2022年09月30日
窮地に陥っていたソニーグループ。平井一夫前社長は、社員が同じ方向に向かって進めるチームワークを作り上げることで会社を復活させました。強力なチームの作り方について聞きました。
聞き手:本間遙 黒田光太郎
平井さんが会社で一番大切にしてきた価値観とはどのようなものですか。
ソニーは全世界でいろいろなビジネスを展開する、社員が約11万人いる大きな会社です。
社長もしくは会社の役員レベルで「こうしようよ」って決めても、実際に戦略を実行していくのは社員の皆さんですよね。
なので、リーダーの仕事は社員の皆さんに「どういう方向に会社が行くか」をできるだけ多く説明する。
そして社員が「なるほどわかった、自分はこう貢献しよう」と1つの方向に向かって進む環境を作れるかどうかが、一番大事だと思っていました。
チームが同じ方向を見ていくことを心がけていらっしゃったっていう事ですね。
ビジネス領域が広いので、社員がそれぞれ違う方向に向かって走ってしまったら本当にばらばらになってしまいます。
小さい組織においても同じで「方向性を示すこと」と「こうあるべきだ」っていう会社の存在意義とビジョンを示すっていうのは大事だと思っています。
1960年東京生まれ。幼少時代は父親の転勤でニューヨーク、カナダなど海外生活を送る。大学卒業後、CBS・ソニー入社、ソニー・コンピュータエンタテインメント・アメリカ社長などを経て、2006年ソニー・コンピュータエンタテインメント社長。09年ソニーEVP、11年副社長、12年社長兼CEO、18年会長。19年からシニアアドバイザー。
そういう考え方に至った背景はなんですか。
私も若いころに上司に「何で今やるのか」を説明されたプロジェクトは「分かりました、ここに向かって頑張りましょう」と素直に言えました。
でも、その説明がないと「何でこれが大事かよく分かんないけど、一応上司に言われたからやりましょう」ってなってしまうんです。
ちゃんと自分の中で腹落ちしている方が力が入りますし、120%頑張ろうってなりますね。
ご自身が経験されたことから学んだんですね。
最初にリーダーについたのは、アメリカのプレイステーションの責任者になったときで、私が35歳の頃でした。
プレイステーションをこれからアメリカの市場でどうビジネスしていくか、当時300人ぐらいの社員の皆さんに説明して、腹落ちしてもらうことが大事だと感じました。
ソニーという大きな組織の経営になっても全く同様で、社長を務めた6年間は説明をし続けましたね。
平井さんは当時、どのようなチーム作りを心掛けていたんですか?
社長直属のマネジメントチームにはエレクトロニクスやゲーム、映画といった各ビジネス分野のトップが集まります。
まず当然求めるのはその業界の圧倒的な知識と経験、それに人脈です。担当のビジネスを実質経営してもらっているわけですから。
またチームを率いているのでやはり人間としてリスペクトできるってことが非常に重要になってくると思います。
もう1つは、私の意見に対して「ちょっと待った。私はこう思うんです」って言える勇気を持っていることです。
肩書ではなくて、人格で仕事ができることです。
逆に「平井さんそのとおりですね」と言われると、えらい心配なわけですよ。
私が言ったことを全部肯定するのであれば、チームの皆さんがいる必要ないんですよ。自分でやりますから。
「違う」と発言していいんですね。
会社に対する付加価値は「こういう見方がありますよね」と異見を言ってくれることにあります。
私と同じことを言っていたら価値がないということは、かなり強く伝えていました。
会社全体のことは私が社長として最終的な決定をしていましたが、決定にいたる前にはいろんな議論がありました。
そのことこそが、チームのメンバーに求めてたものです。
上司に向かって意見するのって、なかなか難しいこともあるのかなって、思ってしまいますが…。
私も昔経験があります。新しいリーダーがきて「何でも言ってよ」と話していたので言ったら「なんでお前そんなこと言うんだ」って逆に怒られて。
こうなると「じゃあもう何も言わない」ってなるわけですよね。
なので、発言しても安全なんだと感じてもらえる環境をつくるんですよ。
どうやってつくるんですか?
私は別の人のアイデアを採用してうまくいったら、取締役会とか上司の皆さんに「これは彼の彼女のアイデアですばらしかったんですよ」って言います。
逆にうまくいかなかった場合は「私が判断ミスしました」って言うんです。“あの人の提案で私には責任はないです”ってスタンスは、絶対とりません。
そうなんですね。
そうすると、チームのメンバーが「いいものは必ず採用してくれる」「うまくいかなくてもちゃんと保護してくれる」と思ってくれるんです。
こうした安全な環境をつくることによって、より大胆な発言、より違う視点から見た発言が出やすい状況になる。これが大事です。
いいアイデアをどんどん採用して、彼らをちゃんとプロテクトする。このコンビネーションがあると議論が活発になるんです。
このプロセスを経ないで「何でもいいから言ってよ」って伝えてもなかなか出てこない。時間と回数を重ねることも必要です。
そうした中で力が発揮できていないメンバーがいた場合は、上司としてどう接するのが理想なのでしょうか?
大勢の人がいる中で「お前、これはさ~」などと指摘してはダメ。1対1の対話がすごく大事です。
「何がちゃんとできている」「何が評価できる」「逆にここはもっと改善の余地がある」ということを理路整然と説明して、まず腹落ちしてもらう。
そうしたら、似たような案件でもう1回仕事をしてもらうんです。
そして進捗を確認したうえでフィードバックをする、ということを繰り返すことによって必ず成果が出てくると思います。
フィードバックを受ける側はどうふるまえばいいのでしょうか?
どういう意図で上司が説明をしているかをちゃんと受け止めなければなりません。
「怒られちゃったよ、俺はもうだめかもしれない」ではなく「改善してほしいから言ってくれているんだ」という意識をちゃんと持たなければいけないということです。
共通理解というか、物事をよくしていこうっていう前提があることが大事ってことですね。
そうです。だから人格も大事なんです。
あと短期的な目標を設定することもすごく大事です。
「この半年間は売り上げをこうする」とか何でもいいんですが、それに対する進捗を確認していくことが大事になってきます。
仕事を受ける方も受けやすいですし、どこに向かうかも分かりやすい。指示を出した人も「これを期待するからね」って定義できますしね。
もし、新入社員の時代に戻るとしたら、チームワークのためにどういった行動を取るとお考えになりますか。
そうですね。若い頃って、会社で仕事をすることだけでかなり環境が変わりますし、それ自体が当然プレッシャーになりますね。
だからまずは自分がどう感じるかとか、自分がどう評価されるかってことに気持ちがいってしまう。
ただ、「チームワーク」という観点でいえば、なるべく早いタイミングで「会社のアジェンダって何だったっけ」ということを考えるだけでもすごく違うと思います。
そうなんですか。
それがチームワークにつながっていくと思います。
会社の方向性を意識して毎日仕事をしていれば、見ている上司には、仕事に対する態度として伝わるので、よりチャレンジングな仕事が回ってくるし、新しい機会がどんどん与えられると思います。
「誰も見てくれてない。面白い仕事が全く回ってこない」じゃなくて、大切なのは積み重ねです。
信頼を勝ち取って次のステップに行くということを1つずつやっていくことがすごく大事だと思いますね。
私も社会に出たら、しっかり心がけていきます。
環境ががらっと変わるからいろいろと大変なこともあるけれども、新しいチャレンジになります。
ぜひそういったポジティブな見方をしてほしいと思います。
「発言のセーフティーゾーン」を作り、「腹落ち」してもらうことで社員が“異見”を言いやすい環境を作った平井さん。
後編では平井さんが『ソニーの業績が好調ななかで社長を退任した4つの理由』、そして『退任後の現在、取り組んでいること』について伝えます。
撮影:藤原こと子 編集:清水阿喜子
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