2020年02月14日
(聞き手:伊藤七海 鈴木マクシミリアン貴大 西澤沙奈)
“ホテル経営の革命児”として、いち早く運営に特化する戦略を打ち出し、最近は海外にも運営施設を展開する星野リゾート代表の星野佳路さん(59)。“旅は平和維持産業”という星野代表は今、次世代の若者たちに何を期待しているのか。学生リポーターが聞きました。
私、実は去年2月にBEB5軽井沢に行ったんですよ。
あ、そうですか! ありがとうございます。
確かに今まで手が出せないなと思っていたのに、自分たちでも行ける価格帯になっていて、行ってみたら圧倒的に居心地が良かったです!
なるほど(笑)
若者のニーズを取り込むのに何か工夫していることってあるんですか?
各施設では、総支配人を含めて比較的若いメンバーでチームを構成しています。私たちの組織の特長として、本社の偉い人が会議をして各ホテルのサービスを決めるわけではないんですね。
へえ!
フラットな組織文化と私たちは呼んでいるんですけれども、言いたい事を、言いたい人に、言いたい時に言える、フラットな組織、人間関係をつくっていこうと。誰か少人数の人たちが、40施設分の事を考えるのは不可能ですよね。40施設あれば40のチームがあるわけです。
その40のチームは、それぞれ自分たちで発想して、考えて、実行して、修正していける。
BEB5軽井沢の場合も、現地のホテルで働いている若いチームの人たちが、自分たちでそのホテルの次の季節、次の年の新しい魅力を考えています。
そのチームの方が具体的に工夫されたポイントってありますか?
彼らが今やっている24時間オープンのパブリックスペース「TAMARIBA(タマリバ)」というのがあるんですよ。ホテルって、どこかで買ってきたものを持ち込んじゃいけない、みたいなのがあるじゃないですか。隠れて部屋に持っていくみたいな(笑)
ありますね(笑)
ああいうことは、若い方の旅にとっては敷居になっているので、TAMARIBAではあらかじめ持ち込みOKということを堂々と言っています。それも現地スタッフから出てきたアイデアですね。
あと、私は「ちょっとこれどうなんだろう」と思いながら見てるんですけど、「ハプニングステイ」というプランが出てきたんですね。
ハプニングステイ?!
申し込んでもらうと、あなたの滞在中に必ずハプニングがいくつも起こりますっていうプラン。
なんですか、それ(笑)
ハプニングってどういう?
行ってみると、お部屋番号は、この数学の式を解かないと出てきませんとか。
あ、そういう謎解きみたいな? おもしろい。
私の年代では、そういうことを楽しみに行くなんていう発想はないんだけど、意外とウケてるんですよ。
実際効果は出ていますか?
このチームは値段の面ですごく工夫してくれたんです。今のホテル業界って同部屋同サービスでも、忙しい時期は高く、暇な日は安く確保してるんですね。それが価格にセンシティブな20代の人たちにはすごく分かりにくくて、旅の抵抗感になっている。
それで、ゴールデンウィークだろうが、土日だろうが平日だろうが、365日価格をそろえたんです。
へえ~。
で、それを35歳以下限定で出したんですよね。これは業界の中ではBEBだけかもしれない。やっぱり反応がいいですよね。宿泊者の70%以上がそのプランを使ってきているから、そういう意味では効果は出ているんじゃないかと思いますけどね。
お話をうかがっていると、若者をすごく重視していると感じるんですけど、なぜですか?
日本の観光産業にとって、今の20代の人たちは、10年後、20年後に日本の旅行市場を支えていく世代なんですよね。
ところが、1年間に国内旅行に行く数っていうのが、30年前の20代と比べ、今の20代の人たちは、減ってきているんですよ。
そうなんですか?
そこを私たちはすごく懸念しています。もっと、20代の時から旅が好きなんだと言っていただけるようにしなきゃいけない。業界全体の課題です。
20代の旅への抵抗感とは何かを知って、我々のアイデアをぶつけ、ノウハウをためていく。20年後の星野リゾートのことを考えると、重要な企業戦略なんですよね。
私たち、意外に同世代の若者も旅に行ってるんじゃないかと思っていたので、そんなに減ってるのかなって。
1つの理由は、昔はね、東京から鈍行が出てたんですよ。
あ~。
例えば、東京から長野にスキーに行くとするじゃないですか。下手すると6時間くらいかかるんですけど値段は安い。
6時間!
電車に6時間座っていられるのは20代だからなんですよ。お金はないけど時間はある。
確かに。
新幹線っていうのはビジネス客にいいんです。新幹線代は会社が払ってるから値段気にしないでしょう?
はい。
で、ビジネスだから早く行って仕事して、早く帰ってきたいわけですね。それで、新幹線網が日本中に張り巡らされた歴史があるわけです。
でも、時間はあるけどお金がない、ゆっくり旅したいという人にとってはちょっと厳しい交通体系に変わってしまった。日本国内を安く動きやすくするっていうのがすごく大事で、もっともっと工夫していかなきゃいけないと思ってますけどね。
逆に若者にとって旅に出るメリットって何だと思われますか?
やはり日本国内の地方に行くと、自分の国を知ることができますよね。学校で勉強して地図で勉強して、ということじゃなくて、実際行って話して体験してみると、日本というのは、なんて多様な地域文化を育んできた国なんだろうと。
海外旅行も大事で、現地の人と触れ合うことによってその国が好きになることもあるし、逆に海外から日本に来てもらうことで日本のファンを増やすこともできる。
旅行っていうのはまさに民間交流だし、相互理解なんです。旅は世界の平和につながる可能性がある大事な産業だと思っています。
これからどんな若者が増えてほしいですか?
これからは日本の存在感が落ちていく時代だと思うんですよね。
それはなぜですか。
人口減少しているからですね。人口は経済力であり、存在感ですからね。日本の文化がいかにすばらしくとも、人口減少が避けられない状態の中で、高齢化が進み、経済全体が縮小し、日本の存在感が落ちていく。
日本の存在感が落ちていくときに、若い人たちが自分の存在感を落としてはいけない。世界で活躍できる能力をつけるってことはすごく大事だと思いますね。昔は日本の企業に入ってしまえば一生安泰だったかもしれないけれど、これからは自分の力に頼っていかなくてはならない。
自分の役割を見つけるということをお話されていたと思うんですが、それって難しいですよね。何かアドバイスはありますか?
やりたい事を伸ばす、っていう事もすごく大事。これを否定しているわけじゃないんですけれども社会に出た瞬間に求められるのは今すぐ何で貢献できるんですかっていう事なんですよね。
やはり、世界の中での競争力、自分が置かれている環境での競争力を考えたときにはまず自分のできる事は何なのか、自分は今いる組織にどう貢献できるのか、そして周りに対してあいつできるやつだなと思ってもらえるか、そこを見極める事が大事ですよね。
今自分が得意としているものを伸ばすっていう事がすごく、自分の将来の力につながっていくんじゃないかと思いますね。
できることを伸ばす。
何もない人はぜひ、雪山に来ていただければね(笑)
教えて先輩!星野リゾート代表 星野佳路さん【前編】“自分の役割”と決めて継いだ家業
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