2020年07月14日
(聞き手:勝島杏奈 佐々木快 西澤沙奈 )
フォロアー16万人以上のツイッターアカウントをもつ気象庁の研究官、荒木健太郎さん。雲の研究者である荒木さんは、ツイッターにUPするキレイな雲の写真が話題となりフォロアーがどんどん増えていきました。なぜ、キレイな写真を撮り投稿し続けてきたのか、そこには、どうしても情報発信をしたいというある理由があったのです。
よろしくお願いします。荒木さんはどんなお仕事をしているんですか?
気象庁の「気象研究所」という所で、大雨や大雪、突風など気象災害をもたらす雲の仕組みを研究しています。
気象庁は警報や注意報などを出していますが、「ゲリラ豪雨」と呼ばれるような突然発生する大雨など仕組みが分かっていないところもあるんですね。
うまく監視・予測をするためには、まず現象の実態解明が必要で、今はそういった研究をしています。
毎年のように災害が相次いでいますね。
うちの研究室では、災害が起きた際に、何が起こっていたかを実態解明する研究もしています。
去年の東日本台風、台風19号では大雨が降りましたけれど、私がシミュレーションなどを担当して、報道発表しました。
荒木さんは、ツイッターのフォロアーが16万人以上いらっしゃいますが、どのような投稿を心がけているんですか。
データに基づく客観性の高い投稿を心がけていて、なるべくリアルタイムな情報を発信しようと思っています。
そもそもツイッターを始めたのは、防災・減災のために情報発信の必要性を感じたからなんです。
きれいな写真を投稿してふだんから見てもらい、空や雲に興味を持ってもらう。
そして本当に危ない時に注意喚起の情報発信をして、防災・減災に役立ててもらう。そういう目的意識をもってやっています。
一般の方の防災意識は高まってきたなと感じますか?
大きな災害を経験すると意識が高まってきますね。去年の台風19号の大雨を経験された方は、やっぱり防災に対する意識が高まっています。
でも、災害は滅多に起こらないからこそ被害が出るわけで、なるべく想定外を想定しておく必要があります。
確かに。
けれど、自分ごとにならないと共感できないっていうのは事実だと思います。
以前、茨城県常総市の中学校で「集中豪雨はどこでも起こりうるので、鬼怒川が氾濫するかも知れないからハザードマップを見て備えておきましょう」と講演したことがあったんです。
その翌年・2015年に関東・東北豪雨が起きて、実際に鬼怒川が氾濫し中学校も浸水したんですが、講演に参加された方が「まさかこんなことが起きるなんて」という話をしていて。
防災情報は使ってもらえないと意味がないと強く感じ、SNSを積極的に活用していくことにしました。
自分ごととして捉えてもらうには、どうすればいいんでしょう。
身近なところからその地域の人に呼びかけてもらえるような、わかりやすく危機感を共有できるような投稿を心がけています。
ただ、一般の方に「興味を持ってください。」といってもそう簡単にはいかないので、日頃からのコミュニケーションが重要だと思いますね。
日頃からのコミュニケーションですか?
防災へのモチベーションを持ち続けてもらうには、やっぱり楽しくないと続かないんですよね。
楽しみながら続けられて、防災につながるきっかけとして、きれいな雲や空、興味深い現象などの投稿を始めました。
なるほど。
普段はきれいな写真を見るために私のアカウントを見てる人でも、本当に危険な時はそういう情報発信しかしなくなるので、それを見た時に、危機感を感じてもらえるといいと思います。
今は、新型コロナウイルスの感染が心配ですが、SNSを通じて大雨や水害が起きたときにどう避難すればいいかなどを分かりやすく伝えるプロジェクトが立ち上がり、大雨・台風の研究についての取材を通して、制作に協力しました。
風水害は全国どこでも起こりうるので、いざというときに困らないように、気象庁の情報を活用して備えていただければと思います。
荒木さんは、SNSを研究にも生かしているんですよね。
シチズンサイエンスといって2016年から始めた取り組みです。
もともと関東・首都圏の雪の研究をしていたのですが、2014年2月の大雪で結構広範囲で災害が発生してしまったんです。皆さん、あの大雪覚えていますか?
僕は中学生だったんですけど、地元の宮城県では毎年雪が降っていたのでちょっと・・・。
毎年雪が降っているところは、雪に対してハード的に強いんですよ。観測地点もいっぱいあるし、道路も雪を溶かす水を流すような仕組みがあり、雪に強い社会なんですね。
しかし、首都圏で雪が降るのはせいぜい年に数回程度なので、弱いんですね。ちょっと降っただけで、交通に影響が出てしまうんです。
そうだったんですね。
この大雪を受けて、実態解明のための研究を続けています。
何年かかけて地球規模の雲から小さい雲までいろいろ調べてわかったのは、雲の直接観測の研究が皆無で、特に雪雲の仕組みについてわかっていないことが多いということでした。
雲を観測するためには気球にセンサーをつけて雲の中に飛ばしたり、航空機で雲の中に突っ込んだりと、すごくお金がかかるので簡単なことではありません。
そこでスマホで雪の結晶を撮って、雲の特性が調べられないか考えました。
スマホで、ですか。
「雪は天から送られた手紙である」という言葉があるんですけど、雪の結晶は、その結晶が成長する雲の中の気温や水蒸気の量によって形が変わります。
地上に降ってきた雪の結晶の形状や状態を読み取ることで、上空の雪を降らせた雲の特性を理解することができるんです。
へえー!
ただ、私一人ではある地点のデータしか集まらないので、時間変化はわかるんですけれども、面的にどうなっているかはわからないんですよね。
そこでツイッターで、「#関東雪結晶」とつけて、雪の結晶を投稿してもらう取り組みを始めて、今まさに実態解明の研究を進めているところです。
どれくらい集まったんですか?
2016年からはじめて10万枚くらいですね。
10万枚!すごいですね。どんな工夫をしたんですか?
今は100円ショップでもスマホ用のマクロレンズが売っているんですよ。それを使うと雪の結晶がかなりきれいに撮れるんですね。
顕微鏡とかそういうものを使わないと撮れないのかと思っていました。
と思うでしょ?実は、研究者もそう思っていたんですよ。これなんですけど。
えー!これスマホで撮ったものなんですか!?
こんなに細かいところまで見えるものなんですね!
しかもスマホなので動画も撮れるじゃないですか。リアルタイムで雪の結晶が溶けていく様子もとれるので、理科の教材的にも面白いですよね。
やりたいです!
100円でできるので、ぜひ(笑)
雪の結晶が融解するときは、表面張力で水滴は球形になるんですが、固体から液体になる瞬間にきゅるっとなるんです。イカしてないですか?これ。
雪のお話をされている荒木さんがとても楽しそうなのが、伝わってきますね(笑)
防災などの研究に役立ちたいというモチベーションで参加される方もたくさんいるんですが、それだけだと小さいコミュニティーになってしまいます。
取っ付きやすさと楽しさは、参加してもらうために必要な条件だと思うんです。
すごくワクワクが伝わってきました。SNSが普及している今だからこその研究方法ですよね。
そうですね。10年前ではできなかったですね。