目指せ!時事問題マスター

1からわかる!核のゴミ(3)どうなる!?最終処分場

2021年03月25日
(聞き手:伊藤七海 田嶋あいか)

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原発から出る「核のゴミ」。その量は国内でも年々増加していますが、まだ最終的にどこで処分するかが決まっていません。一体どこに捨てるの?最終処分場の選定をめぐる議論のこれまでと今後を、水野解説委員に聞きました。

 

どうやって決めるの?

学生
田嶋

「核のゴミ」の最終処分場をつくる場所ってどうやって決めるんですか?国が「あなたの県につくってください」みたいな感じでお願いするんですか?

核のゴミ

原子力発電所で使い終わった核燃料から出る高レベル放射性廃棄物のこと。日本では、さらにここから再利用できるプルトニウムなどを取り出し、残った廃液をステンレス製の容器に流し込んで固めたもの(ガラス固化体)のことを指す。

一義的には「核のゴミ」を出した電力事業者が場所の選定を含めてやるべきだということで、10社の電力会社がお金を出し合い、国の認可を受けて最終処分の事業を担う「NUMO」という組織を2000年につくったんです。

水野
解説委員

それで、全国の自治体から候補地として手を挙げてもらうのを待っていたのですが、なかなかうまくいかなかくて。

水野解説委員は初任地・青森で核燃料サイクル施設の建設をめぐる取材に携わったことをきっかけに、東海村の臨界事故や福島第一原発の事故など、これまで通算20年以上にわたり原子力を専門に取材。

とはいえ、2007年に高知県の東洋町というところが手を挙げたことはあったんです。

ただ、当時の町長が町議会に相談をせず、話を進めていたがために住民からの反発が広がり、その是非を問う出直し町長選挙が行われる事態にまで発展しました。

その結果、受け入れ反対派の対立候補が選挙に勝ち、町は応募を取り下げることになりました。

学生
伊藤

そうだったんですね。

結局、自治体や電力業界だけに任せているとなかなか進まないなっていうことで、特に福島の事故の後は、国からも積極的に声をかけて候補地選びを進めていくことになりました。

その一環として、4年前に公表されたのが「核のゴミ」の処分地となりうる可能性がある地域を示したマップです。

経済産業省のホームページより

日本でも、細かく見れば処分に適した場所があるということを示すために作られました。

地震を引き起こす活断層や火山の場所、有用な地下資源がある場所を地図に落とし、それ以外のところが緑色で示されています。

日本の3分の2が「可能性がある地域に」該当。さらに、このうち900の自治体が、核のゴミを運搬するのに適した「より可能性が高い地域」に該当しています。

東京では、地下にガス田が広がっていることから候補地から除外された地域もありますが、世田谷区など23区の西側は濃い緑、候補地となりうる可能性が高い地域に区分されています。

知りませんでした!

オンラインで取材しました。

ついに手が挙がった!

その後、手を挙げた自治体が、去年、NUMOの調査を受け入れた北海道の寿都町と神恵内村です。

国からすれば、良い話だと思うのですが、2つの自治体にとってのメリットってあるんですか?

実は、第1段階の文献調査に応募するだけで最大20億円の交付金が出ます。

そんなに!?

どちらの自治体も人口減少や産業の衰退でこのままいくと、将来大幅な財政不足に陥ることが目に見えています。

寿都町の中心部

そんな中、政府との話し合いで調査を受け入れたら20億円が出るという話を聞き、「それは魅力的だな」と。

いずれはどこかが処分場の建設を引き受けなければならない中、「自分たちが手を挙げて処分場の問題に一石を投じよう」と。それで交付金がもらえるなんて、そんな良い話はないじゃないかということで、調査を受け入れたんです。

「処分場をつくるんですか」と聞くと「いや、そこまでは考えていない」という言い方をしていますけど。

調査だけで20年

実際に、建設しようとなった場合はどのくらい時間がかかるものなのでしょうか。

いまやっている文献調査は2年かけてやるそうです。

次に、実際の地質などを調べるボーリング調査があります。これは4年ぐらいかけてやります。

そして、今年初めには現地事務所をつくって地元との対話集会もやりますと。

何のためにですか?

もちろん、安全性についての説明もしますが、「次の調査を受け入れれば、70億円出ます」「最終処分場を建設すれば固定資産税が入ります」「雇用を創出し、地域経済にも貢献します」というような説明もします。

その後、地下に調査のためのトンネルを掘って岩盤などの特性を詳しく調べる。これが14年ぐらい。調査だけで20年かかるとされているんです。

仮に最後まで進んで、着工したとしても、処分場ができあがるのに10年程度かかります。

そして最終的にすべての核のゴミを埋め終わるまでには最初の応募から数えて100年以上かかる見通しです。

気の遠くなる話ですね。

NUMO側は逆に100年続く事業なんだという言い方もしています。処分場ができれば地元に雇用が産まれ、少なくとも100年は働く場ができますと。

長くかかることが、悪いというわけでもないと。

そう。

今後の行方はどうなりそうですか?

2段階目、3段階目の調査に進む場合には、町村長だけでなく北海道知事の意見も聞くことになっていて、反対した場合には実施されないことになっています。

いまの北海道の鈴木知事は反対を表明しているので、このままではなかなか先に進まないと見られます。

経済産業省を取材していると関心を示している自治体は他にもあると話しているので、寿都町、神恵内村に限らず、他の自治体も手を挙げるところが出てくるかもしれません。

いずれにせよ、当然、問題になってくるのは安全性の問題です。NUMOが地域住民から信頼される組織となり、住民を納得させられる説明ができるのかというのがポイントです。

それができなければ、処分場のメドが立たない状態が続くと思われます。

なるほど。

福島第一原発の事故があってから、原発に対して、それから電力会社や国に対する信頼というのはまだ地に落ちたままだと思うんです。

そういう状況の中で「安全です」「信頼してください」と言っても、それはなかなか前に進まない。

こういった最終処分場の問題と同時に、原子力政策全体に対する信頼性を回復する努力を国や電力会社、NUMOは進めていかなければならないと思います。

最後に私たち世代がこの問題とどう向き合っていくべきかを教えてください。

先ほど、仮に場所が決まったとしても、100年はかかる事業だという話をしました。

原発をつくった世代が解決できずに残した負の遺産みたいなものを引き継いでくれというのは大変申し訳ないことだと思います。

でも、最終処分場の場所が決まらず、核のゴミがたまる一方になってしまっては安全上も問題です。

我々の世代で完結しないのは明らかなので、どういうところにどんな課題があって、それをどう解決すればいいのかというところについて、ぜひ、若い世代のみなさんにも関心を持ってもらいたいと思います。

編集:小浜 一哲

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