2023年01月24日
(聞き手:小野口愛梨 西條千春)
水まわりの修理にハウスクリーニング、ショッピングサイトの運営も。いま、ガス会社では新たな事業に乗り出す動きが活発化しています。
インフラを提供する会社がいま、社会から求められていることとは?東京ガスの人事担当者に聞きました。
ガスといえば、いろいろなモノの価格が上がる中、同じく料金が値上がりしている印象があります…。
そうですね、ガスの原料となるLNG(液化天然ガス)は、そのほとんどが海外からの輸入に頼っているため、原料価格の変動の影響を受けてしまいます。
ロシアによるウクライナ侵攻などにより、原油の価格が上がっていて、それに連動するかたちで天然ガスの価格も上がっているのが現状です。
なので、なるべく多くの国から買って調達を安定的に行ったり、輸送コストを抑えるために自前で船を用意したり、といった企業努力を通じてなるべく低コストで安定的に届けられるよう努めています。
1つ目のマストなニュースですが、いきなり藤井聡太五冠の活躍を挙げられています。なぜ、この藤井五冠の活躍に注目されているんでしょうか。
将棋とガス業界。一見、関係のないように見えますが、共通してあてはまるのが「伝統」という言葉だと思いまして。
伝統のある将棋という世界で、藤井聡太さんのような若い世代がチャレンジして、業界全体のイメージを変えていったり、周囲にも影響を及ぼしている姿。
この姿が、ガス業界における自分たちに相通じると思って、非常に刺激を受けていたところです。
そういえば最近、ガス会社なのに「水まわりの修理をやっています」というCMをテレビでよく見ます。
「ガス会社なのにどうして?」と少し驚かれたかもしれません。
実は主力のガス事業以外にも、水まわりの修理サービスとか、ハウスクリーニングのサービスなど幅広い事業を手がけています。ショッピングサイトの運営もしていますよ。
ショッピングサイトも?
はい。食品や飲み物、日用品などを販売しています。
「まだ食べられる」「まだ使える」にも関わらず、訳あって処分対象になってしまう商品ってあるじゃないですか。たとえば、食料品だったら比較的、賞味期限がせまっているといった理由で。
そういった商品をメーカーから買い取って販売することで、近年問題視されている「食品ロス」「商品廃棄」など社会の課題解決への貢献を目指しています。
へ~、知りませんでした!藤井さんのように挑戦を続けているわけですね。
試行錯誤中のものもありますが、ガス事業という伝統だけにとらわれずに、幅広い分野でチャレンジを始めています。
どうして、ガス以外の分野にも事業を広げているんですか?
転機のひとつは、ガスの小売自由化の動きです。
以前は住んでいる地域によって契約するガス会社が決まっていたんですが、2017年の全面自由化によって、自由に契約する会社を選べるようになったんです。
あ、電力会社と同じですね。
はい。電力はガスの前年、2016年に小売全面自由化がされています。
こうした自由化の動きをきっかけに電力会社がガス事業に入ってきたこともありますね。
逆に私たちも電力分野に参入していて、電力事業はいまや本業の1つです。
あとは将来的なエネルギー需要の見通しも理由のひとつですね。
ガスが使われなくなっていくということですか?
ガス自体は生活に欠かすことのできないインフラなので供給は続いていくと思います。
ただ人口減少・高効率ガス機器の普及等が予想されている中で、エネルギー需要や市場規模はどうしても広がっていかないということになります。
市場が限られていく中で生き残っていくためには、収益をあげるためのいろんな柱を作っていく必要があるということですね。
ガスだけで収益をあげる、というわけにはいかない時代なんですね。
もちろん、今後もガス事業が主力の一つであることは変わりません。
でも、2030年にはガスや電気のエネルギー事業で収益の半分を、残りの半分をそれ以外の事業であげることを目指しています。
そんなことが可能なんですか?
そうなれるように頑張ってます。
以前は、会社に入ってきたらみんなが必ずガス事業を経験するという状況だったんですけれども、最近はガスだけでなく、電力、サービスなどの新しい分野に関わる社員の比率も増えてきました。
いまでは新卒で入社する社員はガス事業から、まったくガス事業に関わらない分野も含めて、幅広いフィールドで活躍しています。
まさにいま、大きな変化の中にあるんですね。
2つ目のニュースは、カーボンニュートラルですね。ニュースでたまに耳にすることばですが、あらためてどういうことなのか教えてください。
カーボンニュートラルというのは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロとするというものです。
植林活動や、再生可能エネルギーの導入などを通じて、排出せざるを得なかったCO2と同じ分のCO2を吸収して、均衡している状態のことをいいます。
現状としては、CO2の排出を物理的にゼロにするってかなり難しい。そこで、吸収量と差し引きすることで実質ゼロにしようという、このカーボンニュートラルの考え方が生まれました。
排出した分だけのCO2を全部回収することってできるんですか?
そのためにいま、力を入れている取り組みのひとつが「メタネーション」という技術の開発です。
メタネーション?
今はまだ、馴染みのない言葉かもしれないですが、将来、ガス業界の有りようを一変させる可能性がある技術として期待されています。
日本で一番多く使われている液化天然ガス(LNG)というガスは、メタン(CH4)という物質がその主な原料になっています。
このメタンというのは、実は水素(H2)とCO2を反応させることで合成できることが分かっているんです。
そこで、排出したCO2を再利用しながらガスの原料となるメタンをつくってしまおうというのが「メタネーション」の概念です。
メタネーションで合成されたメタンを燃やすと出てくるCO2は、一度排出されて回収されたCO2のため、新たにCO2が排出されるわけではありません。
そうしたことからカーボンニュートラルの実現に貢献する技術として期待されています。
実用化の見通しはたっているんですか?
当社では2022年の3月から試験を始めているところです。
製造の効率化や、低コスト化といった課題はあるんですが、将来は一般家庭でメタネーションで作ったガスの供給が行われているかもしれません。
素朴な疑問なんですが、こうした環境への取り組みって利益につながるんでしょうか。
確かに、今すぐに利益にはならないです。それでも、このカーボンニュートラルが実現できない会社が世の中から選ばれない社会になっていくと思っていますので。
もちろん地球全体のためでもあるんですが、このような挑戦を続けないと会社としては生き残っていけないと考えています。
3つ目のニュースとしてDXをあげていただきました。最近、よく耳にすることばですが、ガス事業者におけるDXってどのようなものでしょうか。
まずは業務プロセスの効率化ですね。
原料を海外から調達するところから国内のお客様に届けるまでの一連の事業の流れをLNGバリューチェーンと我々呼んでいますが、そのバリューチェーンの中でデジタル技術を使うことで業務の効率化を図っています。
例えば、ドローンを使ってガスの基地を点検するなど、これまで人がやっていたことを技術で置き換えていくことがひとつの取り組みです。
ガスを利用するお客さんに近い部分で変えようとしていることもあります。
どんなことですか。
例えば、ガス機器の修理。これまでガス機器に不具合が起きた場合には、お客さまから連絡をもらってから修理にいくというのが当たり前でした。
ところがAIを導入することで、そのお客さまのガス機器がどのくらいのタイミングで故障しそうかという予測を立てることができるようになります。
故障する時期が事前に分かる?
そうですね。故障した機種や時期のデータを蓄積することでAIによる予測が可能になります。
あらかじめ修理の時期を予測して故障する前に対応することもできますし、不具合の原因の推測もできるので、修理の効率化にもつながっています。
故障する前に修理できれば、急にガスが使えなくなって困ることが少なくなりそうですね。
デジタルによる変化が身近なところにもあるんだと気づきました。
あとは、デジタル技術を活用して、お客さまの幅広いニーズに合わせた最適な料金メニューのスピーディーな提供も目指しています。
そんなことまでできるようになっているんですか!?
ガスをはじめとするエネルギー業界でも、今後、デジタル化によってプレーヤーが変わってくる可能性があると考えています。
そうしたプレーヤーが出てきた時に指を加えて見ているのではなく、自分たちも積極的にデジタルを取り入れて競争力を高めていきたいと思っています。
最後に、エネルギーの仕事に携わることの魅力を教えてください。
エネルギーというのは、暮らしに身近な存在であって当たり前のように感じることも多いと思うんですけど、当たり前を実現するっていうのは意外と大変なんです。
だからこそ責任感をもって働く必要がありますが、世の中に貢献できているやりがいを感じながら働けるというのはエネルギーの仕事ならではの魅力だと感じます。
加えて、この先にはカーボンニュートラルの実現などといったハードルがたくさんありますが、そこにダイナミックに挑戦できるのがこの業界ならではの魅力ではないかと思います。
どんな会社のどんな仕事でも、何かしらのかたちで社会に役立っていると思います。
自分が何を大切にしたいのかというところにじっくりと向き合って、いろんな角度から仕事というものを捉えてもらえればいいのかなと思います。
ありがとうございました。
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