2020年11月20日
(聞き手:勝島杏奈 佐々木快)
新型コロナウイルスの影響もあって、最近よく耳にする「副業」。なぜ今こんなに注目を集めているの?これから広がっていくの?気になるギモンを1から聞きました。
「1からわかる!副業(1)なぜ今、副業?」は、こちらからから。
前回のお話で、政府が働き方改革で2018年に副業推進に舵を切ったのに、副業を認める企業はあまり増えなかったと聞きました。
なぜ企業は副業の解禁に及び腰だったのでしょうか。
理由は主に4つあります。
1つは、従業員が働きすぎて、本業に支障をきたす懸念があること。
たしかに…ほかは何ですか?
竹田忠解説委員は経済、雇用、社会保障が専門。経済部記者時代には通産省(当時)や大手商社を担当。日本だけでなく、世界10か国以上の雇用現場を取材した経験も。
2つめは、自分たちの企業の貴重な情報が、副業先に漏えいするリスクがあること。
3つめに、情報だけでなく、人材も流出するおそれがあること。副業先のほうがいい仕事ができれば、転職してしまうこともありうるよね。
そうですよね。
そして4つめ、最大の課題は、従業員の労働時間の管理で、副業を認めると従業員の労働時間の管理が難しくなる。時間外労働、つまり残業の規制が厳しくなっているんです。
えっ、そうなんですか?
従業員の健康を守るために法律が改正されて、「絶対にこれ以上働かせてはいけない」という残業の条件規制が新たに作られた。政府の働き方改革の最大の成果ともいわれます。
残業規制はかなり複雑。でもザックリ言うと…
(1)ひと月で残業できるのは最大100時間未満(つまり99時間59分)まで。でも残業月100時間というのはいわゆる過労死ライン。こんな労働が続かないように
(2)複数月平均、つまり前後の月との平均では、80時間が限度。じゃあ、毎月80時間の残業ができるのか、というとそれもダメ!
(3)年間の残業上限は720時間。つまり単純に平均すれば、毎月60時間でいっぱいになる。
※労働者に残業させるには、36協定の締結と、労働基準監督署への届け出が必要。
では、副業している人はどうなるか?労働基準法では、複数の勤め先で働いている場合労働時間を通算することになっています。
通算なんですね。となると上限をオーバーする可能性も出てきますね。
そう、しかもこの上限規制では、上限を超えた場合、企業に罰則が科されることもあるんです。
罰則!?そうなると、本業の会社としては怖くて簡単には副業を認められないですよね…
そう、なので、いくら政府が「副業推進しますよ」と言っても、なかなか副業は広がらなかったんです。
何か打開策はあったんですか?
本業、副業それぞれの企業が、ちゃんと他社での労働時間を把握して、残業の上限規制を超えないように管理するルールが必要だよね、ということで、2020年9月に新たなガイドラインが導入されました。
管理するって、どうやってですか?
例えば、本業の会社で月30時間残業をするAさんがいる。
残業の上限規制、複数月平均80時間で考えると、Aさんが副業で残業できる時間は月50時間までとなるわけです。
Aさんのように副業したい人は、こうした時間配分を本業の会社と相談して決めて、副業先にも事前に伝えておきましょうと。
事前に決めておけば、上限を超えるような残業は防げそうですね。
でもまだ厳しい問題が残っていて…残業代、割増賃金の話です。
さきほどのAさんの例、本業での30時間の残業はもちろんですが、副業で働く50時間はすべて残業扱いになる。
労働基準法では、残業には25%以上の割増賃金を払わないといけないと決められていて。
25%って結構大きいですよね。
それに深夜割増などが入ると、さらに上乗せされていく。
副業先からすると、「ウチでは30時間しか働いてもらってないのに、それに全部、割増が必要なの?じゃあ、別の人を雇うよ」ということにもなりかねない。
雇ってもらえなくなりますね。
そう。残業の問題というのは、労働時間の管理と割増賃金、この2つをセットで考えないといけないんですよ。
ここで1つおさえておきたいのが、どんな人が副業をしているかということ。
このグラフを見てください。右にいくほど、収入が高いということになるんだけど…
副業をしているのは、所得が低い人か、所得が高い人ということですか?
そのとおり。右端は年収1500万円以上、コンサルタントとかウェブデザイナーとか、そういう人たちだよね。
一方、左側で多いのが、だいたい年収200万円以下の人たち。
生活のために副業をせざるをえない人たちとみられてるんだけど、こうした人たちが副業先から「割増賃金が必要なら別の人を雇います」と言われたら、生活に困ってしまうわけだよね。
それはつらいですね…
実は政府の審議会などでは、一時、残業時間の通算ルールを見直して、それぞれの企業で個別に管理すればいいのでは、という議論もあった。
その背景には、時間管理の問題だけでなく、この割増賃金のこともあったんです。
でも、政府の結論としては、労働基準法は、命と健康を守るのが最低限の使命なんだから、やっぱり通算ルールは変えないよと。
じゃあ、この割増賃金の問題は、どう考えればいいのか?そこで大きな意味を持ってくるのが、「自己申告制度」なんです。
自己申告というのは、本業先や副業先に、自分がもう一方でどれだけ働いているかを伝えるということですか?
その通り。重要なのは、その自己申告について、申告漏れや、虚偽の内容があっても、企業は責任を負わない、ということにしたことです。こうすれば、企業は副業を認めやすくなる。
それって本人まかせ、ということですか?「正直に申告すると、割増賃金が必要になって、雇ってもらえないかも」と思う人は、だまっててもいいよと。
その場合、企業は本当は法律上問題かもしれないけど、本人が正直に言ってない以上は、責任は負わなくてもいいですよと。
結局、働き過ぎになってしまうのでは?「命と健康を守る」と言っていたのに、矛盾があるような…
本当にその通りだよね。せっかくみんなでルールを作ったのに…
でもね、実は、このルールを知らない人がまだ多い。政府も、経済界も、労働組合も、まずはこのルールをもっとみんなに知ってもらうよう努力が必要ですね。
ところで、今まで話していたルールが適用されるのは、雇用契約を結んで働いている人の場合で、個人としてフリーランスで副業をする場合には対象にならないんです。
例えば、ウーバーイーツの配達員などです。
え?そうなんですか?
新型コロナの影響もあって、最近副業フリーランスが増えていると言われていて、こうした人たちの働き過ぎを防止する仕組みも今後必要になってくると思います。
いろいろな課題も残っていると思うんですが、私たちが今後、副業を始めるなら…と考えたとき、改めて、働き手にとっての副業のメリットとデメリットを知りたいです。
働き手のメリットとしては、収入を補えるというのが1つだよね。それから自分のキャリアの開発にもつながる。
キャリアの開発?
日本では、どんな仕事をするかは会社任せのことが多い。
本当は自分のやりたい仕事があるのに、なかなかその部署に異動させてもらえない、ということもよくあります。
本業でやりたい仕事ができないなら、副業でとりあえず挑戦してみる。
うまくいけば、本業で働きながら、将来のキャリアップに向けた準備ができるんですよ。
一方で、デメリットは先ほど話した働きすぎや健康への影響ですね。
メリットばかりではないんですね…。副業はどんな業種が多いんですか。
件数が多いのは、クラウドソーシングで「マイクロタスク」などと呼ばれる仕事です。
データ入力などの仕事を、まるでみじん切りにように細かく分けて、1単位数円とかで一度に大量の人に発注して短時間で仕事をあげさせる。
そこで欲しいのは人材ではなく人手。働き手としては単純な仕事だから請け負いやすい。
お金が欲しいと割り切ってやるならいいんだけど、自分のキャリア開発につながるかどうか、副業の目的は何かということを自覚して始める必要があると思います。
なるほど。副業を始めるときには具体的にどんな手続きが必要になりますか?
まず、必ずやらなくてはいけないのが、会社の就業規則で副業を認めているかを確認すること。
だいたい、厚生労働省のモデル就業規則にあるようなことが書かれているはずなので、こうしたことをチェックする。
そのうえで、本業で働いている会社に、副業をすることを届け出る。
もしフリーランスとしてではなく、副業先とも雇用契約を結ぶのであれば、労働時間を通算するルールが適用されます。
残業の上限規制を超えないように労働時間を配分して、本業、副業でそれぞれどれくらい働くのかを本業先、副業先にも伝えます。
とはいえ雇用関係を結ぶ副業は、最初はハードルが高いと思います。まずは、フリーランスでやってみるというのもいいし、NPOなどで短期の仕事を探して挑戦してみる、というのもいいかもしれない。
NPO…どんなことをするんですか?
「内閣府NPO」とインターネットで調べると、東日本大震災の復興支援や子どもたちの学習サポートなどさまざまなものがでてきます。
もちろん激減した収入を補いたい時は、NPOというわけにはいかないかもしれないけど、社会課題の解決につながるような副業にも、ぜひ挑戦してもらいたいと思います。
副業の目的も重要ということですね。