「ゲスの極み乙女。」休日課長さん

背伸びをせず 結果よりプロセスを大切に

2019年06月03日
(聞き手:伊藤七海 井山大我 西澤沙奈)

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若者を中心に人気を集めるバンド「ゲスの極み乙女。」のベース担当、休日課長さん。実は、以前、バンド活動のかたわら、サラリーマンをしていた時代がありました。どんな就活をしたの?サラリーマン時代の生活はどうだったの?根掘り葉掘り聞いてみました。

「ゲスの極み乙女。」写真1番右が休日課長さん

「どんな人なんだろう?」。少し緊張していた学生リポーターに、親しみのある優しい声で語りかけてくれた休日課長さん。インタビュー前に、照明や音声の準備をしている最中にも、私たちに積極的に声をかけて、場を和ませてくれました。

やっぱり会社員を選んだかな

学生
伊藤

では取材させていただきます。そもそもの質問なんですけど、なぜ休日課長ってお名前で活動されてるのかなって思いまして(笑)。

下北沢のライブハウスの店長から「顔が課長っぽいね」って言われて、課長ってあだ名がずっとついていて。その後、会社員になって、「ゲスの極み乙女。」を始めるんですけど、休日しか活動できないから、休日課長になったっていう経緯ですね。

休日課長

なるほど〜。課長っぽい顔だったからなんですか(笑)

そうっすね。社長でも部長でもなく、かと言って、係長でもないみたいな感じだったらしいですね。

会社員の時に課長だったのかなって勝手に思ってました。

3年間だったので、バリバリ平社員でしたね。

休日課長さん。1987年生まれ。理系の大学を出て大学院まで進んだ。学生時代から音楽活動をしていたが、当時、「音楽で食べていく」という発想はなく、就職活動をした。そして、電気メーカーに就職し、3年間のサラリーマン生活を経験。ボーカルとギターを担当する川谷絵音さんに誘われてバンド「ゲスの極み乙女。」を結成。2015年にNHKの紅白歌合戦に出場。

学生
西澤

もし、今、課長さんが学生に戻るとしたら、会社員とバンド、どちらを選びますか?

あ〜なるほど。うーん。でもどうだろうな。今を知ってる状態でその状態に戻ったとしたら・・・やっぱ、会社員選んでたかな。

そうなんですか!!

会社員になってよかったなっていうのもすごいあるんですよ。会社員になってなかったら、今はないなって…。働いていた時間を無駄にしたなっていうのは、全然ないですね。

考えてる人ってかっこいい

学生
井山

具体的に会社員時代のどういう経験が今、生きてるなって思いますか?

かっこいい人って何やっててもかっこいいんだろうなって。若い時ってバンドマン、芸能人ってかっこいいっていうイメージがあって。

満員電車に乗ってるサラリーマン、かっこ悪いみたいな、なんとなくそういうのあるじゃないですか。

でも、バンドマンでもかっこ悪い人はかっこ悪いし、逆に会社員でもかっこいい人はかっこいい。別に何やっててもかっこいい人はいるし。会社員でも夢持ってやってる人もいるし。

なるほど。

サラリーマン時代出会った先輩とかから受けた刺激が今も残っている部分もあるので。

どの団体に所属しているかじゃなくて、個人がどうなのか、その人自身がどうなのかってのを感じられたってのは一番デカかったですね。

課長さんが言うところの「かっこいい人」ってのはどういう人なんですか?

うーん。やっぱり常に考えている人。しっかり自分で考えられる人。

会社員時代の上司に、「よさそうなことに惑わされるな」って言われたんですね。つまりは「よく考えろ」ってことなんですけど。

その人もよい上司で日頃から考えてて、考えてるからこそ、そういう言葉も出てくるし、考える人ってのはすごいかっこいいなって。

なんとなく流されるのではなく・・・。

ちゃんと考えを持って、「なんとなく」のテンプレートにハマッていかないことのおもしろさがあると思って。

だから、「ゲスの極み乙女。」もテンプレートにハマった音楽はみんな嫌いで、自分たちはこれだっていうことを突き詰める。

ものづくりが楽しい

なんとなく大学に行って、なんとなく就職して、そういった流れがあると思うんですけど、課長さんが就職活動の時に気をつけてたことってありますか?

僕はものづくりができれば、なんでもいいと思ってたんですよ。最初はなんとなく医療機器メーカーに行きたいって、すごい絞ってたんですよ。

へえー、そうなんですか。

最初は、この会社入ったら、これ絶対やりたい、そういうスタンスで就活をやってたんですよね。でも、就職してやりたいことをやれる部署に配属されるって、ものすごく確率低いじゃないですか。

で、それでがっかりしたくないから、もうちょっと(自分の志望を)絞らずに、ものづくりという大枠に入っていれば、なんでも楽しめるんじゃないかって。

なんで、ものづくりをしたかったんですか?

なんででしょうね。ものができた時にだれか喜んでくれるじゃないですか、誰かしらは。あと単純にものが好きっていう。

僕の周りの就活生に結構多いのは、そもそも自分が何やりたいかよく分からないとか、自分は何をしたいのかが分からない人が結構多いんですよね。

休日課長さんは、どういった人生や経緯を経てものづくりというものを見つけたんですか?

最初はミニ四駆(※1)にすごくハマって、そこからですかね。そこからハイパーヨーヨー(※2)というものがあるんですけど、それ自分で作ってみたりして。

※1/モーターで走る自動車模型。昭和60年代に爆発的なブームになった。
※2/1997年~1999年にかけて一大ブームとなり量販店でも売り切れが続出した。オリジナルな技を競い、各地で大会やイベントが開かれた。

一人暮らしするようになって、大学3年生の時には料理もハマって。なんかそういう作るということが好きなんですね、っていうのはおのずと出てきて。

だから、自分が無理せず、好きって言えることってそうなんじゃないのって。

就職活動のスパイスはカレー作り

ある種、自分に正直になるってことですかね?

根本は何なんだろうって考えることですかね。

料理が好きって言っても、料理の何が好きなの?人に振る舞うことが好き、何で人に振る舞うことが好きなのか?人が喜んでくれるから。だったら、いろいろ可能性が広がると思うんですよね。

休日課長さん自身も就職活動をして、面接するとき、エピソードみたいなのを織り交ぜたりはしましたか?

めっちゃ、やりましたね。

例えば?

さっき言った料理でカレーの話をしたところは大体通りましたね。

カレーですか!?具体的にはどのように?

履歴書とかエントリーシートに趣味の欄があるじゃないですか。「僕はカレー作り、ライブハウスで100食完売しました」みたいなことを書いて、何これ?みたいなことになるじゃないですか。

カレーの材料や分量を記した休日課長さんのExcelシート。

なりますね(笑)

当時、一人暮らしを始めて、カレーを作るのが好きになって。まあ、女性と仲良くなりたいがために、休日課長はカレーおいしいんだよっていう噂をたてようと思ったんですよ。

なるほど。

ちゃんと目的がしっかりしてるんですね(笑)

そうっすね(笑)「食べに行きたい!」みたいなのをやりたくて、めちゃくちゃ研究してたんですよ。まあ、もともとカレー好きだし、バターチキンカレーがすごく好きで。

おいしいですよね!!

基本、ナンの方が合うじゃないですか。でも、ご飯大好きだから、ご飯に合うバターチキンカレー作れたら、女の子も絶対好きになると思って。

そこから、どうやってカレーを開発、っていうと仰々しいけど、レシピを考えたかっていう話をしていったっていう。

その時、ものづくり系の会社だったら、どう計画したかとか、どう評価したかっていうのを「あ、こいつちゃんと計画して実感できて評価できる奴なんだ」っていうのを暗にわかってもらうっていうのをやってましたね。そういう趣味の話を使って。

試行錯誤の跡がうかがえる休日課長さんのカレーのレシピ

工夫をアピールするという…

そうです。カレーって作るときに最後にスパイスを入れるんですけど、そのスパイスの分量を考えるためにその前のやつをたくさん作っといて、スパイスを入れる前の工程のスープを作っといて、それを全部小分けにして。

すごい…

「スパイスの配合の違いを全部表にまとめてチェックしてました」みたいな話をすると、「あ、こいつ、ものづくり向いてるな」って話になるじゃないですか。

大学での研究の話って、プロフェッショナルな人たちにしてもアピールしきれないので。

限られた時間の中で、どうやったら自分のストロングポイントをアピールできるかなって考えたら、趣味の話でできたらおもしろいだろうし。

結構、独特ですもんね。カレー作りを話している就活生、聞いたことない…

いや、いないですよね。

僕はたまたまカレーだっただけで、別に何でもいいと思うんですよね。

実体験に基づいてるから、しっかり話せるというのもあるんですね。

だから、突っ込んだ質問をされても答えられるんですよね。実際、やってることだし、好きなことだから。

確かにそうですよね。

背伸びしてたなぁ

就職活動を経験したことによって自分の中の軸ができてきたというのがあるんですか?

それは絶対そうですね。最初は分野絞って就職活動してて、上手くいかないっすよね。

ある時、すごい優しい就活担当の方が何でダメだったのってのを説明してくれて、電話で「背伸びしちゃダメだよ」とか言ってくれて。それはすごいありがたいなーと。そこで結構気づけた感はあって。

逆に言うと、それまでは背伸びしちゃっていた?

背伸びしてたなぁ。専門知識言わなきゃとか、知ってます医療機器、みたいな感じを出そうとすごいしてたし。

部活でも、渉外っていう他の大学と交流する係だったんですけど、いろんな大学集めてライブやりました、どや!みたいな感じだったんだけど、別に成果自体に何の価値もないっていうか。

やったことじゃなくて、どう工夫して成し遂げたか、むしろ、そのプロセスをアピールすべきだった。

結果よりプロセス….

そうね。大学生で何を成し遂げたかとか、正直、関係ないじゃないですか!!むしろ、どう成果を出せる人間なのかが大切かなって。就活をやらなきゃ気づけなかったですね。

どうしても自分をよく見せなきゃという感じで…。ありのままを見せにくいと思うんですけど、どうしたら、自分を初対面の場でさらけ出せるんですか?

プライドを持たない、というか、例えば、失敗した話をひけらかすだけでも向こうはおもしろいと思うんですよね。

そこから何を学んだかとか、プライドを持たずにオープンにする。恥ずかしいことを全部話そうって感じに。

よく聞くのが、サークルの副幹事長が増えるみたいな。

あー、はいはい(笑)

自分のことを、ありのままに、正直に話すということが大事なんですか。

話したいレベルで、自分が話したいレベルでウソつかずに、ありのまま話せばいい。

悩んだ人生の岐路

課長さんは社会人をやめてバンド活動に専念した。その決断自体ってすごいなって思ったんですけど、バチっと決断したのか、それともいろいろ悩んでっていうのか?

いやー、悩みましたよ。メッチャ悩んだ。上司が言ってくれた言葉があって、「10年後、もし、バンドでものすごい人気があるバンドになっている、会社でもすごいいいポジションにいる。その時に決断をするとしたらってことを考えてほしい」と。

どっち行っても上手くいくっていう状況。その言葉が転機だったというか。自分の中で考えて、やっぱ音楽かもって思って。

でも、上司に報告したのがエイプリルフールだったんですよね。だから、最初は、「ほんとなの?」て言われて(笑)。

全力でやって、さっき言ったように、自分で考えて物事に当たっていけば、もし何か立ち行かなくなっても、何かしらまた別の何かは、つかめる人間になっていると思う。ダメになることはないと思うんすよね。

休日課長さんのよくある1日のスケジュール

自分の中で生きるニュースを

結構、普段からこういう、例えば、ニュースとか、Twitterとかで、やっぱり情報収集とか積極的にされているほうなのですか?

まあなんとなくザーッとこう、何だろう、Twitterのトレンドとか、Yahoo!ニュースとか見て。気になるものは深掘りしていくっていうか。まあ、でも普通の人が、やってることだと思う。

最近、気になったニュースはありますか?

あの、3Dプリンターで人工血管をやってる、確か、佐賀大学だったかな(※3)。この研究をやってるっていうニュースは結構、おもしろいなって思いましたね。3Dプリンターにすごい興味があって。

※3/佐賀大学らの研究チームが進めている研究で「バイオ3Dプリンター」を使って細胞だけで人工血管や臓器を作成する再生医療の研究。

それはものづくりの話にもつながるんですか?

そうですね、はい。

ベースづくりもできるのかなとか?

もう思っちゃいますよね(笑)。何なら弦とかも作れんのかなとか。だって、3Dプリンターって、素材を選ばないし、金型で作れない形も作れる。そのおもしろさはあるんで、興味あるワードというか。

やっぱり人との会話が楽しい

21時のタイミングで、レコードバーで人から情報収集しているのが驚きました。

はいはい(笑) やっぱり、詳しい人に聞くのがすごくいいんですよ。ネットって情報の海で。でも、僕の場合、バーですね。

人と話す方が、音楽も詳しい人から聞いた方が早いし。

やっぱり、ネット情報とかよりも誰かしらが絞った情報、何かポリシーがあってとか、自分の好きなものがあってとか、そうやってまとめた情報ってすごい使えるんですよね。

課長さん流の情報収集のコツっていうのはアナログなんでしょうか?

アナログも使う。人との会話がきっかけで、そこからネットの情報を使うこともあるし。手段は選ばないかな。でも、僕はだいたい21時にレコードバーに行くね。

ネットとかで情報が入手できる時代の中で、人と接することで情報を得るということを大事にしているということですか?

そうですね。その逆もあって情報を入れてるから、人とも話せる、というのもある。

だから、情報って何だろう、コミュニケーションツールでもあると思ってるんで。

コミュニケーションツールですか?

詳しい人はおもしろいから話したくなるし。相乗効果でどんどんまた情報を仕入れてみたいな。

新しいものを作るっていうのはやっぱりコミュニケーションから始まるので、そのエンジンになるのが情報なんじゃないかなと。

今の仕事は楽しいですか?

楽しいですね。今、やっぱベースを弾くっていうことも工夫の連続なんですね。どうやって弾けば、自分の好みの音になるかっていうのとか、それは工夫なんで。

ものづくりって、もちろん、工夫の連続なんですけど、別にそれってものを作るメーカーじゃなくても工夫することっていっぱいあると思うし、工夫自体を楽しめれば、どんな仕事でも楽しめるというか。

今の仕事にやりがいは感じていますか?

人といっぱい関わるという魅力にあふれていますし、楽しいっすね。

でも別に、どんな仕事でもいいと思うんですけど、やりがいがあって、やりがいってのは自分で見つけてく。

なるほど。

別に、ただ音楽が好きでやっているわけじゃなくて、常に新しいもの、古いものを取り入れて、いろいろインプットすると新しい景色が見られるんで。

そういうところからまたやりがいができていく。そういう意味では、やっぱり今自分がやってることはあってるんだなって思います。

さまざまな質問を受け止めて丁寧に回答してくれました。ありがとうございました。

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