教えて先輩! ロケット開発 稲川貴大さん(後編)

ロケット打ち上げに幾度も失敗!めげない秘けつは「ゴール」の置き場所

2021年09月24日
(聞き手:白賀エチエンヌ 田嶋瑞喜)

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宇宙ロケットを作るベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」の社長を務める稲川貴大さん。2019年、日本初の民間単独の宇宙空間到達を成し遂げました。幾度失敗をしても前に進んでこられたのは、みずからが定めた“ゴール”を常に意識していたからでした。

学生
白賀

稲川さんはロケットを開発するベンチャー企業の社長を務めていらっしゃいますが、そもそもなぜロケットを打ち上げようとしているのでしょうか?

民間でロケットをつくる意義というのは国がつくるよりも安くとか、より早くとか、より便利に、といった民間ならではの発想を持ったロケットを開発する事です。

IST
稲川さん

《稲川貴大さんプロフィール》
1987年生まれ。東京工業大学大学院修了後、ロケット開発を手がけるベンチャー企業インターステラテクノロジズに入社。翌年の2014年に代表取締役社長に就任。2019年5月、日本ではじめて民間単独で宇宙空間にロケットを打ち上げた。

ロケットって何となく打ち上がって、わー!すごい!って印象があると思うんですが、何をやっているかというと、荷物を運んでいます。

基本的には輸送業なんですよね。「宇宙輸送サービス」っていう事業になります。

佐川急便さんとかヤマト運輸さんとか郵便局さんなどの業種がビジネスモデルとしては近いです。お客さんの荷物を預かって配送料はいくらですと、運びます。

稲川貴大さんの人生を変えた、ある人からかけられたことばとは…。

「教えて先輩!ロケット開発 稲川貴大さん【前半】」はこちら。

何か荷物を積んでいるんですね。

人工衛星を運んでいるんです。

イメージ図

うちの場合はロケットがそもそもないので、ロケットをつくるところから始まりますし、地上から宇宙へ運ぶという部分が違うところです。

学生
田嶋

宇宙にできるだけ早く、低価格で運ぶっていうことですか?

日本でのロケットの打ち上げ頻度って年間3、4回しかないんです。

また1回のロケットの打ち上げ費用って何十億円とかしちゃいます。荷物を運ぶのにこれだけのお金を払える人は少ないですよね。

日本の主力ロケット「H2A」

便利さを上げて価格を安くするっていうところで既存の宇宙業の輸送を革新しようと、新しいロケットをつくっています。

需要があるんですか?

今、人工衛星を宇宙に運びたいっていう人がすごく増えているんですよ。

例えば人工の流れ星を降らせようという企業や、人工衛星のカメラで地球を撮影してビジネス展開しようという企業もあります。

地球を高い頻度で撮影する人工衛星群

あとは、使い終わった人工衛星を回収しようと考えている人達もいて、いろんな人たちが宇宙空間を使おうとしています。

ロケットの需要は世界中でめちゃくちゃ増えているんです。

打ち上げボタン“1000万円”

ロケット開発ってすごくお金がかかりそうですが、どうやってやりくりしているんですか?

資金調達はやっぱり大変です。これは社長業を行う上で、かなり苦労しているところです。

基本的には投資家の方々から、株式でお金を集めています。最終的にはロケットをたくさん打ち上げてそれで儲かるようにするのが目的です。

それ以外にもクラウドファンディングで一般の方々からロケット応援してもらいながら資金調達しています。

CAMPFIRE

クラウドファンディングでは何を返しているのですか?

一番単純なのはTシャツだとかのグッズですが、ロケットで実際に使っている部品などもお渡ししています。

ロケットってエンジンの試験をたくさんするんですけど、壊れるときもかなりあるんですよ。

ロケットエンジンの試験

その部品の一部を記念品っていう形でパッケージして、お渡ししています。

「これ実際にロケットに使っている部品ですよ」と。

本物の部品はうれしいですね。

あと、ロケットの発射ボタンを押す権利を出して、支援して頂いた方に、実際に発射ボタンを押してもらっています。

すごく面白いシステムですね。募集が殺到しそうです。

あまりたくさんの人に応募されても困るのでかなり高い金額にしています。

“発射ボタン”

どのくらいなんですか?

1000万円ですね。

えー!すごい!

押したいっていうニーズがあるんですね。

宇宙開発史の1ページだったりするわけなんですけど、そこの最後の締めというか一番大事なところをお任せするという。

わたしたちのチームの一員になりませんか?というところですよね。

2021年7月31日に打ち上げられたTENGAロケットの搭載物 宇宙空間への放出に成功

会社利益はどうやって生み出しているんですか?

今は研究開発に一生懸命投資をして、いろいろなものをつくれるようになっていこうというフェーズです。

ただ、売り上げがないまったくない訳ではありません。

例えば大学の先生が宇宙で実験をするための装置を運んだり、コーヒー豆や日本酒といった商品を宣伝目的で運んだりすることもあります。

ロケット燃料に加えた日本酒

これまでに大変だったことって何ですか?

いっぱいあるんですけど、わかりやすいのはロケットの打ち上げがうまくいかなかった例ですね。

2号機がいちばん典型的でした。

初号機がうまくいかなかったんで、次は100%成功させようと思って臨んだんですが、打ち上げ後、すぐに落下し炎上してしまいました。

MOMO2号機が打ち上げ直後に落下・爆発炎上

え~!?どうやって乗り越えたんですか?

技術的には改善改良、原因究明して改良していきます。

お金の面で言えばもう全部打てる手はひたすらやっていく、無我夢中でやっていくっていう感じで乗り切りました。

1号機2号機が失敗した時って、その次も失敗するんじゃないかっていう焦りはなかったですか?

もともと自分が設計した機体なので、どこまでうまくいったかがわかるんです。

開発の様子

ロケットって上から下まで全部がOKじゃないと100%成功しないわけです。

ロジカルに考えていくと、ここはこうすればいいからこの時間軸でできる、この価格でできるっていうことが分かってきます。

失敗したときのその周りの反応っていうのはそのようなものだったんですか?

ニュースに出るっていう意味で言うと、ネガティブに捉える人ももちろんいました。

でも基本的には応援された感じでしたね。

日本だとどうしても新しいことを叩きがちみたいなことをよく言われるんですけど、うちみたいなプロジェクトは割といろんなとこで応援してもらっています。

前に進もうってなぜ思えるんですか?

あくまで1つ1つの打ち上げが最終ゴールではなくて、新しい産業を作り、最終的には宇宙空間を使う人が増える新しい世の中にしたいっていうのがゴール地点です。

なので、1回ダメだから、1回立ち止まったくらいでどうこう言うんじゃなくて、次に行こうっていうその目線をどこに置くかだと思います。

3回目の打ち上げでロケットが宇宙に到達できたときのお気持ちをお伺いしてもいいですか?

これはなかなか言葉では表現できないですね。
他で味わう事は無理(笑)。

もう感無量、言葉にできないって感じですね。

感無量っていう言葉でも足りないです。

MOMO3号機の打ち上げ 日本の民間企業単独で初めて宇宙空間に到達

何か体が震えるような感じでしたよね…そういう瞬間のために生きているって感じるところがあります。

これまでなかったものができるっていう、無から有を作る感じ、そのワクワク感ですよね。

それを会社で大きな事業としてしかもチームでやれるっていうのは、すごく楽しいし、面白いし、意義があると思っています。

温泉入ってストレス解消

事前にいただいた一日のスケジュールで、北海道に住んでいらっしゃって、温泉入ったあとに帰宅するってすごい羨ましいなと思いました。

ストレス解消方法を見つけないとやっぱり大変です。

めちゃくちゃ働いているので、大事ですよ。おいしいもの食べたりとか温泉に入ったりとか。

夜寝るタイミングで、ドキュメンタリー等を見ると書いてありますが、どのようなものを見るんですか。

ドラマもアニメも見るし、雑多に見ている感じなんですが、サイエンス系のものが好きなのでそういうのが多いですけどね。

就活生に向けたメッセージをいただけますでしょうか。

働いている時間って人生の相当長い時間になるんで、これをいかに有意義にするかっていうところは、すごく大事にした方がいいと思いますね。

お金のためにつまらない事をやっていると、人生のほとんどが無駄になってしまうんじゃないかと僕は思います。

働くことにどれだけの楽しみや意義を見つけられるかっていうところを優先した方がいいなと思います。

また世の中はどんどん変わっていくんですよね。そのことを前提に人生設計するといいだろうなと思いますね。

最後に働くとはなにか、ボードに書いてもらっても良いですか?

何のために生きているんだっけ、っていうところがやっぱり大事だと思っています。

生きがいじゃなくて、ごはんを食べるため、生きるための手段に仕事がなっている人がいるけどそうじゃない。

自分はものづくりを通して、新しい社会をつくるみたいなところがやりたい事なんですよね。

ものをつくる楽しさが生きがいなんで、そのための手段が仕事なんです。

きょうは本当にありがとうございました。

編集:鈴木有 カメラ:本間遥 梶原龍

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