教えて先輩! カルビー 香山宏さん

ヒット商品の舞台裏は?

2019年07月30日
(聞き手:伊藤七海 高橋薫)

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きょうの先輩は、カルビーの香山宏さん。ドライフルーツとグラノーラを組み合わせたシリアル食品「フルグラ」のマーケティングを手がけています。1991年の発売当初は日本ではほとんど知られていなかったこの食品、今や売り上げ300億円に迫るヒット商品となりました。その舞台裏にはどんな戦略があったのでしょうか。

マーケティングってどんな仕事?

学生
高橋

よろしくお願いします。まず最初に香山さんの経歴を教えてください。

香山宏さんは36歳。マーケティング本部でシリアル食品を担当

大学を卒業して2005年にカルビーに入社して、ことしで15年目です。出身は関東ですけど、北海道で営業を3年間担当して、4年目からは本社のマーケティング業務を担当しております。

香山さん

マーケティング業務の内容を具体的に教えていただけますか?

商品企画担当としては、フルグラを4年間、ポテトチップスを2年間。商品企画の支援業務を5年間担当しました。

支援業務ってどんなことをするんですか?

ほんと多岐にわたるんですが、大きく分けると2つあります。

カルビーは1年を通じて、毎週のようにいろんな商品を発売していて、その商品ごとに戦略があるんです。

工場の稼働だとか、このタイミングでこの商品をやるといちばん売れるとか。製造・販売・物流の各側面から調整を図り、最適なタイミングを判断していくんです。

それが1つ目の役割ですね。

もう1つは、企業のブランディングです。

カルビーHPより

カルビーという会社が、今、お客様にどんなふうに思われているのか?この先どう思われていきたいのか?そのために何をすべきか?戦略を立てていく仕事ですね。

学生
伊藤

これまでで、いちばん印象に残っている仕事を教えてください

いま担当しているフルグラの業務ですね。実際に担当してみて、ほかのスナック菓子とは異なる朝食カテゴリーならではの楽しさや奥深さを感じています。

自分の取り組んでいることがすごくダイレクトに影響してくるので、夢中になれるなと思います。

フルーツグラノーラは、いろんな種類がすでにありますけど、さらに新しい商品を作っているんですか?

フルーツグラノーラは2012年ごろからすごくブームになって、フルグラも30億円ぐらいの売り上げ規模でしたが、今や300億円に迫るぐらいに非常に成長してきました。

ただ、この先、フルグラの味変わり品をたくさん作っていても、今も買ってくれている人が買うだけで、市場自体はあまり伸びなくなります。実際のところ、国内では1~2年前から踊り場に来ているという状況です。

そうなんですね。

そういった状況に対して、どんな戦略を立てていくのかを考え、実現するところを日々考えています。すでに発売しているものとして「グラノーラプラス」という商品があります。

フルグラとは異なるお客様にどう購入して頂くか、本当にお客様にとってよい商品とは何かと考えた時に、プロテインや鉄分に特化した商品を発売しました。

商機をつかんだ”お友達作戦”

売り上げが30億円から300億円近くまで伸びたのはどうしてなんですか?

フルグラは実は結構、昔からあって、1991年発売で、現在28年目の商品なんです。

そんなに前からあったんですか…、知りませんでした。

当初はシリアル市場で「フルグラを買って下さい」、「他社のこれよりもおいしいです」っていう考え方をしていたそうなんです。

その考え方を変えて、パンやごはん、ヨーグルトなど、朝食全体で捉えたときのフルグラのポジションを改めて考えようということになりました。

ちょうど2012年ごろかな。「お友達作戦」を始めたんです。

お友達、ですか!?

はい。お客様は朝食で何を食べているのかというところから考えて、答えの1つになったのが、ヨーグルト。まずはヨーグルトと友達になろうという作戦です

それまでの「フルグラを朝食に食べて下さい」という考え方から、メインはヨーグルトで「そのお供にフルグラを」と脇役の1つという提案に変えましたそれから徐々に食べていただける方が増えたんです。

スナック菓子を主に作っている会社が、朝食に目を向けたのって結構意外です。

もともとカルビーは、お客様を健康にしたいという思いが創業時からあります。

実際、1991年にフルグラが生まれたときは、女性の社会進出がまだまだ当たり前ではなかった時代でしたが、社会に出て忙しくなる女性を応援する朝食として生まれたんです。

食物繊維や鉄分とか、女性にとってうれしい栄養素を入れているのも実はそこに理由があるんです。

アイデア1000本ノック!

商品開発では、新しいアイデアを出していく大変さがあると思うんですが、生み出す秘けつってあるんですか?

生み出す秘けつは…特にないんですけど(笑)

ちょうど先週、わたしの部署で「アイデア1000本ノック」をやりました。メンバーが今週中に新商品のアイデアをそれぞれ10本ずつ出す!みたいな。

数を決めて納期を決めることが重要ですねひねり出さなければならない状態を作ることで、新たなイノベーションのもとが生まれるのではないかと思いますね。

実際、楽しいというか、そんなに苦にならないですよ。

アイデアを出すために、どんな情報を気にしながら入手していますか?

トレンドはしっかり押さえとかなきゃ、というのはありますね。それから、生活の中で接している情報とか、これはおもしろいなと思ったものと、くっつけるっていうのはやっていますよね。

どういうことですか?

例えば、「サブスクリプション」。フルグラでサブスクリプションを組み合わせるとなにができるのか?みたいな考え方をしていくと、新たなアイデアが生まれることがあるかもしれませんよね。

【サブスクリプション】

定額制。商品やサービスを一定の期間利用するための料金を支払うビジネス方式。「月額○○○円で○○放題」といったもの。音楽や動画の配信サービスのほか、最近では、洋服やカバンのレンタルサービス、コーヒーやラーメンの月額制サービスなど、飲食業界にも広がる新たなビジネスモデルとして注目されている。

香山さんの1日のスケジュール

朝の日経クロストレンドのマーケティングに関連するニュースというのは、何をチェックするんですか?

世の中でヒットの兆しがある商品はどれかとか、それこそヒット商品を出した人の考え方とか、そういった情報ですね。

消費者側の新しい食べ方がネットでバズったりとか、そういうネットの声とかも見ますか?

見ますよ。自分の担当した商品は発売日、もしくはその前日ぐらいから、商品の名前で検索しますね。

だから、さっき言った「グラノーラプラス」の担当者なんて多分、毎日見てると思います。

結構、書き込まれる事って多いんですか?

鉄分やプロテインに特化した商品って、実はフルグラに比べると、若干、発売時の書き込みが少ないなと思ってたんですよね。

ただ、商品担当者が言ってたんですけど、もしかしたら、「健康に気をつかってる」みたいな部分をまわりの人に知られたくないというのが裏にあって、だから書き込みが少ないのかなって。

いろんなお客様の心理みたいなところを探っていくことでも見えることもあるので、参考になるんです。

カルビー本社オフィスがある丸の内ビル群

左脳で考えるマーケッター

商品開発の事例をなにか1つ教えていただけませんか?

2017年に「フルグラ 糖質オフ」という商品の担当をして発売したのですが、担当になる前に、適正な糖質摂取を提唱する先生の話を聞きに行った時に、すごくおもしろいなと思ったんです。

こんなに学術的なのに、おもしろく聞けるし分かりやすいし、それで自分でも実際に実践してみたら、すごく痩せたんですよね。

糖質オフ

おもしろいと思えて、実際に納得したし、自信も持てたので、その考え方をベースに商品化を進めたんです。

1食当たりの糖質量とか、トッピング(ドライフルーツのこと)は、これとこれとこれをこう合わせるとすごく理にかなっているとか。

私は左脳寄りの人間なのかもしれないですけれども、知識を深めて自分で実践してみて納得したものを商品づくりに活かすみたいなことをやって、今でも好調に売れているので、1つの成功例なのかなと思いますね。

【左脳・右脳】

左脳は、言語や計算、論理的思考に大きく関わるとされる。

右脳は、記憶、想像、ひらめきに大きく関わるとされる。

広告学校で気づいたこと

フリーアドレスのオフィス。右が社長席だそうです。

ところで、なぜカルビーに入社されたんですか?

学生の頃から、1つの事をいろんな切り口で伝えられる広告のおもしろさにすごく興味があって、広告学校に通ったんです。

実際のその仕事を知っていくなかで、ものづくりも含めた、いちばん最初からいちばん最後の、お客さんにどう伝えるか、どう手にとって頂くかを含めてできる仕事がしたいと思うようになったんですよね。

広告学校ってどういうところなんですか?

広告業界の第一人者の方たちが講師になって広告の考え方を教えてくださったり、実際に自分でコピーを作ってみて評価をして頂いたりという授業がありましたね。

どれぐらい、通われたんですか?

およそ半年間だったと思います。大学2年生のときに。すごくおもしろかったですよ。

学生って、大学やアルバイト先でのコミュニティーだけになりがちですけれど、広告学校は、社会人の方も通っていました。そういう方々と話した時間が、学生時代の自分にとっては大事だったんだと思います。

無限に広がる挑戦のフィールド

広報の幕内さん

余談ですけど、フルグラの上にカレーをかけるっていうのもおいしいんですよ。

幕内さん

へー!!

非常食にもなるんで。白米を炊かなくていいので。フルグラの上にレトルトのカレーをかけて。シチューとかでもおいしい。

おいしそう!こういうのって誰の発想だったんですか?

お客様でもやってる方がいらっしゃるかもしれないですけど、社員からも出ることがありますね。ハウス食品様とのコラボもありましたよね。

実際、そういったところからヒット商品が生まれたりもしますね。

偶然から生まれるヒット商品も多いってことですね。

そうですね、実際、とにかく数を打つことで当たるという側面もあったりするので・・・。

だからアイデア1000本ノックとかにつながるんですね。

そうですね。

消費者の行動を分析しているだけでは新しいアイデアって出てこないですもんね。

おっしゃる通りで、カレー味とか絶対出てこないと思います。

最後に、香山さんにとって仕事とは何か、教えてください。

そうですね、仕事とは、新しい価値の創造とさせていただきました。

商品企画という仕事では、新しい商品を生み出したり、その商品を通して新しい価値をお客様に提供するということが分かりやすいかなと思うんです。

でも、社会ではどのような業務においても、新しい価値をつくるというところが求められます。今回、改めて考えてみましたが、自分自身も常に意識しておきたいと思いました。

知られざる世界をいろいろお話ししてくれてありがとうございました。

「ひらめき」の勝負というイメージが強かったのですが、1000本ノックのような地道な世界がその裏にあること伝わってきました。本社オフィスは社長室がなく1つの空間で社長から新人社員までが働いていました。「チームで作業するのは楽しい」という社風はこういうところからも生まれているのかもと感じました。

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