2020年03月24日
(聞き手:工藤菜摘 田嶋あいか)
“地域に貢献したい!”という学生たちに人気がある信用金庫。でも、その業態は意外と知られていません。銀行と何が違うの?グローバル化の中でどう生き残るの?注目ニュースは?東京オリンピック内定選手も働くという城北信金の人事担当者に1から聞いてきました。
そもそもで恐縮なのですが、実は信用金庫というものをよく分かっていなくて…
説明しますね。信用金庫は銀行と業務はほぼ同じなんです。でも、成り立ちや理念、役割ってところがちょっと違っています。
銀行は株式会社。利益を追求することがそもそもの目的ですよね。
信用金庫は株式会社じゃないんです。「協同組織金融機関」って形態で、非営利組織と言われています。
株式会社じゃないんですか。
「協同組織金融機関」の「協同」は「仲間の」っていう意味なんです。
要は地域で働いている人や暮らしている人たちがお互い助け合いましょう。
そのための金融機関を作りましょうっていうのがそもそもの成り立ちです。
なるほど。そうすると取引相手は中小企業が多いんですか。
そうですね。中小企業専門金融機関と言われておりまして。
銀行は海外に進出したり、投資をしたりして利益を求めていきますけど、信用金庫はあくまで地域のために活動している。
信用金庫法っていう法律があって、地域外への展開は法律的にもできないようになっているんです。
信用金庫
「信用金庫法」に基づく金融機関。営業できる地域が信用金庫ごとに定められ、そこに住む人や中小企業が出資してつくる組織。集まった資金は会員への貸出や、地域の振興のために信用金庫が活動する元手となる。城北信用金庫の営業地区は、東京23区の城北エリアや、近隣の県の一部など。
そうとう地域と密接なんですね。
地域と運命共同体ですね。地域が廃れてしまえば信用金庫も運営が難しいです。
それでは、1つ目のニュース、「フィンテック」を選んだ理由を教えてください。
フィンテックは「ファイナンス(金融)」と「テクノロジー(技術)」が掛け合わさって作られたことばです。
今までの金融機関の機能は、決済だったり振り込みだったり、もともとは窓口やATMとか、金融機関を介してやってましたよね。
はい。
今はITが入ってきて、○○ペイみたいにバーコードだけで決済ができますし、金融機関を介さなくても金融サービスを受けられますよね。
だから、金融機関としては何ができるのかを考えないといけないですから、関心を持っています。
どう変わっていこうとしているんですか?
新たなものをいかし、機械に任せられるところは任そうかと。
そのなかで、私たち人間の職員が何をやっていくかというと、やっぱり「人」の部分に力を入れていこうと考えています。
「Face to Face」というのが全国の信用金庫のキャッチコピーなんです。直接会うことを今でもすごく大切にしています。
そうなんですね。
今はネットやLINEですぐ連絡が取れますけど、実際に対面でコミュニケーションして、お客様のニーズを聞き取ったうえで新しいご提案をしていきます。
地域のお客様はたくさんの情報を持っているので、金融と金融以外の両面からサポートをしていくのが信用金庫ならではの視点だと思っています。
地域に密着してる分、コミュニケーションをしっかり取っていこうと?
まさにそうで、直接何度も会うことを今でもすごく大切にしています。
500人の営業担当者がいますけど、自転車やバイクに乗って、1軒1軒訪問しているんですよ。
へー、1軒1軒!
1日30軒から40軒、多いと50軒回ってお客さんに会っています。
一見、非効率的に見えますけど、信用金庫の一番の強みは情報量の多さで、お客様のことをよく知っていること。
飼ってる犬や猫の名前も分かっているくらい(笑)
犬の名前ですか!
お客さんも「うちの商売のことは城北さんが一番分かってくれているんだ」と。
なにかお金や経営でこまったときに、「城北のあの営業、あの窓口の人に相談しよう」と思ってもらえる存在を目指しているんです。
でも、経営的にも大変な中小企業も多いんじゃないですか。
たしかに、お客様の財務内容を把握しただけでは、100点満点の中小企業ってそうそうないんですよ。
でも、財務内容が悪いですね。じゃあ融資をお断りしましょうでは、中小企業の支援なんて何もできないです。
経営者がどんな思いでやってるのか、どういったビジョンでやってるのか。訪問して色んなことを話しているからこそ、分かることがあります。
そこが信用金庫の一番の強みですよね。
だから、「人間力」で勝負するということですね。
時代に合った金融商品を提供していくことはやっていきますが、そのとおりですね。
2つ目は、中小企業事業者の減少ですね。
これって今に始まったわけじゃなくて、ずーっと昔から言われていて。
実際どこが減っているかというと、小規模企業なんです。
小規模企業というと個人事業主の方で、私たちにとっては支援をしていきたい層ですので注目しています。
そもそも、なぜ小規模企業が減っているんですか?
結局、後継者がいなくなったりして、廃業せざるをえないケースが多いんです。
私も営業をやっていて、おじいちゃん1人で小さいお店やっていて、別に借金があるわけでもないけど、息子もサラリーマンをしているので、あとを継がせるつもりもない。
そんな形で廃業してしまっているケースが体感としては多いです。
そうなんですね。
そして、廃業の数に比べて起業する企業が少ないのが問題で。もっと地元で起業していく人を支援していきたいんです。
地域金融機関として、もっとお客様にできることってあるって思っていて、何も金融に限らないんじゃないかと。
金融に限らない取り組みですか?
例えば、このインキュベーションオフィス。
荒川区町屋の支店そばに設置。2階が創業間もない企業のための8室のオフィス。1階はNPOが運営するカフェになっていて、起業を支援しながら地域の人たちも交わる場にするのがねらい。
ここには中小企業診断士もいるし、うちのスタッフで本業の支援もしている。
価値を提供していれば、資金需要が出た時にうちにまず相談してくれるんですよ。
融資の金利ではなく、そうやって勝負していくんです。
お金を貸す以外でも中小企業を支えていれば、事業者数が減っていても地域に貢献できるんですね。
ほかにも取り組んでいることはあるんですか。
信用金庫の中で先駆けてやっているのは、ウェブマガジンやクラウドファンディングで中小企業と消費者の仲人をしましょうっていうサービスです。
例えば、お店を開いてみたら誰も来てくれなかった。そうなると、すぐにつぶれてしまいます。
だから、少しでも知ってもらいたいと、城北信用金庫のホームページでは、お店を開きたいという人の記事を職員がリポートしたり、写真撮ったりして記事を載せているんです。
そうすると、なかには事業を応援してくださる方とかもいらっしゃるんですね。
中小企業って大企業のように広告出したりとか、広報に人を割いたりとかはなかなか難しくて、課題として抱えている方が多いので。
そういった方向けに、城北信用金庫がお客様の商品を宣伝というか、広報のお手伝いしますよっていうことです。
地域内のプラットフォームみたいな役割なんですね。
そうです!
企業の商品が売れたり、地域の企業の魅力が広まったりすれば資金需要も増えますし、一緒に成長することができると思います。
最後のニュース、「東京2020」を選んでいただいた理由を教えてください。
城北信用金庫は、今、6人のアスリートを正職員として採用して、競技を支援する活動をしているので選びました。
なぜ、採用しているのかというと、彼女たちはトップアスリートなのでふつうの人は知らないような苦労とか挫折とか努力を経験しているんです。
金融と全く異質な部分を取り込むことで、社員の意識や社風に変化を起こす起爆剤にしていきたいという狙いです。
実際にアスリート採用で変わったことはありますか。
私と同じ採用研修部に職員がいて、「今こんなこと頑張ってます」とか試合の報告をしてもらったり。「遠征で出し切ってきます!」って話を聞くんですね。
私のひとつ年下なんですけど、テコンドーの山田美諭選手がいます。実は、きのう選考会があって優勝しました。
オリンピックに内定したと、さっき報告を受けてきたばかりなんです。
さっきですか!?
そう、「応援本当にありがとうございました。大会も結果残すことできました」ってうれしい報告をしてくれて。
ずっとそばで見てきたというのもあって、頑張ってるのを見ると私もチャレンジしていかないとと、本当に励まされます。
それだけではなくて地域活動にも貢献してもらいます。
小学校で運動教室を開いたり、色んなお店からお子さんがいる職員が参加する教室なんかもやって。
地域とのコミュニケーション、職員どうしのコミュニケーションにも協力してもらっています。
信金の業務とも意外と密接に関わっているんですね。
最後に、信用金庫だからこそできることや、就活生にとっての魅力はありますか?
やっぱり試されるのは「人間力」の部分なんですね。
私も窓口を3年間やってたんですけど、お客様と仲良くなったりとか、名前で呼んでくださったりとか。
どんどん仲良くなっていくことで、商品は同じだけど人で選んでもらえることも増えてくるんです。
自分が成長すればするほど、できる仕事がどんどん広がっていきますし、そこが一番楽しいと言いますか。
自分を高めていけばいくほど、大きい銀行であろうが戦える、生き残っていけるというところがこの仕事で一番楽しく、大切なところかなと思っています。
編集:加藤陽平