2022年07月29日
(聞き手:阿部翔太郎 本間遥)
テレビ東京で多くの人気番組を育て、今はフリーのプロデューサーとして活躍する佐久間宣行さん。最近は組織の中で消耗せずに自己実現するための「ずるい仕事術」を説いた著書がヒット。企業で働くビジネスパーソン、就活生も必見の仕事術を聞きました。
テレビ局に就職された当時のことを教えてください。
入社したころ20年前のテレビ業界とか芸能界ってハラスメントも多かったし、「マッチョ」な世界でした。
性格的に向いてないって思ったし、そもそもサラリーマンにも向いてないって思ってたんですよ。
えー!何でですか。
20年前のテレビ業界に必要だったのは頑強な兵隊。
上の言う事をちゃんと聞けて、なんでもやれる人間が5~7年という期間を経て、やっと自分の好きなこともちょっとやれるぐらいの感じだったんです。
会社の言うことを聞く人が残る・・・
性格的に向いてなくて我慢できないことが多かったので、自分の耐えられないことはやらないようにして。
そのかわりクリエイティブへの努力に時間を割いて、それで向いてなかったらやめようと思って、働き方を変えたのが1年目の途中ぐらいからですかね。
1年目ですか!
佐久間宣行さん
テレビプロデューサー、演出家、作家、ラジオパーソナリティー。新卒でテレビ東京に入社し、「ゴッドタン」「ピラメキーノ」など手がける。会社員時代の経験をもとに書いたビジネス書「ずるい仕事術」が発行部数、10万部超えに。
その苦手なところからの抜けだし方をお伺いしたいです。
入社3年目までに芽が出なかったら辞めると具体的に決めました。
3年間はまず自分のメンタルがもたないことはやらない。
仕事は自分の努力で変えられるなって思ったから、人付き合い、飲み会も全部やめちゃった。
えーそうなんですね!
仲いい奴とは行くけど、その時のテレビ業界は仕事が終ったあと朝まで飲むみたいな世界だったから、これは耐えらんないなあって。
基本的には一人でいるほうが好きだったから、嘘をついてでも行かなかった。
そんな!
その代わり朝一の打ち合わせに吟味された資料を用意するとか、ADはふつうリサーチ資料しか作らないんだけど、自分の意見、アイデアを5個くらい持ってくるとか。
そういうことをちょっとずつ続けてたら早い段階で企画書が通って、こいつは他のやつとは違うなという空気になったのが3年目くらいかな。
結果、平気で嫌な飲み会とか行かなくていいようなキャラクターになった。
すごいです。でも、そうは言っても心が折れることってなかったんですか。
入社直後はもうめちゃくちゃありましたよ。
だから、大きい夢を持つのをやめたんです。
大きい夢を持つと、自分の現実と合わなくて潰されちゃうんで。
だから3年間とか、細かい目標を作っていったんですね。
そう、全部具体的な目標に落とし込んで1年目で番宣とかでVTRつないで、おもしろいものをある程度作れるようになってたら続けられるなとか。
ここまでにこれができるタイプじゃなかったら、向いてないから他の仕事やったほうがいいなって思って、自分なりのチェックポイントをいくつか作った。
それをクリアするって形で働いてたから、1回も身に余る夢を持ったことはないですね。
組織の中で自分がやりたい仕事と求められる仕事のバランスって、どういうふうに考えていたんですか。
それはなかなか取れなかったな、やらなきゃいけない仕事はたくさん降ってきた。
でも、そのやらなきゃいけない仕事の中で自分が比較的楽しんでやれるものは「俺向いてます!」ってアピールした。
なるほど!
そうすることで、「やらなきゃいけない仕事」から「耐えられる仕事」にどんどん振り分けていって、苦手なことは申し訳ないけどこれ無理ですって言ってった。
僕はやらなきゃいけない仕事の中で、比較的仕切りがうまいって思われて、「フロアチーフ」がすごく向いてたんです。
そしたら社内中の番組でフロアチーフに呼ばれるようになって、最終的に選挙特番もやったんですよ。
そんなところまで。
そうすると、社内中にすごく顔覚えられたんですよね。
そしたら企画も通りやすくなった。
そういうものなんですね。
そうやって自分のキャラクターをアピールして、やりたい仕事につながるようにしていったんですよ。
結局、やりたくない仕事をやりたくない雰囲気でやったり、ただ無条件にやったりしていたら、やりたい仕事には一生たどりつかないので。
会社員として働く中で相手のある仕事ってたくさんあると思うんですけど、どうやってうまく進めてきたんですか。
相手の立場をおもんばかれないと交渉はうまくいかないんですよ。
結局、敵だと思うか一緒にこの現場を乗り切っていくチームと思うか。
それが分かっている人のほうが、自分の立場や主張を押し付ける人よりも、結果的にはうまくいく。
僕なら相手の立場もおもんばかりながら、「じゃあその部分は変えないと持ち帰れないですよね」みたいな、そういう話をしながら進めるかな。
なるほど。衝突しちゃいそうな相手ともうまくやらないといけない時はどうするんですか。
衝突しそうな相手とは仕事しないっていうのが一番いいんですけど。
若いうちはもう、その人をおもしろがるっていうやり方で乗り切ってきましたね。
違う意見もおもしろがるみたいなことですか?
いやもうコントのキャラクターだと思うっていうやり方。
あと早い段階でやばいやつのことはめちゃくちゃネタにする、ネタにして気付いてもらうっていうことをやってました。
ネタにして気づいてもらうっていうのは?
周囲でめちゃくちゃネタにして、自分がスベってるって気づいてもらう。
ハラスメントとか、あなたのやってることって時代に合ってないよって空気をちゃんと出す。
そういうもので絶対に笑っちゃだめで、「なんすかそれ」みたいにしてました。
業界全体をクリーンにするみたいな?
業界全体をクリーンになんて、今は思うけど昔はなくて。
少なくとも自分の目のある所では起きてほしくないなと思っていました。
ちなみに会社員を20年以上されたあと、どうしてフリーになる決断をされたんですか。
一番は現場でディレクターとしておかげさまで色んな仕事をやるようになって、会社員所属のままだと受けられない仕事が増えてきた。
それはどういう仕事ですか。
もちろんネットフリックスの仕事とかできないし、共同で何か作りましょうっていう話があったけど折り合わなくて流れた企画もあって。
「やらなかったな」と思って死ぬのは嫌だなと思って。
もうひとつは、おかげさまで出世をしそうになって、現場から離れそうになったんで。
出世の打診があった時点で、「じゃあ現場でディレクターやりたいから辞めます」ってお伝えしました。
やりたいことを実現していくためにフリーになったんですね。
会社員の経験がフリーになった今役立っていることってありますか。
僕が自分のマネジメントを自分でできるのは組織人だったからです。
クリエーター100%で生きてきたわけじゃなくて組織人だったからこそ、エンタメ業界で「この企画は通らない」とか「どこで滞っている」とかがだいたい分かるんです。
会社とフリーの違いはどういうところですか。
違いはね・・・会社はいいですよ、会社は優しい。
会社は失敗しても基本的に給料が変わらないし、もっと冒険しとけばよかったと思う。
なんか意外です。会社のほうがいろいろ制約があって難しいのかと思っていました。
いや全然、会社は守ってくれるしいくらでも失敗できるから、打席にもっと立てばよかったなって思ってます。
じゃあ、フリーと会社員だったらどっちがいいですか?
んー、今はフリーですね、それは僕が良好に会社を辞められたからだと思いますけど。
辞めてから「佐久間さんと仕事したかったんだけど頼めなかったんですよ」という人がたくさん来てくれて。
それは辞めてなかったらお話がなかったと思うんですよね。
じゃあ、佐久間さんがこういう人と一緒に仕事をしたいなと思うのはどんな人ですか。
やっぱりその人が売れている姿が見たい人だよね。
そういう人のきっかけになりたいと思ってここまでやってきた感じですね。
そうなんですね。
チームとしてはどういう方と一緒に仕事したいですか。
この仕事をおもしろがってやってくれそうな人。
身を粉にして働けとは思わなくて給料分働いてくれればいいんだけど。
でも、楽しそうにやってくれない人とはいても辛いだけなんで、おもしろがってくれる人がいいなって常に探している感じですね。
佐久間さんにとって「仕事とは何か」教えてください。
何だろうな、本当に別に夢とか持ってる人間でもまったくないんだけど・・・
じゃあ単純に「仕事」だけで。
「仕事」!理由を教えてください。
仕事って仕事以上のものじゃないから、働いた分だけお金もらえればいいし。
自分の中で仕事が占める割合は、それぞれが自分で決めたことが正解なんですよ。
僕は本当に自分の楽しみのためだけに仕事をやってるんです。
とにかく仕事をあんまり大きく考えちゃいけない、仕事を「自己実現」って考えたら苦しむと思いますよ。
そうなんですね。
仕事で一緒する人たちにもちろん優しくするけど、友情みたいなものまでは求めないんだよね。
そこは切り分けて。
僕の場合は切り分けたほうが楽だった。
だって友達だったらけんかしたら辛いしで引きずるじゃん。
まして、恋人くらい仲良くなっちゃったら全部に響くじゃないですか。
たしかに笑
佐久間さんの中で、仕事って自分の中で何%ぐらいなんですか。
実際に占める時間で言うと8割くらい。
けど、メンタルの中で言うと、5割以下のつもりでやってますね。
残りは何ですか?
家族、友人、うまい飯を食う、面白い映画とか漫画とかを読む、あとは寝る。
全然、集中力ない時は何にもしないし、すぐ寝ちゃうよ。
仕事は仕事と割り切りながら組織で生き抜き、今は新たなステージに進んだ佐久間プロデューサー。次回は学生にきっと役立つ、佐久間さんの就活生時代のお話です。じっくり聞きました。近日掲載です。
編集:加藤陽平 撮影:徳山夏音
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