猛暑は“災害” 命を守る「熱中症」対策

毎年、多くの人が病院に運ばれ、死亡する熱中症。もはや“災害”と言えますが、ちょっとした工夫で防ぐこともできます。「これだけは気をつけてほしい」。専門家のアドバイスをもとにポイントをまとめました。
目次
「室内熱中症」に注意!
「エアコン」を使って!
熱中症の発生場所で最も多いのは「住居」。毎年、室内で熱中症になる人が相次いでいます。
エアコンを使って部屋を涼しく保って下さい。部屋に「温度計」を置いて、室温や湿度を確認しましょう。高齢者の場合は「暑くなってから」ではなく、エアコンをONにする基準を決めておきましょう。

✅ 部屋に温度計を置き、「室温」と「湿度」チェック
✅ 温度設定は「暑がりの人」にあわせて
✅「室温28度」「湿度70%」はエアコンONの目安
✅ エアコンは「つけっぱなし」がお得!
熱中症対策に詳しい帝京大学医学部附属病院高度救急救命センターの三宅康史センター長
「エアコンを使う時には『設定温度』ではなく実際の『室温』が重要です。部屋に温度計を置き、室温や湿度を気にしておくことが大切です。複数の人がいる場合、いちばん「暑がりの人」にあわせて温度を決めましょう。寒いと感じる人は靴下をはき、上着を羽織るなどして対策して下さい」

エアコンは「つけっぱなし」がお得
大手メーカーの担当者によると、エアコンは起動する時に大きな電力を消費します。
頻繁にONとOFFを繰り返すと、そのたびに電力を消費するとのこと。
実は「つけっぱなし」の方が省エネになるのです。
担当者は「体のためにも、快適性のためにも、お金のためにも、つけっぱなしで使うことをオススメしています」と話していました。
「熱帯夜」を乗り切る

夜も25度を下回らない「熱帯夜」。寝ている間も熱中症のリスクがあります。
枕元に「常温」の水を置いておき、寝る前や起きた時、目が覚めた時には飲むようにしましょう。
朝までエアコンは基本的に「つけっぱなし」。
睡眠不足は大きな敵。ぐっすり寝て、体力を回復することも大事です。
✅ 寝る前に部屋を十分に冷やす
✅ 朝までエアコンを「つけっぱなし」に
✅ 寝る前にコップ1杯の水を飲む
✅ 枕元に「常温」の水を置き、起きた時には飲む
✅ 氷枕などで首元を冷やす
三宅センター長
「『どうせトイレには行くことになる』と割り切って、水分補給をして下さい。枕元にペットボトルの水を置いておき、目が覚めたら飲むというルールにしておくと良いです。水は「常温」が良いです。冷たい水だと、交感神経を刺激して目が覚めてしまい、眠れなくなる可能性があるからです」
夜でも冷えない集合住宅

実際に熱中症の患者が出た鉄筋コンクリートの団地で、1日を通した温度変化がどうなっているか、調査が行われました。その結果、特に中間の階では、温度がほとんど下がらず高い状態が続いていたことがわかりました。慶応大学の伊香賀俊治教授によると、鉄筋コンクリートは熱を蓄積しやすく、夜に外気が下がっても、部屋の中の温度は下がらないということです。
伊香賀教授は「特に古い鉄筋コンクリートの集合住宅では、断熱材などが不十分な場合が多く、外の気温が下がっても室内の温度は下がらない点に注意が必要だ。寝る時にエアコンを切ってしまうと、すぐに気温があがり危険な状態になる」と指摘しています。
効果的な「換気」のコツ

✅ 帰宅したらエアコンONの前に換気
✅ 換気は「対角線」の空気の流れを意識
✅ 窓が少ない時は扇風機を外に向ける
✅ エアコンON時もときどき換気
✅ 台所やトイレの換気扇を回す
「高齢者」と「子ども」は要注意!
「高齢者」にはしつこいくらい「声かけ」を

熱中症で搬送された人の約半数は「65歳以上の高齢者」です。
高齢になると暑さを感じにくくなり、基礎代謝も落ちるため、若い人より寒がりになります。
体感に頼ると「まだ暑くない」と対策が遅れます。
基準を設け、家族や周囲の人が電話など直接声をかけてエアコンの使用を確認して下さい。
また、水分補給は食事の時だけでなく、時間を決めて行うことも大切です。
✅ 家族や周囲の人は、「電話」でエアコンの使用を確認して
✅ 数時間経過したら、再度、状況確認の電話をするのがコツ
✅ 「室温28度」「湿度70%」はエアコンONの目安
✅ エアコンは「つけっぱなし」に
✅ 時間を決めて水分補給して
(朝/10時/昼/15時/夕食時/寝る前/起床時)
三宅センター長
「家族や周囲の人が電話する時は『室温は何度?』と確認し、『28度に下がるまでエアコンを入れ続けて』などと具体的に伝えて下さい。そして『2時間後にまた電話するね』と継続して確認する意思を伝えることも大切です。しつこいようですが、繰り返し確認することで、エアコンを付けることが習慣になるのが望ましいです」
エアコンは「体に悪い」!?
昔から「エアコンは体に悪い」という話があります。実際のところはどうなのか。
三宅センター長は、「確かに冷えすぎると膝が痛くなったり、部屋が乾燥してのどが痛くなったりすることはありますが、適切な温度・湿度ならそれほどの影響は無いと思います。むしろ、エアコンを使わないことで熱中症のリスクを高めるので、その方が体に悪いと言えます」ということでした。エアコンの風を直接体に当てないようにしたり、パジャマを厚着にしたりすることでも対策になるそうです。
エアコンがない場合は?
✅ 直射日光を防ぐため、すだれや遮光カーテン、植物による「緑のカーテン」を活用
✅ 窓を開けて風通しをよくする
✅ 家の周りに打ち水を
✅ 氷や保冷剤などタオルで巻いて、首や脇などを冷やす
※自治体によってはエアコンの設置費用の補助をしているところもあります。
「子ども」は体調に気を配って
子どもは体温調節の機能がまだ発達しておらず、体に熱がこもりやすくなっています。
また、身長が低く、地面の照り返しの影響なども受けやすい特徴があります。
体の異変をうまく伝えられないため、大人が体調の変化に気を配り、水分の補給などを心がける必要があります。

✅ 体調の変化がないかよく観察する
✅ こまめに声をかけ、体調の変化を確認する
✅ 大量の汗をかいている、顔が赤い…という時は涼しい環境で休ませる
✅ 氷をたくさん入れた水筒を持たせる
✅ 長時間、外では遊ばせない
三宅センター長
「凍らせたペットボトルを持たせるケースがありますが、おすすめは、氷をたくさん入れた水筒です。子どもは常温よりも冷たい飲み物の方が飲むので、一度中身を飲みきっても、水道水などを足すことができるように、氷のたくさん入った水筒を持たせるのが良いと思います」
「ベビーカー熱中症」に注意
ベビーカーは地面からの照り返しの影響も受けやすく、体温が上がりやすいです。
日よけカバーを使うと、熱がこもりやすくなります。
こまめに表情を確認し、水分補給などを心がけて下さい。

✅ 外出時は無理のない「計画」かを点検(場所、時間、ルート)
✅ ベビーカーは「背丈の高いもの」「メッシュ素材」を選ぶ
✅ 保冷剤などをタオルに巻いてシートに置く
✅ 日よけカバーをしても、こまめに表情を確認
✅ 顔が赤い、息が荒いという時は水分補給と休憩を
三宅センター長
「外出する前に、時間やルートを確認し、無理のない計画かを確認することが大切です。無理はしないこと。連れ出さない勇気も大切です。特に、兄弟姉妹がいる場合は注意が必要です。また、こまめにだっこして、体に熱を持っていないか、汗のかき具合、顔色やオムツの具合を確認するようにしてください」
屋外へ その時は
熱中症の危険性が高い時は「外出しない」ことも重要ですが、外出が避けられない時は、直射日光を避け、なるべく涼しい服装で出掛けましょう。こまめに水分補給ができるように水筒なども持ち歩きましょう。長時間の外出は避けて下さい。

✅ 外出時間を朝や夕など比較的涼しい時間に変更する
✅「日傘」「帽子」で直射日光を避ける
✅ いつでも水分補給できるように水筒などを持ち歩く
✅ ゆったりした服を着る 襟元を緩め、風通しを良くする
✅ 下着は乾きやすい素材を選ぶ
※水分や塩分の補給については、高血圧や心疾患の持病のある方は、かかりつけの先生に十分ご相談ください。
外出時に役立つ「手のひら冷却」

外出時には冷たいペットボトルや保冷剤などを持って「手のひら」を冷やすことも熱中症対策として有効です。手のひらには、AVA=動静脈吻合という、体温調整の役割を担う血管があり、冷たいものと接触させることで、体温を早く下げやすくする効果があるといいます。
ただし、冷やしすぎると血管が収縮しかえって熱を発散しにくくなるため、15度程度のものを使うといいとされています。
「食生活も大事」
熱中症の対策として、水分補給はもちろん重要ですが、熱中症に詳しい太田祥一医師は、「牛乳や肉などを食べて、たんぱく質などの栄養を補給し、体調を管理することも大事だ」と話していました。「食欲が無い…」どうしても思ってしまいますが、食事にも気をつけてみてください。
覚えておきたい「応急処置」

熱中症と新型コロナウイルス
新型コロナウイルスなどの感染症対策としてマスクを着用している場合の注意点です。
✅ マスクをしたまま負荷の大きな作業はしない
✅ 暑い場所で体調不良の人がいたら、まず熱中症を疑って対処を
✅ 応急処置で水を飲ませる時は、新たに購入したものなどを提供
三宅センター長
「熱中症も新型コロナウイルスも症状が似ているため、医療関係者でないと見分けはつきません。とにかく、熱中症予防、感染予防を徹底し、『熱中症にならない』『感染しない』ことが大切です。もし暑い場所で体調不良の人がいたら、まずは熱中症を疑って対処して下さい。水を飲ませる時には、口をつけていない新しいものを渡すといった工夫が必要かもしれません。
また、新型コロナウイルスの感染予防として手洗いが推奨されていますが、冷水での手洗いは体の冷却にも効果的です。少し長めに丁寧に手を洗うことで、手に流れる血液を冷やすことができるので、脇の下を冷やすのと同じ効果が得られます」
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