2021年02月26日
「結局、内定者が1人だけになってしまいました」
首都圏ではオンラインが「当たり前」のようになった感もある大学生の就職活動。
ところが“会えない”就活によって、緊急事態に直面していた中小企業がありました。
従業員240人の企業が直面した、新型コロナの中での採用活動の難しさを取材しました。
【例年の半分に】
取材を受けてくれたのは、埼玉県に本社を持つ、東上ガスです。
主にLPガスの販売を行っていて、“地域に根ざして働きたい”学生を中心に毎年5~10人ほどの新卒採用をしてきました。
ところが、去年の採用活動は新型コロナウイルスの影響をまともに受けてしまったのです。
本格的な採用活動をはじめようとした春先にコロナの影響が拡大。
例年、採用活動の柱のひとつとして参加してきた就活ナビサイトの大規模な合同説明会がほとんど中止になってしまいました。
4月になると緊急事態宣言も。とても従来通りの採用活動を行える状況ではありませんでした。
「感染対策と就活の両立」、会社は希望してくれる学生を集めた個別の説明会を感染対策をしたうえで実施してきました。
ただ、大規模な合同企業説明会が相次いで中止になったこともあり、母集団の形成(入社希望者)には大苦戦。
出会えた学生の数は例年の半分ほどにまで激減してしまったのです。
【オンラインに切り替えた!けれど・・・】
さらに、就活は大企業を中心にオンライン化の波が一気にやってきました。
この会社も流れに乗ることにしました。
面接は初回と2回目をオンラインに、「最終面接のみ対面」にしました。
これまで社内や取引先ともオンラインでのやりとりの経験は少なく、初めてのオンライン面接には人事担当者たちも戸惑いました。
しかし実際に面接をしてみると、むしろ学生のほうが慣れた様子で受け答えをしてくれて「意外にもスムーズなやりとりができた」と言います。
結果的には、例年と同程度の4人の学生に内定を出すことができました。
4人の学生に内定を出しましたが、人事の仕事は「内定」で終わりではありません。
複数の会社から内定をもらう学生が珍しくない中「内定先」の中から、学生に自社を選んでもらわないといけません。
例年は内定者と直接会って、一緒に食事をして話をしたりして交流を深めていました。
ただ、今年は新型コロナの第2波が夏にあったことで、いつもどおりの「つなぎ止め」ができないでいました。
「会えない採用活動」・・・それでも会社からは2週間に1回ほどのペースでメールを送り、会社の説明や先輩社員の紹介をしてきました。
オンラインだけの手探りのコミュニケーションに不安を感じつつも、やれることはやってきたつもりだったそうです。
ところが・・・
【内定者が1人だけ】
10月1日、内定式。
ところが、最終面接で内定を出した4人のうち、来てくれたのは2人だけでした。
さらに、信じられないことが起きました。
内定式の10日後、もう1人が内定辞退を伝えてきたのです。
内定式を終えたこの時期に、採用予定者が1人だけになってしまったのです。
【企業側からオファー】
「いったいどうする・・・」
会社の未来を担う新卒社員が確保できない、危機的な状況。経営層からも「(内定者1人では)さすがに・・・」と意見され、危機感を募らせていました。
採用担当者たちは毎日のように会議を開き、対策を話し合いました。
追加の採用をしなければいけませんが、ナビサイトなどから学生のエントリーを待つ時間はありません。
行き着いたのが企業から学生個人にオファーすることができる就活サイトでした。
企業側からオファーを送るサービスはここ数年増えていて、この企業が利用したサイトは「オファーボックス」でした。
学生がみずから経歴などを細かに書き込み、それを読んだ企業が興味のある学生に対して直接メッセージを送り、面接などにつなげる仕組みです。
この企業が実際に「オファー」を始めたのは11月半ば。時間が限られる中、採用担当者は1日10人、2週間で計150人ほどにメッセージを送りました。
その際に気をつけたのが学生のプロフィールを見て、しっかり伝わるようにそれぞれに異なるメッセージを送ったことです。
いわゆる「テンプレート」、定型文では学生は反応してくれないと感じたからです。
さらに担当者は学生に対する期待が伝わるようにと、採用担当者自身の夢も文面に入れて送りました。
採用方法を切り替えた結果、新たに5人が内定。会社として初めての外国籍の学生もいるそうです。
【採用戦略の大転換】
この企業では、今回の採用活動では(2022年春卒)の採用では全面的にオンライン、かつ早期に仕掛け始めました。
学生たちにオファーのメッセージを送り、1月から小規模な説明会をオンラインで開始しています。
2月10日に開催された説明会には4人の学生が参加。都内の有名私大の学生の姿もありました。これまでこの企業がアプローチできていなかった層の学生です。
この企業では去年まで説明会は3月、面接は6月からという採用スケジュールでしたが、優秀な学生に先駆けてアプローチしたいと早期の面接も予定しています。
新型コロナに翻弄され一度は内定者1人という危機的な状況に追い込まれましたが、結果的にデジタル化にかじを切り、採用戦略そのものを見直すことになりました。
取材:加藤陽平
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