教えて!先輩 伊藤園 角野賢一さん

シリコンバレーに「お~いお茶」を売り込んだ営業マンの極意は?

2019年03月01日
(聞き手:鈴木マクシミリアン貴大)

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今回の先輩は、伊藤園の角野賢一さん。現在は広告宣伝部デジタルコミュニケーション室で、テレビCMや、WEBサイトなどを手がけられています。角野さん、シリコンバレー赴任時に、TwitterやfacebookなどのIT企業で「お~いお茶」ブームを起こした、”伝説の営業マン”なんです。でも最初は仕事がつらかったようです・・・。

最初はつらかった仕事。転機になったのは・・・?

学生
鈴木

きょうはよろしくお願いします。角野さんは、これまでどんなお仕事をされてきたんですか?

大学を卒業して今の会社に入って、まず担当したのは、自販機の「ルート営業」でした。学生さんは、就職をしたらスーツを着て、テレビドラマで見るようなオフィスで働くというイメージがあると思うんですけど、僕は、会社行った瞬間に制服に着替えて2トントラックに商品を積み、一日中自販機を回ってお金を回収して商品を詰めてまわっていました。

角野さん

それは大変な仕事ですね・・・

仕事に慣れていないし、商品も重いので肉体的にもキツかったです。そうしたら僕の当時の上司が、「新規の自販機の契約を取る営業をやってみたら?」って言ってくれたんです。

自販機の契約を取る営業とは・・・?

人通りが多い場所にあるビルの玄関とか、売り上げが見込める場所を見つけて「うちの自販機を置かせて下さい」とお願いしにいくという営業です。ある日、いいビルを見つけて、オーナーの男性のところに飛び込み営業に行ったんです。でも、最初行ったら「うるせえよ。帰れよ。誰だお前?」みたいな感じで(笑)。

座右の銘は「人生、飛び込み」とのこと。飛び込み営業は100件やって1件取れるくらいの気持ちでやるのがいいそうです・・・

相手にされなかったんですね・・・

はい。だから帰るんですけど、1週間後に、新商品のサンプルを2、3本持ってって「また来ちゃいました、いい新商品が出来たんで持ってきただけなんです」とか言って置いて帰る。で、また1週間後ぐらいに行く。それを10回ぐらいやってると、「また来たのか。まあ上がれよ」みたいな感じで、ようやくちょっと話せるみたいな感じになるんですよね。

10回行って、やっと、ですか・・・?

それでもその方は自販機の契約はしてくれなくて、難しいなあと思ってたら、そのビルの裏手にパン屋さんができて、行ってみたらオーナーの妹さんがやってたんです。で、妹さんと仲良くなって、「いいわよ、私が言ってあげるわよ」ってオーナーに話をしてくれて、最終的にはそれで自販機が置けたんですよ。

意外なところに協力者が!

その最初の契約が取れたときに、「あれ、営業って、面白いかもしれないな」って。 その自販機は売り上げがよくて、月に20万売れたんです。年間だと240万。もし同じような自販機を10台取れれば2400万、100台取れれば2億4000万になりますよね。

それは僕がいなかったら生まれなかった、僕のオリジナルのストーリーで生まれた売り上げという感じがしたんです。これは心持ちしだいで営業ってどこまででも行けそうだなと思えて、一気に何か世界がバーッと開けたような感じでした。

シリコンバレーでも飛び込み営業!でも、うまくいかない・・・

シリコンバレーで営業されたときはどんな感じだったんですか?

ニューヨークでの研修や、経営企画などを経て、2009年から、アメリカ・シリコンバレーに赴任しました。最初は大手スーパーに入れてもらおうと思って、サンフランシスコ中の問屋やスーパーを回ったんですが、アメリカ人は伊藤園も「お~いお茶」も知らない。そういう中で売り込むのは非常に大変でうまくいきませんでした。

どうしようかと思っていたんですが、ある日、知り合いに誘われてGoogleのオフィスに行ったんです。シリコンバレーのIT企業は、福利厚生の一環で、食べ物とか飲み物が無料のところが多いんですが、そこにもフリードリンクの冷蔵庫があって、見た瞬間に「あ、もうここに入れたい」と。

見てすぐ思ったんですね。直感的に。

当時、ちょうどスマホやSNSが普及し始めて、写真を撮ってSNSに上げるという行動が始まった頃でした。シリコンバレーのエンジニアが、「最近この緑のお茶がある、何だこれ?」とSNSで話題にしてくれたら、彼らは世界中の人たちとつながってるから、シリコンバレー、アメリカ全土、もしかしたら、ヨーロッパとかアフリカにも知れ渡る可能性があるなと思ったんです。

よし、と思って、また飛び込み営業しました。もちろん電話やメールもしたんですけど、僕は英語も得意じゃないから話が通じないので、行ったほうが早い。受付のお姉さんのところに、お茶を片手に、”Hi, how are you? I’m from ITOEN, Japanese No.1 Green Tea Company!” みたいな感じでいくんですよ。

あ、あやしい・・・

僕は日本のお茶のカンパニーから来てこの健康的なお茶をアメリカの人が飲んだら、もっと毎日生き生きと暮らせるんじゃないかと思って広めようとしているんだみたいなことを言いながら行くんだけど、”No, No, No. You don’t have appointment!”みたいな感じで追い返されるんですね(笑)そんな感じで何十社も行くんですど、全部追い返されて。

角野さん、ハート、強いですね・・

僕は一応、自分でやってみて、ダメだったら周りにいる人に相談してみるんですよ。当時Evernoteの会長をしていた外村さんという方にこの話をしたら、「角野くん、飛び込み営業っていうのは、気持ち的にはすばらしいけども、シリコンバレーでそれはないだろう。世界で一番マーケティングが進んでる場所ですよ。角野くんが用意した何かを見せて、向こうから、それ何?ちょっと一口くれませんかって言ってくるような状況を作らないと」と。

そしてもう1つ。「シリコンバレーってエンジニアの町なんだよ。エンジニアのこと、知ってるの?まず彼らと仲良くなって、どんな仕事してるのか、どんな生活をしてるのか知らないと」とアドバイスされました。

エンジニアの生活を知る・・・難しそうです。どうやって実践されたんですか?

そこで次の週からバケツと氷とお茶を持って、エンジニアが集まる異業種交流会みたいなイベントに毎晩のように行って、ひたすらお茶を配りました。みんな最初はビールを飲んでピザを食べてたんですけど、だんだん、最後にお茶を飲んでくれるようになってきて、そこで彼らと仲良くなれたんです。

そうしたら彼らが、Yahoo!のカフェテリアのマネージャーや、facebookのトップのシェフを紹介してくれて、さらにその人たちと食事に行ったりして仲良くなっていって、そしたらその人たちがうちのお茶を入れてくれるようになって。毎月各社から数千ケース単位でオーダーが来て・・・みたいなことが起きていったんです。

シリコンバレーのIT企業のオフィスの冷蔵庫に並ぶ「お~いお茶」(角野さん提供)

すごいですね・・・!

僕の営業の成果というよりは、プロダクトの勝利かと思っています。他の飲料メーカーもシリコンバレーの企業に営業してくるらしいんですが、エンジニアが飲んでくれないと、だいたい3ヶ月でカットされるらしいんです。それが、このお茶は飲まれ続けています。茶畑から生産工程の管理まで、厳しい基準をクリアして作っている商品なので、そのこだわりが受け入れられたんだと思っています。

facebookで「すごい人」がシェアしている情報をチェック!

今は、どんな方法で情報収集をしてますか?

僕はニュース系アプリは3つ、日経新聞と、NewsPicksと、SmartNewsです。朝は電車のなかで日経のとりあえず一面と、ビジネスのニュースを読みます。帰りは疲れてるんでSmartNewsで芸能やスポーツの記事をよく読んでますね。

情報はどうやって整理しているんですか?

Evernoteというアプリをずっと使ってて、いいなと思う記事はそこにURLをコピーして貼り付けたり、すぐ読めなそうなときは「後で読む」リストに入れたりしています。

あと、facebookつながりで情報を得ることが多いです。今、情報があふれていて、全部は読めないじゃないですか。僕の場合、シリコンバレーに行った時に仲良くなったすごい人たちとfacebookでつながっているので、彼らがシェアしてくれたITの最新のニュースがタイムラインに流れてきます。この人が言ってる、興味持ってるってことは、何か意味があるんだろうな、間違いないだろうなという感覚で読んでますね。

お休みの日も情報収集されているんですか?

土日は、絶対本屋に行って一通り見て、図書館も行きます。雑誌も読みますね。この前も、女性向けの雑誌がSDGs(※2015年9月の国連サミットで採択された、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」のこと。環境に配慮するなど、住みやすい世界を実現するための世界共通の目標)の特集やってたんですよ。

それもSNSで、知り合いが「女性誌がSDGs特集やるなんて!」という投稿をしてたのを見て知って、僕も買って読みました。雑誌は編集者さんがものすごく考えて濃いものを作ってるし、まとめ方とかも非常にうまいですよね。

あと、「クローズアップ現代+」とか、NHKスペシャルとかのドキュメンタリーは面白いので、平日の夜や土日は結構テレビを見ています。

ニュースは「受け取るだけでなく、そこから考えるもの」

ずばり、角野さんにとって、「ニュース」とは?

そう、ニュースはもう僕はこれですね「インスパイア」。何かを感じて動くものですね

受け取るだけじゃないんですね。

本を読んでもニュースを見ても、情報を受けるだけで終わりたくないんです。情報をたくさん受け取りたいというよりは、そこにインスパイアされて、考えて、そこから何か始めたいと思うタイプなので。

僕は伊藤園で、既存事業は大切にしつつも、新しいプロダクトやサービス、次の世代の事業を考えたいんです。いま、たとえばコンビニエンスストアでも淹れ立てのコーヒーが飲めたり、異業種が参入したりということもどんどん起きている。これまでライバルと思っていなかった企業が、あすはライバルになっているかもしれないと思うんです。

一気に世界が変わるかもしれないということですね。

なので、異業種だったり、一見関係なさそうなテクノロジーの記事だったりといった情報にも着目して、新しい事業の芽を作らなきゃいけないという意識で情報収集しています。

学生は・・・「恋をしろ!」(笑)

では、角野さんにとって、「仕事」とは?

僕、ワークライフバランスとか全然考えたことなくて、嫌なことはひたすら逃げるし、でもやりたい、これはうまくいくはずだ、と思うことだったらダメって言われても隠れてでもやるみたいな感じなんで・・・(笑)

お話を聞いていて、すごくよくわかります(笑)

僕にとって、いま仕事は「自分で作るもの」ですね。でも、入社してすぐそうならなくていいと思うんですよね。僕は30歳でアメリカに行かせてもらって、シリコンバレーで成功体験させてもらって、そのことで、「やらされる仕事」から「やる仕事」に変わったんですよね。はじめにお話した、自販機の契約の最初の1台が取れた時もそうでした。

いい人に巡り会ったり、いい体験をしたりして、いろんなきっかけを得て、「やる仕事」になる瞬間があるんですよ。そうなったら勝ちっていうか、もう、楽しくてしょうがないみたいな状況になってきます。

そういう社会人になっていくために、学生時代にできることってありますか?

バカみたいな話なんですけど、「恋をしろ」と言いたいです。(笑)超熱い恋をしろ。別に恋じゃなくてもいい、スポーツでもなんでもいいんです。本気でぶつかって、すごく恥ずかしかったり悔しかったり、うれしかったり、泣いちゃうぐらい、1つの物事に対して、深く取り組むことだと思います。

恋をしろ!(恋じゃなくてもいいけど)

仕事でも、はじめから大勢を喜ばせられる人はいないと思ってるんです。一番身近にいる家族、両親や自分の恋人や友達を思いっきり笑わせて、喜ばせてあげることができて初めて、10人、100人を喜ばせることができる。だから、「恋をしろ」。(笑)感情を豊かにするのは、AIには出来ない。人間だからできることです。

ありがとうございました!恋します!(笑)

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