小学館 人事担当者に聞く

デジタル時代の出版社ってどうなっているの?

2021年01月18日
(聞き手:伊藤七海 堤啓太 本間遥)

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紙からデジタルへ。出版業界の変化が加速しています。そんな中、出版社のコア部分はより明確に。変化のスピードが速い今、就活生が知っておくべきマストなニュース3本を小学館の人事担当者に聞きました。

学生
伊藤

よろしくお願いします。さっそくですが、出版社というとやっぱり編集者のイメージが強いんですけど。

編集者のイメージというのはそのとおりだと思います。小学館ですと、7割ぐらいが編集者です。

小学館
加藤さん

答えてくれたのは、人事・人材課の加藤洋平さんです。

こんな企画を雑誌の誌面に載せたい、こんな考え方を訴えたいというアイデアを、さまざまな人の力を借りながら形づくっていくのが編集者の仕事です。

いろんな人を束ねているっていう感じですか?

そうです。漫画を描くのは漫画家です。文章を書くのは作家です。写真を撮るのはカメラマンです。

チーム全体を俯瞰して、最終的にどう読者に訴えかけるかまで、全体の流れをプロデュースしているのが編集者という感じですかね。

取材は緊急事態宣言が発令される前、12月に実施しました。

編集者以外にはどんな仕事があるのですか?

残りの2割くらいが営業セクション。1割が管理系で人事、総務、経理。どこの会社にもあるコーポレート部門です。

学生
本間

営業はどうやって(コンテンツの)認知を広げていくのですか?

最近はSNSも増えましたが、ひとつは、いわゆるメディアの宣伝手法。テレビCMを打つ、ウェブ上でのPR。

あとは、イベントを企画して、作品の世界観に合わせたキャンペーンをすることもあります。

学生

先日、ドラえもんの映画を見たんですけど、エンドロールに小学館とありました。

出版社は映画にどういう関わり方をしているんですか?

映画は最近、製作委員会というものが組織されます。原作者から作品をお預かりしている出版社、テレビ局とか、当然、映画の配給会社とか。

更に言うとエンタメとふだん全然関係ないような企業の名前が入っていたりもするんですよね。

そうなんですね。

出版社にしかできない事は、その原作者との橋渡し役。

原作者が望まない形になることだけは、絶対避けなきゃいけないですから。

出版社は原作者側にも立っていなきゃいけない。けれども、興行として成功にも導かなきゃいけない。

なんだか板挟みになりそうですね。

まあ、難しいとは思いますね。

同じ製作委員会メンバーの中でも唯一、原作者側に立てるという意味では、出版社だけ少し立ち位置が違うかもしれないですね。

アフターコロナ

1つ目のニュースは「アフターコロナ」ですね。選んだ理由をお聞かせください。

まさに、出版社とかエンターテインメント業界にも、もちろんコロナの波が来ました

緊急事態宣言下では、リアル書店での売り上げに影響がありましたし、映像作品の公開延期などもありました。

たしかに。

ただ一方で、巣ごもり需要があったことによって、デジタルの売り上げが伸びました。

生活様式の変容を迫られたことで紙とデジタルという届け方にも変化があったわけです。

業態としても大きく変容していくきっかけになると思ったので「アフターコロナ」を1つのキーワードに選びました。

コロナは総合的に見て、出版社にとって打撃だったのか、それとも前向きにとらえられるのか。どっちの方が大きいですか。

広い意味での売り上げでいうと、実はそんなに打撃じゃないんですよね。

どういうことですか?

マイナスのところはありましたが、実はプラスに転じた部分もあります。

アウトドア雑誌の売り上げは好調に推移していて、ソロキャンプ特集を組んだ号は、完売に近かったんです。

実はそれって、デジタル化の波とは真逆で、紙の雑誌が売れているという側面もあるんです。

紙で読みたい、紙の雑誌が欲しいという人にも届いてますし、アプリでコミックを読みたいという人には、デジタルで届いているんです。

読者のニーズに合わせた形で、しっかりと届ける必要があります。

紙で見てほしい本、逆にデジタルが進んで欲しい本はありますか。

難しいですね。ただ、実は、紙とデジタルがお互いを邪魔しあっているという認識はしてないんですよ。

「どっちかで火がつけばどっちも売れる」みたいなことが起きたりするんですよね。

そうなんですね。

働き方では、コミュニケーションが大事だと思うんですけど、コロナでどうなりましたか。

その日にもよりますが、現在(取材時)4割が在宅勤務です。取材や打ち合わせもオンラインが増えました。

編集作業で最後のチェックを校了と言います。

これまでは担当者、副編集長、編集長のチェックは紙ベースで行うことが多かったんですが、すべての工程をオンラインでということも増えています。

「社内のDXは相当進んできた」と話す加藤さん

紙の会社、古めかしい感じの会社のイメージが強いかもしれないですけど、社内は相当、DXが進んでいると思います。

オンラインが増えてやりにくいと感じましたか。それとも新しい発見がありましたか。

そこは、ちょっと出版社としてのジレンマがありますね。

日常生活の中で⾒たふとした光景とか、個人の体験がコンテンツづくりに結び付くこともあります。

そういうことって、ちょっとした雑談から生まれたりするんですよ。

企画は何気ない会話から生まれることも・・・。

漫画家の先生と「次、どうしますかね」ってコーヒー飲みながらとか。いろんな人と「ちょっとご飯行きません?」みたいな。

そのなかで「この前、こんな事があって」って唐突に思い出して話してみたら「それ、面白いじゃん」ってなる事があるんですよね。

なるほど。

そういう時間をとりにくくなっていることはありますね。

すぐに明日影響が出るというわけではないですが…

“長い目で見たとき、影響があるんじゃないかと漠然とした不安”は感じることはあるかもしれません。

人生100年時代

2つ目のニュース。「人生100年時代」についてお聞きします。選ばれた理由は?

何歳になっても、新しい発見、何かに興味を持つことが必要なのかなと思っていて。

それを、豊かな時間にしてもらえるコンテンツを提供するのが出版社にできる事だし、責務だとも思ったので選びました。

実際にニーズはあるんですか。

そうですね。まさにこれ、持ってきたんですけど。

これ(「小学生なら知っておきたい教養366」)シリーズ累計30万部なんですよ。

子どもと一緒に読んでる親が「自分でも知らなかったことがこんなにある」って夢中になっちゃったという感想をいただいて。

文化や教養の再発見ブームみたいな感じでとっていいですか。

そうですね。教養へのニーズみたいな。そういうニーズは何歳になってもあるんだろうなって。

私たち学生が今までやってきたのは、受験のための詰め込み勉強ばかりだったんですけど、そういうのから一旦外れて…。

そうですね。「学び」って、学校のテストみたいなイメージとは違う。

学び直しは、出版社にとって追い風なのですか?

趣味嗜好や興味はすごく多様です。そこにピンポイントで響く内容を作っていけば、それは追い風になると思います。

NHK紅白に「香水」

3つ目に挙げて頂いたのが、NHK紅白に瑛人さんの「香水」と。これの理由を教えてください。

これは結構、挑戦的にいってみました(笑)。歌詞の「ドルチェ&ガッバーナ」って歌えるの?って話題になりましたよね。

そうですね。

時代の変化によって変える必要に迫られることもあり、固執することは、あまりいいことではないと思ってて。

(今回、NHKが)そこに動きを出したっていうのは、単純にすごいなって思ったんです。

これだけ時代がどんどん変わってきてるので結局それは、どこの業界、企業においても一緒で、そういう意味を込めてこれを選びました。

この話を採用にあてはめると、求める人材が変わってきたということですか?

そうですね、出版社としての役割って、これまでになかった考え方で作品を作るって話しましたよね。それが今、より強まっているというか。

それこそ「え!こんなビジネスも出版社がしてしまうの!」っていうところを考えられる人材は、求められていくことになっていますね。

小学館2022年度定期採用ページ

(小学館の)採用ページを見てみたら「集まれ変集者!」とあったんですが「変」に込めた思いを改めてお聞かせ願えればなと。

100人いたら、ほかの99人と自分だけが違うみたいな意味合いではないんですよ。

編集者は、クリエイターと読者の間で「黒子」となって双方を引き合わせていく仕事です。

(クリエイターと読者の)間に立つ編集者が「すごく変」だと世間の理解や共感をなかなか得られないコンテンツができあがってしまうかもしれない。

それはわかる気がします。

変っていうのは、別に勉強、サークル活動、ゼミだろうが、遊びでもいいと思うんですよ。

自分はこれだけは誰にも負けない。これまで時間をかけて、熱量をかけて、何ならちょっとお金をかけてこだわってきた部分

「その事、僕に聞いちゃいます?2時間かかりますよ!」みたいな何かがある人、その変なところ集めてる人、という願いを込めました。

就活生って不安になりやすいので、私、ちょっとあんまり変な人じゃないって…。

そうそう、そうなんですよね。誤解をされてしまうのが、いちばん怖かったんですけど。

自分の興味、これまで関心があったものを、今まで以上にもう1歩踏み込んでほしいって事なんですね。

これからの出版社って、どういうことを目指しながらやっていくんですか。

壮大な話ですね(笑)

スマホに切り替わったから、出版社も役目を終えたとか、誰も本を読んでないじゃんって言われます。

小学館が運営する漫画アプリ

でも電車に乗っている全員が、スマホでコミックを読んでいるのか、配信ニュースを見ているのか、映像作品を見ているのか。

それをしてくれたら出版社としては勝ちなんですよね。

といいますと。

どれも、出版社が生み出したコンテンツに触れてくれてる事なんですね。今後の出版社として、目指す理想の形だと思います。

ぶっちゃけ、紙に戻ってきてほしいなっていうのはありますか?

決してどれかに固執するって事はないですね。

形はどうあれ、出版コンテンツに世の中の⽅が触れてくれていればいいと思っています。

その触れ方に紙メディアがあり、デジタルがあり、音も映像も体感もある、ということです。

3つのニュースを選んでいただいた背景もよくわかりました。きょうは、ありがとうございました。

編集:永楽真依子

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