2021年07月02日
(聞き手:田嶋あいか 本間遥)
新型コロナの影響で“おうち時間”が増える中、バーチャルサイクリングが人気を集めています。世界中の人とオンラインでつながり、誰でも気軽にスポーツができる魅力とは?Zwift(ズイフト)の福田暢彦さんに学生リポーターが聞きました。
早速ですが、Zwiftってどんなサービスなんでしょうか?
アメリカとイギリスに本社があるベンチャー企業なんですが、自宅の中で自転車トレーニングができるバーチャルスポーツのサービスです。
実際に自転車を販売しているわけではなく、サブスクリプション形式のアプリを提供しています。
私あまりスポーツに詳しくなくて…。バーチャルスポーツって、eスポーツとは違うんですか?
eスポーツはコントローラーを使うと思うんですけど、それが自転車になったイメージですね。
Zwiftの本来の目的って、eスポーツみたいに娯楽目的が強いのか、トレーニング要素が強いのかどちらですか?
トレーニング要素が強いかなと思います。Zwiftの創業者のうちの1人が世界中飛び回ったりするような人ですごく忙しくて。
滞在先のホテルとかミーティングの合間の30分とかで、自分の自転車でトレーニングができないかなっていうところがこのサービスの出発点だったんです。
あくまでもトレーニング目的ではじまったサービスですが、ユーザーの要望を取り入れて、オンラインでつながった参加者たちがレースを行うなど、娯楽的な要素も加わってきたという感じです。
こういうバーチャルスポーツって、自転車以外にもあるんですか?
ランニングなどもありますし、実際に体を使うものというと任天堂のリングフィットアドベンチャー(フィットネス用のリングをコントローラーにアドベンチャーゲームを進めるNintendo Switchのソフト)とかもそうですね。
そういうのもバーチャルスポーツなんですね。
スポーツってもっと自由でいいと思うんですよ。従来のスポーツのイメージって、年をとったらできないとか、忙しくて時間がなかったらできないとか、ハンデがあったらできないとか、そういうイメージがあったと思うんです。
周りの友人を見ていても、30代半ばくらいになると、だんだんスポーツをあきらめていきます。子供ができたり、仕事で忙しくなったりして。
それは残念ですね。
僕の信条は「すべての人が平等にスポーツに触れ合える機会をもたらしたい」ということなんですけど。
例えば、自転車はそもそも体の負担がすごく少ないスポーツの一つで、中高年の愛好家も少なくないんです。
いろんな年齢や背景をもった人が楽しめるんですね。
そうなんです。東京だと道路事情が悪くて、自転車を実際に外で走らせるのが怖いなと思っている人もバーチャルなら楽しめるんですよね。
なるほど。
最近だと、パラアスリートの方たちですね。目が不自由な選手で外でトレーニングするのが難しいんだけれども、室内なら安全に取り組めるということで利用していただくということもあります。
足に障害がある選手で、手の力だけで自転車が進むように独自で工夫している方もいます。
あと妊婦さん。
妊婦さん?
Zwiftのワークアウトは速く走る目的のものがほとんどだったんですが、妊娠出産を経験した女性の社員からの発案で産後の復帰にいいワークアウトとか、出産前でも無理せずできるワークアウトを作りました。
女性が妊娠をきっかけに自転車を諦めざるを得ないという不幸が、起こらなくて済むようにというのが目的ですね。
福田さんが関わられた中で、バーチャルスポーツの特長が生かされた企画にはどんなものがありますか?
「ツール・ド・フランス」いう世界的に有名な自転車のロードレースがあるんですが、それをバーチャルでやるという試みを昨年9月末に行いました。
ツール・ド・フランスとは
1903年に始まり、全長約3500キロのコースを3週間かけて走破する。フランス語で「フランス1周」を意味し、自転車レースの最高峰として知られている。FIFAワールドカップ、オリンピックと並び、世界三大スポーツイベントの1つと呼ばれることもある。
ちょうど、新型コロナウイルスでありとあらゆるスポーツイベントが中止になっている中で、ツール・ド・フランス自体も新型コロナウイルスで延期になったんですよ。
そこで、主催者と協議をして、Zwiftを使ってバーチャルな空間の中に、実際にツール・ド・フランスに出てくるコースを作ってレースをしようと。
へえ~。
コロナは波があるので、ぎりぎりまでリアルなレースができるかどうかの判断が難しかったのもあり、企画が決まって本番まで3、4カ月しかなかったんですよ。
各国のZwift社員が、手持ちのプロジェクトを一旦ストップさせて一丸となって、ゲームの中にフランスのシャンゼリゼ通りを作るなどの開発やプロの自転車チームとの折衝を急ピッチで進めました。
福田さんは何をされていたんですか?
僕は、日本人にイベントの魅力を伝えるローカライゼーションという仕事をしていました。
歴史のある大会で、そういった新しいことが出来るのはすごいですね。
そうですね。そういう意味では、ツール・ド・フランスって本来は男性だけの競技大会なんですけど、バーチャルなので女性版のツール・ド・フランスも一緒に開催したっていうのはまさに新しい取り組みでしたね。
知らなかったです。
日本でも去年、コロナ禍で夏の大会が中止になった自転車レースの「Mt.富士ヒルクライム」を、Zwift Japanがバーチャルで行ったというニュースを見たんですけど、こちらはどういう経緯だったんですか?
Mt.富士ヒルクライムとは
富士山5合目を目指して自転車で坂道を駆け上がる、日本最高峰のサイクルイベントの一つ。一般的な自転車レースと違って、下り坂もなく、人と接触する可能性も少なく安全なため、日本では人気の大会。
一昨年の年末に、大会の担当者と「来年、富士ヒルとZwiftで何か一緒にコラボレーションができないか」って話したのがきっかけでした。
当初の企画の趣旨は、6月にあるリアルの大会に向けて、参加者にZwiftでトレーニングをしてもらおうという建てつけだったんですが、コロナで延期になったんです。
それで、本大会が行われるはずだった6月6日、7日に、Zwiftの中の「バーチャルMt.富士ヒルクライム」でレースをして頑張りましょうという形に変わりました。
バーチャルの山のコースを富士山に見立てて走ったんですね。
そうです。本当につらいですよ(笑)
ずっと登ってるって事ですよね。
一瞬たりとも平地がないんですね。画面の中には自分が今走っているコースの斜度が何%か出てくるんですが、それを見ながら一喜一憂しながら頂上まで登りきるといった感じです。
ペダルの重さに斜度が影響するっていうことですか?
基本的には下り坂・上り坂といったところが出てきたら自転車に付いてるマシンで自動的に負荷が変わっていくんですよ。
上り坂になったらめっちゃ重たくなるし下り坂に行ったらスーってなるので、自転車のギアを変えながら本当に外で自転車で走ってるような感覚ですね。
何が一番大変でしたか?
富士ヒルに参加するのは初めてなので、どんな練習をしたらいいか分からないって結構あるじゃないですか。
それで、3カ月前からZwiftで週に2回ワークアウトを提供したんですけど、そのメニューを作るためのテスト走行を僕らが実際にやらないといけなくて。
テストで走って、ワークアウトも週に2回やって……おかげ様で3月から5月までの自分たちの走行距離がボコン!ってあがりました(笑)
自転車で走るのも仕事という……
肉体労働でしたね。
それと、自転車界ですごく有名な人をゲストに呼んでオンライン上で喋ってもらい、参加者がアドバイスをもらいながら、1時間頑張って汗を流すっていうような工夫をしました。
楽しそう!
楽しいですね。外でおしゃべりするのって、自転車だと風の音が邪魔になったり、隊列を組んでいたら後ろの人には当然声が届かなかったりするんですけど。
オンラインであればみんなイヤホンをつけて、アプリを通して音声を聞くことができるので、楽しくハァハァ言いながらやってました。
コロナで昨年はいろいろなスポーツイベントが中止になったと思いますが、そんな中バーチャルスポーツの果たす役割ってなんだと思いますか?
富士ヒルで本大会の延期が決まった時に、一番怖かったのは参加者のみなさんのモチベーションが低下することです。
でも、バーチャルだけでも大会をやると決めて、ワークアウトも続けたんですが、そしたら次の週も富士ヒルとのコラボイベントにたくさんの人が参加してくれたんです。
バーチャルの中でも、目標を持つことができたんですよね。
そうなんですね。
コロナ禍でいわゆる“ニューノーマル”なライフスタイルが広がりましたが、在宅勤務も増え、自宅での時間をどう充実させるかということをみんなが考えるようになりました。
確かに。
コロナのせいで身近な人と対面で集まってスポーツをすることが難しくなりましたが、逆にコロナをきっかけに、Zwiftに出会ったと言ってくださるお客さんもいて。
世界中の人とオンラインでつながって、好きな時間に手軽にスポーツをするというスタイルが広がりました。
「コロナといえどもスポーツを人から奪えない」と改めて思いましたね。
【後編】では、好きなスポーツで生きていく方法を聞いていきます。近日公開予定。
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