるきっかけになると思います」

記者もやってみました

ここで私(林田)に素朴な疑問が浮かんできました。

「100円ショップにそんなに防災グッズ、あったかな」。

疑問を解消すべく、渋谷の100円ショップで確かめてきました。

調査したのは仮面屋さんがメインのバッグに入れるものとしてあげた32品。

結果は。

けっこう買えました。

備蓄品を入れるために買った300円のリュックも含めて計29品。

小ぶりなリュックにこれだけのものが入るのか。

20210311_02_07

これもやってみたら入りました。

さらに、気になって使ってみました。

20210311_02_08

給水バッグは3リットル入りでチャックもしっかりしまって、水漏れの心配もなし。実際の場面で活躍しそうです。

この機会に簡易トイレにも挑戦。試しに水を入れると袋の中の粉末と混じって固まり、ゲル状に。口を閉じて捨てることができます。100円とお手ごろなので1度試しておくと実際の場面で時間をかけずに使えると思いました。

専門家の防災グッズの中身は

手軽さが大事だという点は専門家も指摘しています。

20210311_02_09

マスクに充電器、ラジオ、お菓子、小銭を含めた現金…。

防災システム研究所の所長、山村武彦さんが持ち歩いている“モバイル防災ポーチ”です。

片手で持ち歩けるくらいのポーチに、20種類以上のものが入っています。

防災システム研究所 山村武彦さん
「いずれも自分を守るための大切なもので、軽くてコンパクトなものでそろえることがポイントです。どれも欠かせない大事なものですが、災害時にATMやクレジットカードが使えない時に備えて小銭を含めた現金をまとめておくのを忘れないようにしてほしいです」

この“モバイル防災ポーチ”が役立つのは地震などの時だけではありません。

新幹線が止まってしまったり、エレベーターのなかに閉じ込められてしまったりした時など出先で遭遇した緊急時にも活用できます。

生活のなかに防災を

20210311_02_10

 

防災システム研究所 山村武彦さん
「『大きな地震が起きると思いますか?』という質問をすると8割から9割くらいの人が『起きると思う』と答えるのですが『ではそれが今夜起きると思いますか?』という質問にすると2割くらいに減ってしまいます。みんな“災害はいつか来る”という総論はわかっているけれど自分事としてとらえている人が少ないのです」

山村さんが心がけていると強調したのは“生活防災”ということばです。

防災システム研究所 山村武彦さん
「1年に1回だけでも電気やガスなどが使えない場合どうしたらよいのか“在宅避難生活訓練”をしてみてほしいです。そうすれば、いざという時に何が必要かが分かるからです。生活のなかに防災が入っていることが大事です」

「気づく」も立派なスタート

20210311_02_11

いろんな方々の話を聞いて、まずは好きなものを一つ買い足すだけ。

100円ショップで実はかなりそろうこともわかりました。

少しやってみようという気になってきました。

さあ何から始めてみようか。

取材した辻さんが最後に話していた言葉が印象に残りました。

辻直美さん
「日常生活の中で、みなさんひとりひとり優先したいものが違うと思うんです。家族との連絡、食べること、清潔、寝ること。何が一番大切か、何がなくなったら困るか、イライラするか」
「震災から10年ですが、自分が今一番大切なことを見つめ直して、それが奪われたら困ると考えたら、守るために少しだけ行動を起こせるんじゃないかと思います。『気づく』ことだけで、まずは立派な防災のスタートだと思います」

 

(ネットワーク報道部記者 井手上洋子 田隈佑紀 林田健太 SNSリサーチ 坊彩子)


banner
NHK防災・命と暮らしを守るポータルサイト