2021年01月27日
(聞き手:伊藤七海 西澤沙奈)
ビジネス書「シン・ニホン」著者の、慶應大学SFC教授でヤフーCSOの安宅和人さんが指摘するAI×データの時代。これまでとは全く違う大きな変化が起きている中で、若者はどんなスキルを身につけていく必要があるのでしょうか。カギは「仕掛ける力」です。
AI×データの世界って、今はどのあたりの段階なんですか?
今はフェーズ2が始まるか始まったかなくらいのところ。
テスラとかが典型的で、あらゆる空間や機能、産業をデータ×AI的な技術で刷新するっていうのがフェーズ2なんですけど、ギアが入ってきつつある。
変わってるんですか?なんか実感がなくて。
変わってる途中は当然わからないですよ。
僕はバブルそのものも、ネットバブルも経験しましたけど、始まったのはいつかって言われたら分かってなかったと思うし、バブル崩壊も何年もかかって起きました。
気がついたら世の中が変わってるという感じです。
安宅和人さん
慶應義塾大学 環境情報学部教授/ヤフーCSO(最高戦略責任者)
東京大学で生物化学を専攻。修士号取得後、マッキンゼー入社。イェール大学 脳神経科学PhD。2008年よりヤフー。戦略全般を担当。データサイエンティスト協会創立メンバー、理事。データ×AI時代での変革をテーマにした政府委員を多く務める。
じゃあこれから、もしかしたら日本はフェーズ2から入っていくっていうことになるんですか。
そうですね、フェーズ2が始まったかどうかなんで、入るなら今だと思います。
フェーズのシフト、新しい技術が生み出されている時と一気に広がる時っていうのは全然違う局面なんですよ。
だからフェーズ1とフェーズ2ではプレイヤーが入れ替わっても全然おかしくないです。
特に日本は大半の産業で相当のプレゼンスを持っているので、この刷新が必要な局面ですから、既存のリアルな強みは十分活かしうるはずです。
フェーズ2から入っていくとして、働く人たちや私たちはどんな力が必要なんでしょうか。
ただ規模を大きくするより、何か新しい変化を仕掛ける力っていうこと。
そして、既存の大きな会社は今までの事業のほかに、サイバーマインドを真ん中に据えたリアルな事業、「電魂物才(でんこんぶっさい)」化された事業を立ち上げていくべきです。
意志があるかどうかということですか。
はい、より良い未来を生み出す意思、それを生み出していくための仲間を集って仕掛けていく能力が大事。
今までは(物事を)回す力が大事だったんだけど、作る力も特に大事な局面なんですね。
実際に自分がどういう人材になれば・・・
まずは、嫌なものは嫌と言える人。
なるほど。
嫌なものを嫌だと言えない人には未来は作れないです。
「こんなものは受け入れられない」と言えるっていうのは極めて重大だと思う。
これが第一かな。
嫌なものは嫌・・・はい。
次に大事なのは、ほしい未来を描く力、起動する力だと思います。
嫌なものは嫌って言うと、じゃあ何がほしいんだよってことを言語化して絵にする。
どういう世界が欲しいのかっていうのを描いて、それをどうやってやれるかって仲間をつないで、実際にやるということだと思います。
はい。
で、3つ目はね、こういう新しいことやるっていう時は、自分の強みは持っててほしいけどさまざまな話題で相談できる人がいたほうがいいと思います。
今みたいな変革期って、新しいことをやろうとすると、いろんな異なる分野のことをつなぎ合わせてやらなきゃいけないので、相当に幅広い知恵がいるわけです。
なので、自分の専門分野の知り合いしかいない人では多分未来は変えられないことが多いだろうと思います。
だから未来を変えられる人になるためには、とにかくいろんな分野で頼れる人がいたほうが絶対に強いと思います。
人にも頼って実現していくんですね。
当然です。産業革命のフェーズ2、フェーズ3の歴史を振り返っても同じ、1人だけで大きな変化を起こした人などいません。
こういう変化を起こす人が数%でいいから必要なんです。
でもこういう人をいじめるんですよ、この社会は。
マイノリティーだからですか。
そう。出る杭であり、予定調和を乱すからです。
でも、こういう変革の時代において、そういう人をいじめる社会ではダメなんです。
だから僕は「じゃまおじ」禁止っていつも言ってるんです。
じゃまおじ?
若者をじゃまするおじさんて事ですか?
若者じゃなくてもいいんだけど、新しく何か仕掛ける人を妨害し、破壊する人たちのこと。
じゃまおじが未来への変革をつぶしていってる。
じゃまおじに私たち若者が対抗するにはどうすればいいんですか?
対抗はしない。対抗するのが間違ってるんだよ。
彼らにいじめられないよう戦わずすり抜ける道を探るべきなんです。
じゃまおじには対抗せず・・・。
そうそう、それより絶対にまず大事なのは、自分が生み出したい変化の力になる人たちを仲間にすること。
核になる仲間をつくる。大事なことはじゃまおじたちとはケンカしないことなんで、そこはぬるっといく。
その仲間にするのに何かコツというか、上手な人に共通してることとかってありますか。
いい質問ですね。仲間づくりに向けた交渉の核心の話だと思うんですけど。
交渉している相手っていうのは、実は何かを一緒にしようとしているわけです。
だから、何を一緒にやりたいんだっていうところで合意することが一番大事で、この話から一切ブレないようにして、その話を常に中核に置いておく。
条件交渉みたいなことから始まったら絶対にうまくいかない。
「志でにぎる」っていうのが一番大事だと思う。ここが肝。
志ですね。
お二人がいつかパートナーを見つけるとするじゃないですか。
その人と一緒に住むにはこういう条件で…ということから交渉するってありなのか。
そうじゃないでしょ、一緒に生きて「こういうことができたらすてきだよね」「2人でいたらこういうのできるね」「いいじゃん!」みたいなことから始まるわけですよね。
交渉というものを考える時は常に、パートナーとか家族と思ってやったほうがいいと思います。
いい話しちゃったな(笑)
すごくしっくりきました。
コミュニケーションのお話ってけっこう文系的な素養かなとも感じたのですが。
理数系的な素養っていうのは身につけたほうがいいんでしょうか。
めちゃくちゃ身につけたほうがいいね。
例えばどういった能力ですか?
まずは、データ×AI的なリテラシーです。
これまでは基本的には、母国語。あと、世界語で明確に物を考えて伝える力。
世界語は今までは英語でしたが、これからは中国語が加わってきます。
それに課題を設定して答えを出す力っていうのが基本的な3大スキルでした。
この3つがあれば人を使う側になれたんですけど、ここにデータ×AI的なリテラシーが加わりつつあるっていうのが私の見解です。
なるほど。
データ×AI的なリテラシーというのは、データやAIの力を解き放つための基礎素養なのですが、その中身は3つあります。
統計数理、情報科学などデータサイエンス的な知恵を使う力と、それをコンピューターで回すためのエンジニアリング的な力、知識に基づき事実課題を見いだし分析的にアプローチするビジネス力、この3つです。
どれか一つに秀でていると素晴らしいですが、どれもある程度の素養、理解は持っておいたほうが望ましいと思います。
また、データとかAIを使い倒す時代になれば、情報の識別とか予測とか目的が明快なことはほとんど自動化できるようになります。
残るのは自分なりに見立てて決めて伝える力なんですよ。
だから自分でジャッジできないようでは価値がなくなってしまう可能性が高い。
はい。
その視点で見ると、社会の仕組み、歴史、文化、美についての理解もとても大切です。
さらに、この数百年の人類の飛躍を支えてきたサイエンスについても幅広く馴染んでいた方が圧倒的に有利だと思います。
また、皆さんが何の仕事をやろうと分析的に物事を考えられないとそう簡単には影響力を持てないです。
完全なる部品の人生を送るつもりがないのであれば、自分がやってることを感じること、考えることを分析的に整理して伝える力が大事なんじゃないんですかね。
それを自分のやりたい領域でやればバッチリ。
じゃあ大学ではそういった力を能動的に伸ばしていくことが大事ですか。
そうですね、大学院も含めて全てですけど、本来的にはそういう力を育成したほうがいいのではないでしょうか。
そのうえでさっき話したけど、こういう世界がほしいというものをいっぱい描く訓練を行った方がいい。何十回、何百回でも。
これ、ある年齢を超えると自力で頑張った人以外は育てられていないと思います。
言語化してもいいし、絵にしてもモデル作ってもなんでもいいんだけど、それはねすごく大事。
次回は就活を控える学生、若者たちへの安宅さんからのメッセージを紹介します。「就活はするな!」そのことばの真意は!?
編集:加藤陽平
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