2021年05月06日
(聞き手:田嶋あいか 堤啓太)
デザイン会社 グッドパッチのCEO、土屋尚史さん。デザイン会社として日本で初めて上場したことで注目されています。起業したのは10年前、きっかけになったのは命の危険もあった病気と祖母が残してくれた550万円でした。
土屋さんはどんな学生だったんですか?
えっと・・・大学は中退しています。
ドロップアウターなんですよ。
えっ、そうなんですか?!
グッドパッチ CEO 土屋尚史さん(37)
長野県生まれ。日本でのWEBディレクター、サンフランシスコのデザイン会社でのインターンを経て、2011年にグッドパッチを創業。2020年、デザイン会社として初めて東京証券取引所に株式上場した。
そもそもどういう学生だったかというと大学に現役で合格して、1年生の時に必修の第2外国語で中国語をとりました。
「(単位を)落としちゃいけない」って1年生の前期のテストでめちゃくちゃ勉強して、パッと起きたらですね・・・
もうテストが終わった時間だったんですよ 笑
えー!笑
心折れますよね。
2年生からもう大学に行かなくなりまして、居酒屋とカラオケ店のバイトを掛け持ちしました。
その結果、大阪梅田の一番大きなカラオケ店の最年少バイトリーダーになりました。
・・・そうなんですか。
大学を休学してたんですけど、大学やめてこのカラオケ店の社員になるわと。
「俺はカラオケ店の売り上げを上げることに燃えている」と、そんな感じだったですよね。
けど、そのバイトをやっていた21歳の時に病気になりました。
バイトをしてる時に体調が悪くなって、けど病院に行かなかったんですよ。
ずっと放置してたら目が見えなくなって、眼科に行ったら先生が「これは目の病気じゃない、すぐに大きな病院に行ってください」って。
行ったら即入院で、命に関わる病気という印象の病名を告げられ、驚くというか「あ、死ぬんだ」って思いました。
え~っ!!
ただ、幸いなことにいい薬があって、2か月でいったん退院することができました。
とりあえず病院から出られたという時に、自分の人生ってそんな長くないんだろうって考えて人生を見つめ直したんです。
どうしようと思った時に、まず考えたのは(就職先は)カラオケ店ではないと。
ということで1回大学に戻って、たまたま受けたのが起業家のケーススタディを学ぶ授業だったんです。
はい。
そこで出てきた事例が、孫正義さんや三木谷浩史さんといった方たち。
自分とは当然レベルが全然違うんだけども、すごく今を生きてるなって、自分と重ねてしまいました。
この人たちみたいになりたいと、起業家になろうって22歳の時に決意をして、大学はその場で辞めました。
再入学してすぐ辞めたってことですか。
そう。戻って半年で辞めたんですよ。
自分のやりたいことが決まったので、もう時間を無駄にできないって辞めて。
病気がなければ、その決心はしなかったんですよね。
そうですね。人生で圧倒的にインパクトが大きかったのは病気です
そこから何でデザインの会社を起業しようと思ったんですか?
いきなり起業といっても何のスキルもなかったので就職をしました。
自分がやりたいのはおそらくITだろうと思い、IT系の会社の企画営業みたいなところからキャリアをスタートしました。
そこから起業するまでで4年半ぐらいしかないんですが、その4年半でなんと3社経験してるんですね。
えっ。
とんだジョブホッパーですよね。
どのタイミングで起業しようって思ったんですか?
3社目の会社でウェブサイトをひたすら作りまくるっていう仕事をしていたんです。
そこで働いている27歳の時に空からお金が降ってきたんですよ。
何かというと、僕の名義で「郵便局の定期預金が満期になりました」って通知が届いて、全く身に覚えがないんですけど550万円入ってたんですよ。
えーっ!
親もよく知らなかったんですけど、どうやら亡くなったおばあちゃんが、僕が高校3年生の時に郵便局に僕の名義で口座を作って500万円を10年定期で入れていたと。
それが10年たった27歳の時に僕の手元に降ってきて、当時は利率がよかったので550万になってたんですよね。
当時、すでに結婚して家族がいた状況で、なかなかお金がたまらなくて。
人生で起業するっていうのは決めてるけどどうしようと思った時に、これはおばあちゃんが「やれ」って言ってるなって思ったんですね。
確かにそうですね。
ただ、起業のネタが何もなかったので、いろんな起業家の話を聞こうといくつかのイベントに参加したんです。
その中でDeNAの南場智子さんの講演会がありました。
南場さんは月の半分をシリコンバレーと日本を行き来していて、そこで気づいたのはシリコンバレーはアメリカにあるけど、アメリカ人だけで会社を作っている事例はほとんどない。
アメリカ人もいれば中国人もいるインド人もいるし、いろんな人種の人たちが集まってプロダクトを作っている。
そうなんですね。
だから考えるマーケットが最初からグローバルだよねと。
これから起業する君たちは日本人だけでチームを作っていてはダメだ、多国籍軍を作りなさいって言ってたんですよ。
そのことばを聞いて、次の日にはシリコンバレーに行こうと決めました。
もう、行動力がすごい・・・
けど、当時の僕ってシリコンバレーに知り合いは一人もいません。英語も全くしゃべれません。なんと海外に行ったことすらありませんでした。
さらに妻と生まれたばかりの子どもがいて、普通に考えればシリコンバレーに行くとか絶対言っちゃいけない状況なんです。
たしかにそうですよね・・・
それでも、「ここで行けなかったら俺の人生はない」って決めて。
1人だけサンフランシスコの社長につてがあるという人を見つけて、連絡をとったらデザイン会社を経営している人でした。
その人に面接を受けさせてくださいって言って、飛行機を取って面接に行くんですけど、それがちょうど2011年の3月10日だったんですよ。
東日本大震災の前日です。
1日遅かったら飛行機は飛ばなかったんですよ。
そんな・・・
お聞きしていると、人生のポイントで思い切ったチャレンジをしているのがすごいなあと思うのですが。
もともと思い切りのいい性格だったと思いますけど、圧倒的に変わったのはやっぱり病気がきっかけですね。
人生が短いことを知ってるから、悩む時間が無駄なんですよ。
なので、その時の直感を信じてここに行くべきだって即行動します。
事前に1日のスケジュールをいただいたんですけど、全時間帯で「ツイッターを確認」と書いてあるんですけど・・・
ツイッターは丸12年やってますけど、ライフワークみたいなものですね。
どんな情報を中心に見ているんですか?
もう、まんべんなくです。
今だとIT系の経営者もたくさん使ってますし、尊敬する人たちがつぶやいてくれる情報って当然有益なものが多いです。
あと、ツイッターでつぶやくっていうのが、ある種サブリミナル効果的なものがあって。
グッドパッチと僕のアイコンが、フォローしてくれてる人の目に入っていると親近感につながるんですよ。
たしかに、そう感じることあります。
サンフランシスコでの出会いもツイッターがきっかけになることが多かったですね。
人とのつながりっていうところでも活用されているんですね。
ネットフリックスなどを見るとも書いてあるんですが、一見業界には関係ないように思ったんですが・・・。
経営者はさまざまな情報収集をしていると思いますけど、僕のポリシーは多角的に情報を取るっていうことなんです。
目的はなかったとしても、自分の知識の海にいろんな情報を入れまくることが重要で、無意識にためた情報があとあとつながってくることが多いです。
この情報とこの情報を合わせたときに今までにないものができるってことがけっこう起こるんですよね。
なので、多角的に情報を取るっていうことは大事にします。
なるほど。
それに、よいコンテンツを見るというのがすごい大事です。
良質なコンテンツをたくさん見ることで、そのポイントや何が人の感動を呼び起こしているのかということを認知するんですね。
そういう視点で見たことなかったです。
僕も普通に見てるんですけど、無意識の内に自分の中でそれが溜まっていってるんです。
最後に、土屋さんにとって「仕事とは」何か教えてください!
社会に価値を届ける媒体みたいなものだと思います。
この仕事を通じて社会に自分が残せるものとか、いる意味を残せるものかなと思っています。
本日はありがとうございました!
編集:加藤陽平 撮影:勝島杏奈
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