2021年07月09日
(聞き手:小野口愛梨 堤啓太 徳山夏音)
「一人ひとりの気づきを企画にする」。女性ファッション誌としてトップクラスの発行部数を誇る、光文社「VERY」の編集長、今尾朝子さんは読者の声を徹底して聴き取ってヒット企画を生み出します。就活やビジネスにきっと役立つ、“気づき”の見つけ方です。
学生
徳山
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
VERY
今尾さん
学生
堤
そもそもなのですが、編集長ってどういうお仕事なんですか。
まず、私も一人の編集者ではあるんです。
そのうえで、ある層をターゲットにする雑誌やメディアをまとめて、発信する責任を持つのが編集長です。
なので、そのメディアがどんなターゲットに向けて何を発信するかとか、何を軸にするかっていう方針は編集長が決めるんです。
光文社 VERY編集長 今尾朝子さん
1971年生まれ。フリーのライターを経て、光文社に入社。2007年から女性ファッション誌VERYの編集長。同社として女性がファッション誌の編集長に就いたのは初めて。出産・育休も経て、子育てをしながら仕事を続ける、ママ編集長。
学生
小野口
雑誌の軸は今尾さんだけで決めるんですか。
編集方針として「ファッションの力でママたちを応援する」と、「夫婦間ジェンダーギャップをなくしていく」っていうのを2大柱にしていて。
「プラン会議」と言って10数人で集まるのと、企画のための打ち合わせは毎日しています。
1人10本、20本と企画を出してくれて、私のところに100とか200という企画が集まるんです。
そこで、個々の編集者が発信をしたいと思っている企画や、その内容をまず共有します。
「このメッセージ強いな」とか、「あの人の気づきって新しいな」とかみんなピンと来るので、最終的な方針は私が作るんですけど、みんなで積み重ねていったことが(誌面に)出てくるのかなって思ってます。
企画を選ぶ基準というのはあるんですか。
強い企画っていうのは誰が読んでも強いので、そういうのを選んでいくのはそんなに難しくないんです。
ただ、編集者が企画を担当するとなると取材チームを作るので、キャスティング能力も必要だったりします。
ファッションの企画なら、ファッションに強いライターさんとか、あとカメラマンさん、モデルさん、スタイリストさん。
みんなが意思疎通がうまくできていい仕事ができるように、目標とする企画を誰だったら最もうまく表現できるかっていうキャスティングをしていくんです。
そういう判断って、編集者さんへの観察力も大事になるんですか?
そうですね、その人が何が得意で、何が好きで苦手でとか、それは日々話していて知っている部分もあるし、仕事として出してもらったことが次につながっていったりします。
どんなに小さくても、新人の編集者が工夫していいページを作ったんだったら、次は何ページ任せられるかなとか。
最初から大きな仕事をするというよりも、小さなところからだんだん大きな仕事にスライドしていってもらうことが多いですかね。
そうなんですね。
編集長の立場でこれだけは譲れないことってありますか。
ビジネスなので、やっぱりもうけなくちゃいけないんですよ、当たり前ですけど。
今やいい雑誌やいい本を作って、そのまま静かに本屋さんに置いていて売れる時代ではないですし、スマホが普及して電車で雑誌読んでる人っていないじゃないですか。
そうですね。
販売収入ってすごく落ちていってるので、そこをどうカバーするか。
VERYの編集チームは30~40代の子育て世代の日常を追いかけまくっていて、そういう方たちとお会いしてお話を聞いて、「読者調査」っていうのをさせていただいています。
読者調査、ですか?
読者調査って滑舌悪くなっちゃうんで私たち「ドクチョー」って縮めて言ってるんですけど。
そのドクチョーを重ねて、皆さんの課題って今ここにあるんだってことに気づいて企画にするっていうコトを繰り返しているんですね。
ドクチョーって具体的にどういうやり方なんですか?
だいたい編集者1人か、新人と一緒に行くこともありますけど、1時間ちょっと。
30~40代のVERYを読んでくださってる方やその周りにいらっしゃる方たちにカフェとかでお話を聞かせていただきます。
今どんなことしているんですかとか、どんなお洋服がお気に入りですかとか、どれくらいお金をかけてファッションを楽しんでらっしゃいますかって、導入は何からでもいいので、まずはいろいろ伺います。
はい。
すると、育休中、こんな時間があることはめったにないから、自分のキャリアを考え直していますとか、まだ自信がないから勉強を始めましたとか。
そういうことが伺えて、「あ、彼女はこういう悩みや課題を持ってらっしゃるんだな」と気づき、次の企画になるっていう感じですかね。
なるほど!
いまは雑誌の記事を作るだけでなく、いろいろな稼ぎ方も考えなくちゃいけない時代です。
ドクチョーをやることで、若い子育て世代の知見がいっぱいあるので、外部の企業が新商品を出す際などに協力する、ソリューションビジネスもやっています。
読者調査で得たニーズをもとに、コラボ企画をやるってことですか。
それもひとつです。ママたちのお話を聞いたら、子どもの送り迎えに毎日ママチャリに乗るんだけど、愛着が持てないって言うんですよね。
その原因を探って、理想の自転車がつくれたらなって考えて、自転車メーカーに企画を持っていって自転車を作りました。
ほかにもコラボで洋服を作るとかいろいろなことをして報酬をいただく仕事もしています。
そんなことまで!
今はどの企業でもビッグデータとか、大量のアンケートを取るとかできるとは思うんですけど、それで分かるのって平均値です。
私たちはマスのデータが欲しいわけじゃなくて、一人ひとりの気づきで「あ、そっか、こういう疑問を持っていたのか」とか知りたい。
ママたちの小さな社会課題や、子どもの未来を良くしたいって、半歩先の考え方をしてらっしゃる方の気づきに出合えるのは大きいですよね。
日常のリアルに迫るっていうか、一人ひとりを見つめていらっしゃるんですね。
そこからどう具体化していくんですか。
お話を聞いて、気づけた編集者が「もしかしてこういう風に伝えると、心にスッと入る企画になるのかも」と形にする。
そうやって言語化する力は編集者に必要なスキルだとは思います。
ふとした気づきから企画ってできているんですね。
そうですね。人と話していると、面白いキーワードが見つかるので。
編集部には編集者もそうですし、フリーのライターさんとか、いろんな方が集まっているんですけど。
今日はこの方がいるなっていう時に、ちょっと声をかけるんです。
はい。
で、ちょっとした会話の中でも「あ、この人今こういうことを面白がってるんだなあ」とか、私が抱えている課題を聞いてみることもあったりして。
スタイリストさんがママだと「ふだんおむつ何使っていますか」とか、「保育園に持っていく時はどうですか」とか、ついついドクチョーみたいに声をかけちゃいます。
とにかく何か話しかけてしまうんですね。
そんな中で、この間夫婦の話になった時に、「うちの夫は何でも『かまへん、かまへん』って言ってくれるんです」って聞いたんです。
で、そのご夫婦の関係性とともに「『かまへん』ってすっごい良い言葉だな」と思って、これは絶対に“届く”なって思って、「かまへん企画」を作ったんです。
かまへん企画!
ママたちってすでに頑張っていて、仕事と家庭と妊娠と出産と、色んなことが重なって。
皆さん日々、いっぱいいっぱいだと思うので、自分のハードルを「もっと下げていいんだよ」っていうメッセージを上からじゃなく伝えたかったんです。
うん、うん。
保育園帰りに牛丼買ってかまへんとか、そういう読者のエピソードをファッションページの見出しにしてガンガン出していったんですけど。
5ページほどの企画だったんですけど、もっと見たかったですって言っていただいて。
今準備している号では、「かまへん特集」をやろうとしています。
わー、見たいです!
出版社を目指す就活生も多いと思いますが、どんな学生が編集者の仕事に向いているんですか。
やっぱり人のことが好きな人ですね。人に興味がある人。
ファッションが大好きで昔から憧れていたとか、ライフスタイルに関心があるって言ってくださる学生さん、すごく多いと思うんです。
けど、私たちの関心はモノじゃなくて人の行為とか、人そのものに向いているなと思います。
もちろん、いろんな人がいて面白い雑誌が作れるので、こういう人じゃなきゃダメとは思わないです。
でも、自分をある程度オープンにできるとか、人のことちゃんと知りたいっていう気持ちが持てる人だと面白い仕事がしやすいのかなと思います。
なるほど。
そんな今尾さんにとって、お仕事とは何ですか。
楽しめなくなったら終わりだと思っているのですが、最初から楽しめる人はなかなかいないです。
でも、楽しみを見つけることはできるはずです。
20代はなかなか楽しさが仕事の中に見つけられなかったとしても、無我夢中でやらせてもらえることに小さな課題をみつけて、たくさん経験することを優先させればいいんじゃないかと。
はい。
いろんな人と本気でかかわると、楽しさが見えてきます。
私もそうだったし、今もそうです。
楽しくなくなったら、編集者をやめなきゃいけない時ですね。
後編は近日、掲載します。今尾さんの就活生時代のお話を聞きました。実は、出版社を受けていなかった!?
編集:加藤陽平 撮影:梶原龍
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