2022年07月15日
「人生100年」と言われる時代。自分のキャリアを考えていくうえで、この先、どのようなことを意識すればよいのでしょうか。これから社会に出る学生リポーターがキャリアデザインの専門家に聞きました。
ポイントは「or」ではなく「and」 だそう。
(聞き手:田嶋瑞貴 藤原ことこ 本間遥)
最近「人生100年時代」ってよく聞きません?
田中
教授
学生
本間
はい。聞いたことあります。
でも、まだ20年ちょっとしか生きていないので、正直あまりイメージができないのですが…。
もともとは、ロンドン大学のリンダ・グラットン教授が執筆した世界的なベストセラー、「ライフシフト」という本から広がった言葉です。
学校で学んで、働いて、退職して、それから余生を過ごして人生を全うする、というのではなく、これからは働きながら学び続ける時代だと。
60歳・70歳まで働いたとしても、まだその先がある。だからそれも見据えた人生設計をしていくことがすごく大切なんだということです。
田中研之輔さん
法政大学キャリアデザイン学部教授。新卒採用分析などが専門。これまでに計33社で社外取締役・社外顧問を歴任。「今すぐ転職を考えていない人のためのキャリア戦略」など著書も多数。
ポイントは、自分の生きている時間が長くなるわけだから、やりたいことができる期間やチャンスが増えている時代だっていうこと。
学生
田嶋
やりたいことができる…。
人生100年時代のキャリアってこれまでとどう違うんですか?
これまでの日本におけるキャリア選択っていうのは「or」であると思っていて。
学生
藤原
or?
「or」っていうのは「選ぶ」ということ。
例えばA社に行くかB社に行くかってなって、A社を選んだら、そのままずっとA社で働くというのが昔のモデルだった。これが「or」。
だけど、今は違うよねと。人生100年時代のキャリアは、「or」ではなく「and」。
つまり、A社に行ったあと、B社に行くこともあるよねと。
もしくは、Aの仕事をしながら、Bという仕事やCという仕事もできると。
つまり、やりたいことを重ねていける時代になったんだよね。
andのほうがいいってことですか?
これまでは人生の時間軸を考えると、学校にしても、会社にしても、ある程度、選んでいかなければならなかった。
でもこれからは選ぶんじゃなくて、順番にやっていけばいいんだ、という考え方ですね。
いろいろできるようになったんですね。
だから、みなさんには変幻自在であってほしいと思います。
どういうことですか?
仕事を1つに絞ると、働くことが苦しくなってくるんだよね。
大学だったら4年で卒業できるじゃない。でも、仕事は何十年も続くから、1つに絞ると飽きてしまう。
だから、やらされ仕事を続けるんじゃなくて、自分のキャリアを主体的に育てていけるかというのが、キャリアをデザインしていく上での分かれ目になる。
日本のビジネスパーソンでこれをうまくやっている人はそう多くはいなんですが、仕事って我慢してやらされるものじゃなくて、自分の可能性を広げていく手段でもあるんだよね。
なるほど…。キャリアを主体的に育てていくためには、どうすればいいんですか?
Identity(アイデンティティ)とadaptability(アダプタビリティ)ということばを覚えておいてください。
Identity はみなさんらしくあるってこと。adaptability は変化に適応すること。この2つをちゃんと大切に守っていけばきっとうまくいくはずです。
自分らしく、変化に適応するってことですか?
そうそう。
日本のこれまでのキャリア形成って、何をやってきたかというと、1人1人の社員のやれることを1つに絞ってきた。
1つに絞るということは可能性を閉じ込めていくことになるから、自分の専門が1つだけだとだんだん苦しくなってくることがあるんですよね。
テクノロジーの進化で、今までやってきた仕事がなくなるっていう事だってあり得ます。
これから、我々の人生の中で、こういうことが必ず起きてきます。
必ずですか?
それくらい世の中の変化って激しいです。
だから、例えば僕は、教員として勤めながら企業の顧問も務めています。
あ。andですね。
そう。大学で教えるモードと経営会議で事業を作るモードがあるんですね。
産学連携が必要って言ってるわけだから、これを行き来する人間ってもっといてもいいっていう立ち位置でやっていて。
全然やらされてることじゃないし、そうすると何か働くって楽しいよね。
それが主体的にキャリアを築くってことなんですね。
今は世の中の空気が、以前よりもずっと、次のキャリアに行きやすくなってきています。
国も「副業やろうよ」という方向性になってきているし、選択肢につながる情報も増えてきているよね。
とはいえ、社会人になるとみんな自分の専門分野だけに精通するようになって、学びの範囲が狭くなってきがちです。
だから僕はセルフラーニングカリキュラムを作ったほうがいいですよって提案しています。
セルフラーニングカリキュラム?
大学まではカリキュラムがあるけど、社会人になったらカリキュラムってなくなるよね。
だけど社会人になってからも、1日15分でもいいから自分の可能性を高める時間を作っていかないと、キャリアの成長にはつながりません。
例えば、6月1日に内定をもらったとします。そこから大学を卒業する3月までまだ半年あるわけだよね。
そこでどれだけ自分の可能性を高めていくかって、大事ですよ。
何をすればいいんでしょうか…。
3年後になりたい自分ってある?
まだ明確にないです。
でしょ。でも、わざとつくるんですよ。
大事にするべきなのは、自分がどうなりたいかっていうイメージ。
3年後にどんな世界にいて、どんな組織に入っていて、そこでどういうふうに働いていきたいか、やりがいを感じたいかというイメージなんだよね。
スポーツのイメトレと一緒で、そういうイメージをしてたやつの方が実際のビジネスで強い。
キャリアについて考える時、みんなこれまでに「やってきたこと」をもとに考えると思うんだけど、実は、これはキャリア開発の理論からすると半分でしかない。
キャリアは「やってきたこと」に加えて「これからやっていくこと」なんです。
学生一同
あー。
これからやっていくことをデザインしていくことがむちゃくちゃ必要で。
例えば「1000万円あげるから、英語での商談をやってください」と言われたとします。
でもいきなりできないじゃん。通訳なしで英語で商談するためには、どれぐらい時間があったらできる?
本間・田嶋
英語を勉強しなければならないので、半年くらい?
えっと、1年…。
そうですよね。半年、1年、必要でしょ?今考えたことがキャリアなんだよね。
つまり、自分で半年後に商談をするって決めれば、自分のやるべきことを逆算して、それに向けて動き出しますよね。
はい。
キャリアってやって来たことだけで考えると、自分はできませんって話になっちゃう。
だから自分がどういうステージで、どんなやりがいを感じていたいかはイメージした方がよくて。
それは人に言われるものではないし、自分の人生だから、どれだけでも描けると思います。
今までだけじゃなくて、これからの可能性も見越して、未来に向けて描いていく。
だから自分のキャリア形成を考える場合に過去ってそんなに重要じゃないんです。過去は変えられないですからね。
就活のときに自分の過去から探せっていうのをすごく言われるので、過去!過去!ってそっちにばっかり目がいっちゃってました。
受け止める必要はあるし、見つめる必要はあるけど、そこの中にずっといたら何にもなんない。
だから僕は自己分析ってあまりいらないと思っているんですよ。その代わりに必要なのが、社会分析。
社会分析…。
そう。社会がどう変化するかに対して自分がどういうふうに活動していくのかの方がよっぽど大事です。
でも、働くことにおいて絶対忘れちゃいけないのが、大前提として、よりよい社会、よりよい未来をつくろうと思うこと。
そういう思いを持つ人は絶対キャリア成長するから。
何かをつくって終わりじゃなくて、届けることで使う側の行動が変わる、っていうところまで考えると、そのために何をしたらいいかが浮かんでくるはず。
やらされ仕事だとなかなか楽しむのは難しいですが、このモードで働いてる人は仕事を楽しめると思います。
気持ち1つで全然違うんですね。
だいぶ変わってきますよ。
自分の成長に向けてキャリアをデザインするって具体的にどんなことをすればいいのでしょうか。次回、詳しく紹介します。近日公開予定です。
編集:谷口碧 撮影:今井桃代
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