2022年11月18日
ヤフーの社長としても、東京都の副知事としても、スピード重視での変革を意識してきたという宮坂学さん。仕事をバリバリこなす一方で、実は家族や趣味とのバランスをとても大切にしているそう。そんな宮坂さんが都政の変革を目指すチームをどう作ってきたのか、聞きました。
(聞き手 小野口愛梨 黒田光太郎 佐藤巴南)
学生
小野口
宮坂さんはどんな働き方をされているんですか?イメージは「仕事第一」という感じなんですが…。
僕、「仕事第一」では全然ないです(笑)
宮坂学さん
時々、インタビューで「仕事ほどおもしろいものはない」って言ってる経営者の人もいるけど、あれって本当かなって思ってしまいます。
1967年生まれ。ベンチャー企業を経て1997年にヤフーに入社し、2012年に44歳で社長に抜擢。スピード重視の「爆速経営」を掲げてスマホに適したサービス開発を進めるなどした。2018年に社長を退くと、翌年7月に東京都の参与に選任され同年9月より副知事として都政の改革にあたっている。「ライフワーク」と呼ぶほどのアウトドア好き。
絶対にこの世には仕事以外にも楽しいことっていっぱいあるだろうと思うんですけどね。
僕は雪山に行ったり、波乗りに行ったりするのも最高におもしろいです。
学生
佐藤
ヤフーにいた時から、仕事以外の時間を大事にしていたんですか?
まぁ、途中からですかね。20代は仕事ばっかりやってたんで。
ほぼ100%仕事。ほとんど休みも取らなかったですから。
正反対じゃないですか!
マシーンのように働きまくっていたんですが、充実感があるし会社から評価もされるんで、やった!また頑張ろうって感じになっていたんです。
でも、その一方で、なんだかどんどん自分を消費しているような感覚があって。
30歳くらいになった時に、もう何も残ってないな、みたいになっちゃったんですね。
いま思うと、「忙しい」と「充実」を誤解していたんだと思います。
忙しいから充実しているって訳じゃないってことですか?
そうですね。手帳のスケジュールが埋まっていないと、罪悪感がある時ってありませんか?
分かります!こんなにヒマしていていいのかなって…。
忙しいことは決して立派なことでもないし、暇なことだって悪いことでもなんでもないです。
じっくり考える時間や1人で自分に浸るって実はすごく大事なんです。
自分が何をしたいのか?とか創造性ってこの自由時間から生まれるわけですよ。
ただ、忙しくなるほど、最初に削られていくものなんですよね。
それに気付いたきっかけってなんだったんですか?
先ほど少しお話したように、20代の時は暇さえあればずっと会社に入り浸っているような生活をしていました。
当時の社長からは「家賃とるぞ」って言われてましたね(笑)
でも、その時に部下との関係とかでトラブルも色々と起きてきて…
それで、1回も取ったことがなかった有給休暇を初めてとったんです。
親友がいたアメリカのロサンゼルスに1週間くらい遊びに行って。
学生
黒田
何か変化があったんですか?
結構いろいろ考えるきっかけにはなりましたね。
いろんなものがたまたま重なって、まずは、ちょっと仕事のスタイルを変えようかなって、思ったんです。
だんだん仕事以外のものにも目を向けるようになって、それで30歳を過ぎたころから高校時代まで没頭していた山に戻って、それ以来、アウトドアが趣味を超えて自分のライフワークになっています。
少し意外な感じがします。
「株式会社 俺」という言い方をよくしていて。
どういう意味ですか?
誰もが会社の社長にはならないけど、みんなが自分の人生の経営者という意味です。
会社だと時価総額が最大になるように経営しますが、「株式会社 俺」は自分の幸福度が最高になるように経営しないといけない。
幸せが最高になるようにですか。
そう。だから、自分の人生のリソースの90%を仕事で埋めるのか、それとも50%仕事にして50%家族で使うのかとか。正解はないけど、自分で決めないといけない。
誰も変わってくれないし、社長交代もできない。
いまの僕の場合だと、「家族」と「仕事」と「アウトドア」の3つの事業部のバランスを、いつも考えています。
自分のキャリアや人生を幸せにするために、ちゃんと自分で決めてマネジメントするというんですかね。
なるほど…。でも、それってうまくコントロールできるものなんですか?
誰かに言われて決めるっていうのが1番よくないパターンです。
自分の場合は油断すると、時間が仕事にどんどん吸い取られていく。
だからある程度意志を持って「きょうはこれ以上仕事はやらない」とか、「この時間は趣味にあてる」って決めないとどんどんアンバランスになってしまうと思いますね。
都庁の人たちもそういう風に働いているんですか?
人それぞれだと思いますが、仕事に全てを捧げたくても思うようにならなくて、仕事以外のものを優先しなくちゃいけない時期もあったりすると思うんです。
だから、自分のライフステージに応じて主体的に決めることができていればいいと思います。
主体的に決めることは都庁の職員にも求めているんですか?
自分で選んだものは頑張ろうという気になると思うんです。
上から、これやれって言われてやると、自分の選んだことじゃないよな…ってなる思うので、自分で選ぶことは大事だと思っています。
でも、働き方の考えも人それぞれという中で、変革のために、どう組織をまとめてきたんですか?
マーケティングの世界に、「イノベーションの普及曲線」というものがあります。
アメリカの学者、E・M・ロジャースが提唱した新たな商品やサービスの普及率を示す理論。商品などを購入する人は時間の経過とともに徐々に増加していった後、緩やかに減少していくとしている。
世の中のヒット商品もそこから始まっていますが、組織を変えていくのも同じだと思っていて。
経営者は、100人の組織だったら、最終的には100人全員に変わってほしいと思うんですが、いきなり全員の意識を変えようとしても、当然ムリなわけです。
でも、まずは2人だったらいける気がしません?
できる気がします!
2人の意識が変わったら、次は15人ぐらいを対象に「一緒にやろうよ」と働きかければいいわけです。
それが50人を超えれば、変わらないほうがマイノリティになるんで、組織全体がバタバタと変わっていきます。
最初から100人って考えるから、ムリだと思ってしまうんですね。
そうそう。2%の人だけが、自分のビジョンを信じてくれればいいと思えば、意外と何とかなっちゃうのかなって気がしますよね。
そんなふうに思って、いつも組織の変革を目指してきましたね。
まずは、その2%を変えるためにどういうことをやってきたんですか?
やっぱり、コミュニケーションですよね。話すことと聞くこと。
月並みなんですけど、できるだけ分かりやすいように伝えないといけないと思います。
それから“よく聞くこと”。
僕もそうですけど、人って自分の話をちゃんと聞いてくれる人のことを好きになりますよね。
たしかに…
だから、“聞く力“って本当に大事。
とは言っても、何かネガティブなことを言われたらやっぱりイラッとすることもありますよ(笑)。
でも、フィードバックって自分の鏡みたいなものだと思っていて。
鏡に映ってる自分の姿に怒ってもしょうがないんですもんね。
都庁でのチームづくりがうまくいっている実感はありますか?
3年前に比べれば、とてもありますよ!
船ができて、まだ少し穴も開いているんですけど、ちゃんと浮かんでいますし動いてる感じもあります。
僕は都庁に来て、システムを作って残すことよりも、組織をつくって残すことが大事だなと思っています。
そうすれば、自分が失敗しても次の人が成功するチャンスがあるし、その人が失敗しても、その次の人にもチャンスがある。
だから、ちゃんとデジタルを専門に行う組織を作ろうと思って、令和3年4月にできたのがデジタルサービス局。
今度、都内の区市町村がデジタル化を一緒にやりましょうという組織も立ち上げることになったんです。
Government Technology(ガバメント テクノロジー)東京の略で“GovTech東京”っていうんですけど。
どんなことをするんですか?
「共同化」が1つキーワードなんです。
東京都には62の市区町村があって、それぞれが同じような仕事をやっているんですけど、そのシステムをそれぞれがバラバラに作っていたりするんです。
例えば、図書館の本を借りる時やスポーツ施設の予約をする時に使うシステムだったり…
これって、62種類のシステムを作る必要はまったくなくて、1種類でいいじゃないですか。
確かに無駄ですね・・・
今までの行政は個別に作るのが正しいとされてきましたが、コストもかかりますし、そもそもそんなに人材もいない。
だから、できるだけ共同化を進めて、今はこの街の仕事をやって、次はこっちの街やろうねって仕事の進め方ができた方がいいですよね。
人材の共通化も考えていて、研修も62の区市町村がばらばらにやれば、その分だけコストがかかっている。
あとはパソコンなどの備品を共同購入すれば、ボリュームディスカウントが利くと思っています。
「共同化」を合理的に進めていくための箱、それが“GovTech東京”です。
この組織ができるのは、自分にとってはすごくよかったなと思えることですね。
最後に、宮坂さんが若い人たちに、期待することについて聞かせてください。
やっぱり「選ぶ」っていうことだと思うんですよね。
選択肢があるというのはありがたい、恵まれてることだと思います。世界には貧困や戦争で選択したくてもできない人がたくさんいますよね。
みなさん、大変なこともたくさんあると思うけど、選べる権利があるんだから、選ぶことを諦めないでください。
自分のやりたいこと、没頭できること、好きで好きで仕方ないことをぜひ見つけてほしい。
それが選びたくても選ぶことができない人への責務だと思うんです。
なにをしたらいいか分からない時はどうすればいいですか?
「どの選択肢を選んだらいいか分からない」って状況もあると思います。
そんな時は「まずは、いろいろやってみよう」とか「まずは、目先のことを頑張ろう」とか、そういう選択でもいいと思うんです。
行動していろいろな選択肢にたくさん触れることで、自分すら知らなかった自分の新しい可能性に気がついたり、知り合った周囲の人があなたの可能性に気がついてくれたりすることが絶対にあるはずです。
ありがとうございました!
撮影・編集 岡谷宏基
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