目指せ!時事問題マスター

1からわかる!核のゴミ(2)どうやって処分するの?

2021年03月19日
(聞き手:伊藤七海 田嶋 あいか)

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原子力発電所で使い終わった核燃料から出る「核のゴミ」。その最終的な処分に向けた検討が各国で進められています。どこで、どうやって処分するの?ヨーロッパ各国の実情を現地で取材してきた水野解説委員に聞きました。

どこに処分?

学生
田嶋

「核のゴミ」はどのように処分されるのでしょうか。

核のゴミ
原子力発電所で使い終わった核燃料から出る高レベル放射性廃棄物のこと。日本では、さらにここから再利用できるプルトニウムなどを取り出し、残った廃液をステンレス製の容器に流し込んで固めたもの(ガラス固化体)のことを指す。

核のゴミは非常に強い放射線を出すので絶対に人が行けないようなところに処分しないといけません。そこで各国は、地下深くに埋めるという方法で処分しようとしています。

水野
解説委員

具体的には300メートルよりも深い位置にある岩盤の中に閉じ込めてしまうというものです。

そうすれば、なかなか人も容易に近づけないし、仮に放射性物質が漏れたとしても地上に上がってくるまでには相当な時間がかかるのでこの方法にしましょう、というのが世界の共通認識です。

学生
伊藤

他に方法はないんですか?

以前は、宇宙に持っていこうとか、海底に埋めようとか、あるいは南極の氷の下に埋めてみようなど、さまざまな方法が検討されました。

水野解説委員は初任地・青森で核燃料サイクル施設の建設をめぐる取材に携わったことをきっかけに、東海村の臨界事故や福島第一原発の事故など、これまで通算20年以上にわたり原子力を専門に取材。最終処分場の問題をめぐり、フィンランド・スウェーデン・フランス・ドイツの現場を取材した経験も。

でも、宇宙にもっていく場合、もし、ロケットの打ち上げに失敗したら放射性物質を地上にまき散らしてしまうことになるので、それはできないねと。

海底や南極は、核に限らず、廃棄物を処分しないようにしようという国際条約がある。

そうなると、地下深くに埋めるしかないということで、今、各国は自分の国の地下に埋めて処分しようと考えているのです。

消去法で地下に埋める方法が選ばれたんですね。

オンラインで取材しました。

各国の状況は?

原発を保有する国は日本だけではないと思うんですけど、海外ではどこまで「核のゴミ」の処分が進んでいるんですか?

処分が始まっている国はどこもありません。その中で、世界で唯一、処分場の建設を始めている国がフィンランド。

その隣のスウェーデンでは、建設する場所がもう決まっています。そして正確な場所は決まっていませんが、建設する自治体までは決まっているのがフランスです。

この3か国以外は、どこの場所に埋めるのかを決めるのに苦労している状況です。

各国とも苦労しているんですね。

当然、反対意見がまったくでないという国は1つもありません。フィンランドとスウェーデン、北欧の2つの国も例外ではありませんでした。

フィンランドで建設中の最終処分場 地下約420メートル付近(2017年撮影)

2016年に建設が開始されたフィンランドですが、本格的な処分場探しは40年近く前から始められました。

反対もあり、今の処分地が決まるまでにはさまざまな紆余曲折があり、20年かけてようやくという感じでした。

反対運動もありながら、どうしてフィンランドでは核のゴミを埋める場所を決めることができたのですか?

大前提としてあるのは、原発の運転と「核のゴミ」の処分がセットだという考え方が原発を建設した当初からあったということです。

そして、北欧諸国の取材を通じて感じた共通点が3つあります。

まずは、20億年前にできた非常に強固な地盤があるということ。

フィンランドでは、最終処分を行う実施機関が100か所ほどの場所で地質調査をして、一番、岩盤的にも強固な場所の自治体に処分場の受け入れをお願いしました。

スウェーデンの処分地も強固で安定した岩盤です。

そして地下を掘って地元の人を招き「見てのとおり水もほとんどないし、大きな地震もなく、20億年前から動いてない」という説明をして、理解を得て、受け入れが決まりました。

2つ目は、北欧では最終処分を行う実施機関や政府、電力会社に対する技術力やそれに対する住民の信頼性が非常に高いということです。

日本の場合、最終処分を担う実施機関の社員の半分は電力会社からの出向です。

でも、フィンランドやスウェーデンでは社員のほぼすべてが、大学で地質学を学んできた人など、専門性の高いプロパーで占められています。

自分たちの施設ももって研究しているので非常にプロ意識が高いんです。

なので「“この人たちがやるんであれば、任せてみようか”みたいな感覚が生まれて最終的には受け入れました」という説明を地元の人たちからよく聞きましたね。

なるほど。

3つ目が原子力政策への信頼の高さです。

日本だと福島で大きな事故を起こしているんで信頼ってないんですけど、フィンランドの原発では過去に大きい事故やトラブルがなかったので、ある程度、電力会社や政府、原子力規制機関への信頼が高いんだと感じました。

このようなことが北欧で最終処分場が決まった要因になっていると考えています。

逆に、処分場の選定がうまく進んでいない国もあるんですか?

ドイツ政府は40年前から北西部にあるゴアレーベンという場所を処分場にしようと研究を進めてきましたが、2013年に白紙に戻して再検討することになりました。

どうしてですか?

ゴアレーベンの地層は、昔、海だったところが隆起して水が失われ、塩だけが残った岩塩層です。

もし、水があると、その流れに乗って放射性物質が地上に移動して来る懸念があるのですが、ドイツ政府はそのような心配はないとしていました。

最終処分場の候補地だった施設(ドイツ・ゴアレーベン・2013年撮影)

ところが、低レベルの放射性廃棄物を埋めていた別の場所の岩塩層に、地下水が入り込んでいるというのが分かったんです。

それが地表まで出てくるかもしれないという問題が持ち上がり「“岩塩層は安全だ”って言っていたのは嘘だったのか」という感じでものすごい反対運動が盛り上がりました。

その結果、候補地の選定は1から出直しとなりました。

なるほど。

あとはアメリカでも、広大な土地があるので捨てる場所いっぱいあるように思えるんだけど、同じように候補地を絞っていく中、地元で大きな反対運動が起きました。

政権が交代するとガラっと政策が変わるので、最初からやり直しみたいな状況になっています。候補地が全く決まっていない日本と比べれば進んではいますけど。

やはり、一筋縄ではいかない課題なのですね

日本はどうなっているの?

日本はどういう状況になっているんでしょうか。

原発で使い終わった燃料から再利用できるプルトニウムやウランを取り出し、その後、残った廃液をガラスに混ぜてステンレス製の容器に流し込んで固めます。

これを地下300メートルよりも深い場所に埋めて処分する計画です。

処分場のイメージ図

イメージ的には、総延長200キロ程度、大体、東京の地下鉄の総延長と同じくらいの坑道をどこかに掘ることになります。

日本にそんなに地下深くに埋められる場所ってあるのですか?

日本でも探せばそういう場所はあると、政府は言っていますが、一番問題になるのは安全性です。

地下300メートルであれば放射性物質は地上まで上がってこないという感じもしますが、やっぱり日本の場合は、地震も多いし、火山もいっぱいあります。

地球全体で比べると、日本列島ができたのはわりと最近。ヨーロッパなんかは何十億年も前にできたんですけど、日本列島が今のような形になったのは、1000万年~1500万年ぐらい前なんです。

核のゴミは10万年という想像ができないぐらい長い期間、人の暮らしから隔離されなければなりません。

 

このため「本当に安全性を保てるの?」という国民の疑問にきちんとデータを示して答えることができるのか、というのが処分場の選定を進めていくうえでの今後の焦点になってくると思います。

次回は日本における最終処分場をめぐる議論について詳しくみていきます。

「1からわかる!核のゴミ(3)どうなる最終処分場!?」はこちらから。

 

編集:小浜 一哲

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