出口なき“核のごみ” 処分地の選定 進展は不透明

2023年3月13日

原子力政策で長年の課題となっているのが原発で発電したあとに出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の問題です。

「核のごみ」の処分地の選定に向け、国や事業者は科学的な有望地を示すマップを公表したり説明会を開催したりするなど取り組みを強化し、選定に向けた調査が進められている自治体も出ていますが、さらなる進展は不透明で、いまだに出口が見えない状況が続いています。

「核のごみ」とは

原子力発電所では運転に伴い使用済み核燃料が発生し、日本ではこれらを化学処理してプルトニウムとウランを取り出し再び燃料として利用する「核燃料サイクル」を原子力政策の柱としています。

再処理の過程では、再利用できない放射性物質を含む廃液が残されます。

この廃液を化学的に安定させるため、ガラスと混ぜて固めたものが高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」と呼ばれるもので、極めて強い放射線を長期間、出し続けるため、人の生活環境から数万年にわたり隔離する必要があります。

このため国は、地下300メートルより深い地中に「核のごみ」の処分場を設置して埋めることにしていますが、その場所の選定が進まない状況が続いてきました。

難航する処分場の選定

この最終処分場の選定を進めるため、日本では2000年に法律が施行され、NUMO=原子力発電環境整備機構という事業者が全国の市町村から候補地を募集し、国も調査が行われる自治体に交付金を出す制度を作り、処分場の選定に向けた取り組みを本格的に始めました。

このあと2007年には高知県の東洋町が選定に向けた調査に応募しましたが、住民の反対などで撤回されました。

その後、具体的な応募の動きはなく候補地の選定が難航するなか、国の原子力政策への提言などを行う原子力委員会は2012年に国民の合意を得るための努力が不十分だとしたうえで、国が前面に出て候補地の選定を行うべきだとする見解をまとめました。

これを受けて国は2014年に▽自治体の応募を待つ従来の方式に加えて、▽科学的に有望な地域を示した上で複数の自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れる方式を取り入れることにしました。

その入り口として2017年7月に公表したのが、全国を火山や活断層の有無など科学的な基準をもとに色分けして有望地を示した「科学的特性マップ」という地図です。

このマップでは処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」とされた地域は、面積にして国土の3分の2にのぼりました。国やNUMOは、自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとした上で、マップを公表してから各地で説明会を開き、「核のごみ」の処分に対する理解を深めようとしました。

しかし、説明会を開始した後、2017年10月にNUMOから委託を受けた会社が謝礼を約束して大学生を動員するなど不適切な運営が明らかになり、説明会は一時、中断される事態になりました。NUMOは、原則、運営を直接行うなど再発防止策を行った上で、その後、説明会を再開し、現在も各地で開催しています。

北海道の2自治体が応募

こうした中、2020年に処分場の選定に向けて大きな動きがありました。

「科学的特性マップ」の公表後で初めて、北海道の寿都町と神恵内村が選定に向けた調査の受け入れを表明し、2020年11月に全国で初めて2つの自治体でNUMOによる調査が始まったのです。

調査のプロセスは

調査は3段階で行われ、現在は、これまでの研究データなど、いわば資料上での情報をもとに活断層や火山の有無などを調べる第1段階の「文献調査」が行われています。

期間はおよそ2年とされ、この調査で問題ない場合、都道府県知事や自治体の首長の理解を得た上で、ボーリング調査などを通じて地質や地下水の状況などをおよそ4年かけて調べる「概要調査」が行われます。

さらに同様の手続きをへて詳細に地層などを分析し、将来にわたる地層の安定性などをおよそ14年かけて調べる「精密調査」に進み、最終的な調査結果をまとめることになります。

そして、実際の処分場の建設については、調査結果を踏まえた上で、国が住民の意見や都道府県の考えを聞いて決定することになります。

国はいずれの段階の調査でも地域の意見を十分に尊重し、反対する場合は、次の段階の調査に進まないとしています。

次の調査段階への進展は見通せず

2020年11月から始まった北海道の2つの自治体での「文献調査」は目安の2年をすぎていて、今後、NUMOが評価をまとめることになります。

次の段階に進むにはそれぞれの町と村に加え、北海道知事の理解が必要ですが、鈴木直道知事はいずれの自治体での調査についても反対の姿勢を示していて、見通しは立っていません。

国は調査地域の拡大目指すも出口は見えず

一方、北海道の2つの自治体のほかに処分場の選定に向けた調査に応募する動きはなく、全国的に関心が高まっているとは言い難い状況です。

フランスやフィンランドなど処分地の選定が進んでいる国では、10程度の地域で調査が進められたうえで場所を絞り込んだことを踏まえ、政府は調査地域を増やすことを目指す方針を示しています。2023年2月には、8年ぶりに「核のごみ」の最終処分の実現に向けた基本方針を改定することを決め、新たな取り組みの案をまとめました。

具体的な取り組みとしては、▽国がNUMOや電力会社とともに、全国100以上の自治体を個別に訪問するほか、▽原発が立地する自治体のトップなどとの協議の場を新たに設けるなどとしています。

こうした取り組みが調査の進展につながるかは不透明で、政府が原発の最大限の活用へと原子力政策を転換するなか、「核のごみ」の処分の問題については出口が見えない状況が続いています。

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