2022年09月20日
「ワークライフバランスが大切」と言うけれど…。
実際に会社に入ると残業が多かったり、なんだか休みが取りにくかったり、ということもあるかもしれません。自分を守るための基礎知識、法律の専門家に聞きました。
(聞き手:梶原龍 本間遙 藤原こと子)
そもそもなのですが、会社って何時間まで働いていいって法律で定められているんですか?
法律で定められた労働時間というのがあって、これは週40時間、1日8時間と決められています。
1日8時間働くとすると、週5日働くっていうのが目安ですね。
東京大学 社会科学研究所 水町勇一郎教授
働くうえでのルールを定めた「労働法」の専門家。著書を多数執筆。研究、講義の傍ら、政府の働き方改革実現会議議員、内閣府規制改革推進会議委員などを歴任。
けれども、ご存じのように、週40時間、1日8時間で、その枠内でしか働いてない人ってそう多くないかもしれません。
なぜかというと、それぞれの会社に労働基準法36条に基づく協定=「36(サブロク)協定」というのがあるんです。
36協定で「この事業所では、週40時間、1日8時間を超えて何時間まで働かせることができます」という枠を定めています。
この枠、昔は無制限に認められていたんですよ。
えっ、残業を無制限にしてもいいということですか?
36協定で例えば365日働かせますって書いたら、法的にはそれが可能な状況がかつてはあったんですよ。
でも、それはいけないよねって、働き方改革で上限ができるようになったんです。働き方改革って聞いたことありますよね?
はい、あります。
働き方改革関連法というのができて、この36協定で定める残業とか休日労働の上限、絶対にこの枠内でおさめなきゃいけないっていう上限時間を決めました。
法律上、時間外労働の上限は原則として⽉45時間・年360時間となり、臨時の特別な事情がなければこれを超えることはできません。
臨時の特別な事情があり、労使が合意する場合=特別条項でも、以下を守らなければなりません。
▼時間外労働が年720時間以内
▼時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
▼時間外労働と休⽇労働の合計について、「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」という複数月平均が全て1⽉当たり80時間以内
▼時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度
変わったのは最近なんですか?
最近です。2018年の法律で、実際に適用され始めたのが2019年(大企業)と2020年(中小企業)です。
企業とか業界業種に関わらず、すべての会社に適用される法律なんですか?
建築事業と自動車運転業務、医師はちょっと違う基準で、5年間猶予があるので2024年から新しい基準に入っていくことになります。
その基準が守られていなかった場合、会社側と働いている社員側にそれぞれ罰則とかってあるんですか?
基本的には会社側が命令したり指示をして社員を働かせているので、会社が罰則の適用を受けることになります。
上限を超えて働かせた場合の罰則=6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
休みを取る時も、法律上の決まりはあるんですか?
基本的に法律で定められているのは年次有給休暇。あとは育児休業(育休)、介護休業と産前産後休業(産休)といわれるものが法律に定められています。
特に年次有給休暇については、入社して6か月たったら法律上、10日間の休暇が付与されます。その後だんだん増えていって6年半になると20日間になります。
もし有給休暇を使いたかったら、どのくらい前から会社に伝えたらいいんですか?
基本的にそこは法律で決まっていないので、直前に言う人もいればだいぶ前に言う人もいます。
ただ、1年の20日間のうち取らなかった部分があれば、1年間だけ繰り越せるってことになっているので、今年10日間しか取らなかった場合には、今年の残りの10日間と来年の20日間で合計30日間になって、30日間の長期の休みだってとることができる。
この場合は代わりの労働者を探したり、業務の調整をする会社側も大変なので、長期の休暇を取得する時はなるべく早めに言って調整してくださいねっていうことが最高裁の判例で言われています。
けれども、基本的には何日前までにということは法律上は書かれていません。
有給休暇をとるのって言い出しにくいこともあるように思うのですが。
働きはじめると会社の雰囲気に押されて、「残業したくない」とか「休み取りたい」って言いにくくなることもなくはありません。
みんな仕事をしていると1人でアクションを起こすには難しい。
そこで頑張らないと出世できなくなったり、会社の査定が悪くなってボーナスが低くなったりっていうおそれを感じることもあるかもしれません。
実は、働き方改革で年間で5日間の有給休暇をしっかり取らせるように、これも法律上義務づけられたんですよ。
だから有給休暇取得の平均日数が5日間を下回っている会社は労働基準法違反。
なので、企業のデータを見て5日間に限りなく近いところって法律上義務づけられたものしかほぼ与えてない。
なるほど!
20日に限りなく近いところはもう全員有給休暇はしっかり取得しようねっていう雰囲気で、10日とか12日とかいう会社は真ん中ぐらいの雰囲気と思っていいです。
法律上守られた権利だけど、それを言いにくいかもっていう雰囲気はデータで推測できます。
あー、どういう空気感かってわかるんですね。
そう、だから会社に入ってから自分1人で切り開いて変えていこうというのは難しいので、入社前のデータってすごく大切。
入社したばかりだと、どこまで頑張ればよいかが分からないと思うのですが、これ以上は自分危ないかも、ということにはどうやって気づけるんでしょうか?
そうですね、「自分で気づくのが難しい」って意識を持っているところが大切だと思います。
メンタルヘルスの不調や過労死、過労自殺につながっていってしまう黄色信号を見逃さないことは、すごく大切です。
赤信号になったらなかなか戻るのが難しくなってしまう。
自分では気づきにくいからこそ、そういう意識をずっと持ち続けることは大切だと思います。
働き過ぎになりつつあるなと不安なとき、やっておくほうがいいことってありますか?
とにかく証拠、記録を残しておくっていう事が大切です。
これは自分の手帳でもスマホでもいいので、何時何分から何時何分まで働いていたっていうのを、できるだけ毎日記録に残しておいてください。
例えばサービス残業で残業代払われなかったときにも、時効は3年なので、3年分さかのぼって証拠になることがあります。
自分にとってもこれだけ働いているっていう気づきにもなりますね。
そう。忙しいからそんな記録を残している暇ないって人もいっぱいいるけど、その意識を持つかどうかが大切ですよね。
自分の働き方がよくないなってときはどこに相談すればいいのでしょうか
自分1人で変えていこうというのは難しいので、労働組合にかわりに行動してもらうっていうことはあります。
労働組合が代弁してくれる?
労働者1人だとやっぱり弱いし、いつどこで差別されたり査定が低くされたりするかわからないので、労働組合は集団で行動して、制度の改善などを行う重要な役割を担っています。
ただ、大企業に勤めている人の半分は労働組合に入っているんですけど、中小企業100人未満の企業だと労働組合員の比率が約1%なんですよ。
えー!少ない!
中小企業にはほとんど組合がなくて、日本全体を平均すると、働いている人の約17%、6人に1人ぐらいしか組合に入ってない。
少ないですね。
組合に入っていない場合にはどうすればいいのでしょうか?
「コミュニティユニオン」というのもいっぱいあるので、自分の会社に組合がないときにそういうところに相談したり、解雇されたり重大な事件になると弁護士に相談して裁判で訴えるいうこともあります。
また、行政で『総合労働相談コーナー』っていうのがあります。これは無料でアドバイスをしてくれます。
弁護士に相談したほうがいい問題なのかとか、労働基準法違反の可能性があるので労働基準監督署に行ったほうがいい問題なのかなどを教えてくれます。
「総合労働相談コーナー」(※NHKのサイトを離れます)
解雇やいじめ、パワハラなど職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供をワンストップで行う行政の窓口。
全国の労働局や労働基準監督署内などに設けられています。
なので、皆さんが遭遇する問題について、紛争解決の方法としてどのやり方が一番ふさわしいのかが分かるので、最初は「総合労働相談コーナー」に行くのが便利かもしれません。
社内で、「わが社ではこれが当たり前だよ」とか、「俺も若手のころはこうやってきた」みたいな同調圧力があるかなって思うんですけど、どうやって対応していけばいいですか?
まずは、実際に同調圧力が存在するっていう認識・意識を、皆さんがきちんと持つこと。
認識を持って、このままだとわが社のやり方とか我々の働き方って長く続かないよねっていう時に、どういうアクションを起こすか。
上司に直接文句を言うっていう方法もあるかもしれないけど、これって多分変えるためにはそんなに賢い方法じゃないかもしれない。
そうなんですね。
そういう時には同じ意識を持った同僚と相談してどうするか、その苦情をどこに言ったほうがいいかとか、仲間で相談して共通の意識を持つことが、現場を変える力になると思います。
アンテナを広げて問題意識を持って、かつどういう行動を取るかを少し冷静に考えていったほうがいいかもしれないですね。
「ワークライフバランスを守る基礎知識」次回は、いざというときのために知っておきたい休職制度や辞職の手続きなどについてお伝えします。
編集:清水阿喜子 撮影:今井桃代
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