2022年10月12日
「ワークライフバランス」ということばが定着してきました。でも、長時間労働や過労で心身の健康を損ねてしまう人がまだまだいます。
これから日本の働き方はどう変わっていくの?労働法の専門家に話を聞きました。
(聞き手:梶原龍 本間遙 藤原こと子)
学生
本間
働いている人が心や体を壊してしまうような企業って、まだまだあるのではと思ってしまいます。
働きすぎて体を壊してしまう、過労死や過労自殺という被害を生んでしまうのがいわゆる「ブラック企業」といわれる危険な企業の典型的な問題です。
東京大学
水町教授
それはもちろん働いてる人にとっても悲しいことだし、持続可能に働けない環境では企業としても長続きしません。
東京大学 社会科学研究所 水町勇一郎教授
働くうえでのルールを定めた「労働法」の専門家。著書を多数執筆。研究、講義の傍ら、政府の働き方改革実現会議議員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
学生
藤原
若いうちはたくさん働いて経験を積んだほうがいいと言われることもありますが、そう思いすぎないほうがいいのでしょうか?
外国でも、若いうちは平均的に長時間労働で、ある程度自分で仕事のコントロールができるようになっていくと、労働時間は相対的に減っていくという傾向はなくはありません。
けれども、じゃあアメリカって結構なハードワークで、過労死も日本のように起こっているかっていうと、そうじゃないんですよ。死ぬほどは働かないんです。
過労死は、日本とか、主にアジアの問題なんです。
えっ、そうなんですか。
例えばアメリカでは、転職の自由が実態としても広がっているので、死ぬほど働かされるような環境の悪い会社では、辞めて他の会社に転職したりするんですよ。
だから、結果的に自分を壊してしまいそうな長時間労働は、基本的にしない。
学生
梶原
そうなんですね。
逆に言うと日本の問題って、長時間労働体質と「会社を辞める」っていう選択肢が事実上なかったこと。
休めないし、辞められないっていう中で、長時間働いてるのは、欧米諸国とは違う日本の大きな特徴で、そこから過労死や過労自殺が生まれてるんです。
その違いって、根本的にはどこにあるんですか?
そもそものメンタリティーの問題があるのかもしれないし、日本企業の制度の問題もあります。
終身雇用って、その会社の勤続年数によって賃金が上がるんですよ。
だから新入社員の時に辞めるんだったら勤続1年2年がまたゼロに戻るだけで、大した差がない。
だけど年功序列の賃金だから、勤続10年、20年で辞めて転職すると経済的にも大きく不利益になるから、なかなか転職できなかった。
なるほど・・・
ただ、今では年齢に応じた賃金カーブも緩やかになってきて、状況は変わりつつあります。
学生の皆さんの意識も変わってきているので、意識と制度がいっしょになって両面で変わっていけばいいなと思います。
確かにそうやって変わってほしいですよね。
これから働き方ってどうなっていくのでしょうか?
典型的な言い方をすれば、日本では『正規』か『非正規』かというところで働き方が分かれています。
その中で正社員は働きすぎで過労死や過労自殺になってしまう問題が生まれ、非正規社員は賃金が安くてそれだけでは生活できないっていう問題が生まれていた。
これを働き方改革で正社員の働き過ぎも直し、正規と非正規の待遇も中立化していこうという流れになっています。
そうなんですね。
これからはフリーランスも増えるし、外国人や高齢者も含め多様な形でそれぞれの能力とか希望に沿って働けるような、多様性を認めるシステムを作っていこうという方向性になっています。
いろんな選択肢があって、その中で働いた人への評価の分だけ報酬が支払われる。
雇用形態、就業形態も人生の中で、フルタイムやパートタイム、学び直しのための休暇や副業・兼業、さらにはフリーランスとしての自由な活動まで、いろいろ変わるかもしれない。けれども、それらの多様な選択肢に見合ったような機会や待遇を得られるような体系を作っていくのが、これからの大きな方向性です。
「働き方改革」は、この将来に向けた改革のための、10歩のうち2、3歩ぐらい、少しだけ前に進めたのではないかといったところです。
変わりつつあるんですね。
企業の実態も、そういう方向に少しずつ近づいていってるし、法律、制度もそれに合わせて、少し先に行ったり、後ろから少し押したりしているという状況です。
短時間しか働けない人、転勤ができない人、いろんな人がいて、だからこそ能力を発揮できないとか、賃金を必要以上に低く抑えられてしまうというのは、やっぱりおかしいと思います。
おかしいと思うっていう人たちが増えてくれば、法律、制度も変わっていきます。法律は、皆さんの投票を受けた、国会の多数決で決まりますし。
働くための法律って大切なんだなと感じました。
改めて、水町さんが専門にされている労働法ってどういう役割があるんですか?
「働く人」についてのルール。
究極の目的は働く人が人間らしく生きることを実現できるよう、その背中を押してあげることですね。
労働法って働いている時にだけ適用されるわけではなくて、働きたいと思っている人や、休んだり、辞めて年金で生活をする時にも関わっている。
実は労働法って人間が生きていくうえで常に関わってくるルールなんです。
先生からこれから働く若い世代に伝えたいことをぜひお願いします。
何のために働いているのかを、心の片隅に持って働いてほしいなと思います。
足もとのきょうのことしか考えないで働くことが多いんじゃないかと思いますが、この会社に入って何をしたいか、何のために働いているかっていう観点から、自分の立ち位置を時々確認してほしいです。
私も年に1回、1月1日は必ず今年の目標をたてて、去年の目標を見て、『半分ぐらいしかできなかったけど今年どうしよう』って考えます。
ちゃんと自分がやりたい仕事ができているか、プライベートも充実しているかなって確認しながら生きています。
自分が自分でなくなってしまわないように、時々立ち止まって考えてほしいです。
ありがとうございました!
撮影:今井桃代 編集:清水阿喜子
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