2021年11月24日
(聞き手:堤啓太 本間遥)
企業が便利で使いやすい商品を提供してさえいれば、という時代は終わり、社会や環境に配慮していなければ消費者の支持を得にくくなっています。私たちの暮らしを支える生活用品業界はどう向き合っているのか、ユニ・チャームの人事担当者に聞きました。
最初のニュースに「SDGs」を選んだ理由を教えてください。
世の中のトレンドでもありますが、何よりもSDGsの実現こそが我が社のパーパスであるという理由から選びました。
どういうことでしょうか。
私たちは生活者に寄り添った商品を扱う企業なので、事業そのものが社会貢献につながると考えています。
「SDGs」
2030年までに解決を目指す、世界共通の目標。「すべての人に健康と福祉を」「つくる責任つかう責任」など、17の項目を目標に掲げた。
具体的に教えてください。
例えば、高齢者の健康寿命の延伸をサポートするための事業をしています。
健康寿命ですか?
日常的な医療・介護に頼らず、自立した生活ができる期間と思ってください。日本人は平均寿命と健康寿命の差が男性で約9年、女性で約12年と言われているんです。
この期間は介護など人の手を借りる可能性のある期間なので、これをできるだけなくそうという活動です。
できるかぎり健康なまま寿命を全うするために、企業としてどう寄与できるかを考えているということですね。
そうです。
具体的にどんなことをしているんですか。
例えば、歩行アシストパンツという紙おむつがあります。骨盤に圧力をかけることで体幹を支えることにつながり、歩きやすくなる製品です。
生活のシーンで例えると、ご自身でトイレに行けるようサポートすることで生活の質を高め、健康寿命の延伸につなげたいという思いがあります。
ただ、私たちが扱っている商品は残念ながら使い捨てになってしまうという問題があります。
確かにそうですね。
超高齢社会の日本では、大人用の紙おむつは赤ちゃん用よりも使用量が増えています。
生産量も年々増加していて、家庭から排出されるゴミのうち紙おむつの体積が8分の1に達するほどです。
そんなに多いんですか!
紙おむつは、木材から作られるパルプが主な原料になっているんですが、使用量の増加は森林資源を消費することにつながります。
ゴミの焼却によるCO2排出量を減らすこと。そして資源の循環的な利用がメーカーが果たすべき責任だと考え、ユニ・チャームは使用済み紙おむつのリサイクル事業を開始しました。
使用済みの紙おむつを新しいおむつに変えるってことですか?
そうです。水平リサイクルと言いますが、世界で初めての取り組みなんです。
回収した紙おむつを洗浄、分離して、パルプを独自技術でオゾン処理することで、排せつ物に含まれる菌を死滅させます。
未使用のパルプと同等に衛生的で安全なパルプとしてリサイクルするシステムを実現できました。
水平リサイクルって、リサイクルを考える上での1つのトレンドなんですか?
身近で使われているようなトイレットペーパーやメモ用紙などに活用する、これをダウンサイクルといいますが、これはもはや当たり前になっています。
よりよいものにリサイクルしていくという姿勢は、企業としても求められているのではないでしょうか。
ちなみに、水平リサイクルされた紙おむつはもう実用化されているんですか?
来年の春ぐらいに実用化する予定です。店頭でお客様用として並ぶのか業務用なのか、または防災備蓄品なのかは検討中です。
リサイクルを進める上で、課題はありますか?
技術的な難しさはもちろん、リサイクルについて顧客の理解を得ることが重要です。特に、みなさんのような若い世代への「エシカル消費」に対する教育はかなり重要だと思っています。
「エシカル消費」
環境や社会貢献に配慮した製品を選んで買い求めること。SDGsの「つくる責任つかう責任」に関連した取り組み。
そのために、夏休み中の小中学生の親子向けに紙おむつのリサイクルについて勉強会を開いたりもしています。
消費者の意識も変えていく必要があるんですね。
2つ目のニュースは「インクルージョン」ですね。
はい。私たちの考えるインクルージョンは、生活弱者と呼ばれる人や加齢や疾病、出産や生理などによって不利な状況にある人。
そういった方が、どのような状況でもその人らしい生活を送れるように一人一人が自立し、ほどよい距離感で支え合う社会です。
具体的にどんな取り組みをされているんですか?
例えば、顔が見えるマスクを開発しました。開発のきっかけになったのは私と同じ人事で働く、聴覚に障害がある社員です。
聴覚障害の方は口の動きを見ながらコミュニケーションを取りますが、コロナ禍でマスクが当たり前になりました。
口の動きが全く見えなくなってしまってコミュニケーションが取りにくいんだと社長に直接相談したことが開発のきっかけなんです。
そうなんですね。
障害のある方でもいつも通りの生活が送れるような共生社会を実現するために、透明で顔や表情が見えてコミュニケーションが図れる商品を発売したかったんです。
実際にあった不便さを解決する商品だったんですね。
はい。また、生理について気兼ねなく話せるような世の中を目指して行っているプロジェクトもあります。#NoBagForMeと名付けました。
どういう狙いで名付けたんですか?
直訳すると、「私は袋いりません」ということです。
日本では、生理用品を購入する際に、紙袋に包んだりして周囲から見えなくする文化がありますよね?
背景には生理に対して目を背けるような文化があり、オープンにできない、はずかしいものというイメージがついているのではと考えました。
私たちは生理について気兼ねなく話せる世の中にしたいと考えています。
どうしてそう考えたのでしょうか。
生理用品の市場調査を行う中で、生理というトピック自体がなかなか話題に上らなくて、情報交換も少ないと感じていました。
もう少し普段から自分にとってどんな生理ケアがいいのか話し合える環境を作りたいと考えました。
具体的にどんなことに取り組んでいるんですか?
企業向けに生理について研修を行っています。ただ、生理について話す場を無理に提供しようということではありません。
自身の生理にまつわる悩みや、自身に合った生理ケアを知る機会にしてもらい、生理期間をいつもどおり自分らしくすごしてほしいということが私たちの想いです。
そうなんですね。
フェムテックや生理の貧困という言葉が話題になっていますが、声を上げやすい世の中に変化しつつあると捉えています。
確かに、最近よく聞くようになりました。
企業向けに始めた生理研修も、男性も女性も一緒に実施しています。今では大学や自治体からの応募も増えているんですよ。
男性が知ることも大事なんでしょうか。
はい。社会に出るとまだまだ男性の管理職の割合が高いです。それによって、生理の時に休みにくいという問題もあります。
男性が知識や理解を深めることで変わっていくと思います。
ひと事じゃないんですね。
今は社会人の話で例えましたが、学生の皆さんもパートナーをいたわるということにもつながってくるのかなと思います。
最後は「働き方改革」。どうして選んだのでしょうか。
トレンドのことばですよね。私たちは働き方改革のためには働きがいを自分自身で高めていくことが大事だと考えています。
どんなことをしているんでしょうか。
リモートワークの推進や、働く時間も自身で選択できるようにコアタイムを全て撤廃しました。
佐々木さんは育休を取得されたとお聞きしました。
はい。5月に1人目の子どもが生まれて、約2週間ほど休暇をいただきました。
実際にとってみていかがでしたか?
「男性の育休」
企業などで働く男性で育児休業を取得したのは昨年度12.65%。政府は男性の育児休業の取得率を2025年までに30%とする目標を掲げている。ユニ・チャームの男性取得率は83%を超えている。
正直なところやっぱり不安はありました。仕事が全くできなくなるし、同じチームのメンバーにカバーをお願いする形になるので、業務が滞ってしまう…という不安はありました。
そうですよね。
ただ、育休を取る前日にメンバーにメールしたところ、部長から「心配かもしれないけど意外と回るよ」と言われたんです。
寂しかったんですが「1人いなくてもチームで働けば問題なくできると思うよ」とも言ってもらえました。
実際に取得して、良かったことってありますか?
メリットしか感じていません。子どもと一緒にすごす時間はなかなか取れないので、身近に成長を見届けられる機会になりました。
ユニ・チャームも赤ちゃん用の紙おむつなどを展開していますし、紙おむつのありがたみを身に染みて感じました。
貴重な時間だったんですね。
ユニ・チャームの商品も使い方やサイズを間違えるとモレにもつながるため、育児の大変さも感じる機会になりました。
就活生へメッセージをお願いします。
社会人になって、楽しいこともありますが、失敗もするし、苦しいこととかつらいことがたくさんあります。
素直に自分が失敗したことを認めて、自分の成長に生かすことが大事で、「素直さ」は大事なキーワードの1つだと思っています。
ありがとうございました!
編集:高杉北斗 撮影:徳山夏音
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