教えて先輩!和える 矢島里佳さん

伝統産業に0歳から触れる意味

2020年08月20日
(聞き手:石川将也 勝島杏奈 高橋薫)

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日本各地の伝統産業の職人と一緒に、赤ちゃんや子ども向けの製品を製作し販売する企業「和える」。代表取締役の矢島里佳さんは「伝統を次世代に伝えたい」という強い意志をもって、学生時代に起業しました。矢島さんの想いを通じて、「仕事とは何か」考えます。

伝統を次世代に

学生
高橋

矢島さんは職人の方を尊敬されてこのお仕事を始めたんですか。

そうですね。すごく素敵な職人さんの背中を見て憧れましたね。

矢島さん

自分に嘘をつかず、素直に生きているんだなって思いました。

矢島里佳さん(32)

慶應義塾大学に在籍中、ビジネスコンテストに入賞したことをきっかけに「和える」を創業。「和える」では「0歳からの伝統ブランド」をコンセプトに日本各地の職人と、赤ちゃんや子どもでも使える食器や衣料などを開発、販売。最近は器などの直しやホテルのプロデュースなど事業領域を広げている。

実は大学進学したのは、ジャーナリストになるためだったんです。

自分が誰に何を伝え、どう社会を変えるか、社会がより美しくなっていくことにどう携われるかというのが命題でした。

大部分の時間でマスクを着用し、距離をとって取材にあたりました。

そこで自分の人生を振り返る必要があって、その中で幼稚園時代に体験した陶芸の思い出がよみがえってきました。

土のあのひんやりとした感覚とかが、自分の中に気づかないうちにしみこんでいたんだなと。

それが伝統との出会いだったんですね。

そうですね。そこで幼少期の文化教育というか、出会いってものすごく重要だなと感じたんです。

感性を育むこともやっぱり幼稚園とか、もっといえば0歳からもう始まっているんだなと感じました。

小さな子どもでも使えるように設計した器などを販売

学生
勝島

伝統産業で赤ちゃん用の製品ってあまりないと思うのですが、職人さんにはどう説明していったんですか。

赤ちゃんや子供たち向けに作らないのはなぜですか?と、素直に聞いたんですよ。

そしたら「作らないんじゃなくて、発想がなかった」とか「頼まれたことがなかった」と、欲しい人がいるならもちろん協力するよっておっしゃってくださいました。

そうなんですね。

「そんな未来きたら素敵ですよね?」というところから、「じゃあ一緒に作ろう」という感じで、新たな市場も一緒に作ってきました

職人さんと一緒に新たな市場をつくるという矢島さん

私はモノは作れません。

だから物は作っていただき、私はその市場を生み出すことをやってきました。

伝統は“豊かさ”

これまで、私は伝統産業との接点がほとんどありませんでした。

私も、もともとはなかったので、それがわりと現代の日本ではスタンダードだと思います。

でも、もっと自分たちの文化に興味を持っていいし、使ったら豊かになると伝えたいんです。

オンラインのほか、東京と京都の直営店やデパートなどで販売

子どもたちに伝統産業のものを与える1つの効果として、「自分はこういうものを使っていい人間なんだ」、「大事にされている人間なんだ」という、自己肯定感につながると思っています

自己肯定感、自分も周りの友だちも低い気がします。

高い人のほうが少ないのかもしれません。

伝統文化や伝統産業は人間を豊かにしてくれる1つの手段、ツールだと思っています

伝統を通して豊かさを感じるって、どういう感じですか。

うーん、実際に使ってみないと分からないと思います。

私はそれが最初、一膳の漆塗りのお箸でした。

一番上が矢島さんの漆塗りの箸

その漆塗りのお箸を職人さんがくださって、使わせていただいて、毎日のごはんがよりおいしく感じたんです。

漆の舌ざわりもそうですし、手に持った感触も気持ちいいし。

そうなんですね。

当時は学生でお金はなかったので、ちょっとずつお金をためて急須や器を買ってみたりして、自分の暮らしに取り入れていきました。

そういうのに囲まれて暮らしていると、今回、新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言で家にこもっている間も、豊かだなぁと。

職人さんたちのおかげだなぁと改めて思いました。

新型コロナに苦しむ職人を支援

新型コロナウイルスの影響で変化したことはありますか。

2月末から3月上旬ぐらいからコロナの影響が徐々に出始めて、職人さんのことが心配になって、「どんな状況ですか」と聞きました。

やっぱりみんな「大変」とおっしゃって、まず「売る場所が一気になくなった」と。

各地の職人と協力しあって作ってきました

売るお店が休業してしまったんです

そういう影響がでていたんですね。

だから商品の届け先がない、売り上げの立てようがない。

多くの職人さんはオンラインショップも持ってないので、私たちができることは?と「aeru gallery」というオンラインショップを立ち上げました。

新型コロナの流行後に立ち上げたオンラインショップ。自社開発の製品とは別に、職人それぞれの作品を販売。

新型コロナを受けての新しい事業ということですよね。

そうですね。4月の上旬くらいに社内で話して、2週間ほどで立ち上がりました。

すごいスピード感ですね。

伝統を今ここで絶やしたくないという思いが強くあったんです。

情報収集は「しない」

1日のスケジュールをいただいたのですが、情報収集の欄が空白で・・・

矢島さんのある1日です。

私は情報収集をルーティンではしないんです。

ええっ!?

ルーティンで情報収集はしないとの返答・・・はじめてのパターンでちょっとびっくりしました。

出張先のホテルでもらった新聞や、家族や友人から薦められた雑誌などを読んだりはするんですけど、継続して同じ何かから情報を得ることはしていません。

情報収集をするというよりは自分が興味持ったものを調べるのは好きです。

だから、論文は好きですよ。検索したら簡単に論文が出るウェブサイトもありますし。

論文ですか!?

興味のあることとか、これからやることについて、学者がどう研究しているのかを知れるのは非常に面白いですよ。

論文を読むのが好きという矢島さん

情報収集で論文を見るっていうのは初めて聞きました。

大学院で学んでいたからかもしれません。

ビジネスの世界と学術の世界とを行き来すると、より相乗効果があるというのは、大学院時代に会社経営と両輪で生きていて感じました。

仕事は「生きる」を豊かにするために

矢島さんにとって仕事とは何か、書いてもらいました。

「生きるを豊かにする1つ」

仕事とは「生きる」を豊かにするひとつであり、ひとつでしかないという感じですね。

「生きる」の中に、例えば睡眠、ご飯を食べる、趣味、家族との時間、いろいろあるうちのひとつ。

だから、仕事だけを取り出して、語れないですよね。

生きてたら、その延長というかその中にあるものです

なるほど。

そういう風に考えながら仕事ができるようになりたいなと思います。

初めてうかがう伝統産業のお仕事、とても刺激的でした。ありがとうございました。

編集 加藤陽平

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