2020年06月11日
(聞き手:伊藤七海 井山大我 西澤沙奈)
温暖化を防ぐカギになると期待される「再生可能エネルギー」。しかし、導入を進めるうえで課題もあるみたい・・・。温室効果ガスの排出ゼロに向け、企業、そして私たちはどう取り組んでいけばよいのか。環境問題などを担当する土屋敏之解説委員に1から聞きました。(新型コロナウイルスの感染拡大前に取材しました)
温暖化を防ぐにはどうすればいいんですか?原発も石炭火力発電所もダメとなると、その代わりになるものはあるんですか?
再生可能エネルギーに置き換えるという方法はあります。太陽光、風力、地熱、波力、バイオマスなどのことです。バイオマスというのは木材など植物由来の燃料です。
温暖化対策の動き
日本では原発事故以降、石炭火力発電が増加。パリ協定の短期目標では「2030年度までに温室効果ガスの排出量を26%削減する」としているが、“石炭火力発電をやめて脱炭素に向かうよう”求める国際社会からは「不十分」との指摘も。
日本は再生可能エネルギーとどう向き合っているのですか?
力を入れ始めているのは間違いないです。FIT制度=固定価格買取制度というのを聞いたことはありますか?
何となくは…。
固定価格買取制度
太陽光、風力、水力、地熱、
この制度を続けていくことでさらに再生可能エネルギーを増やせるんだけど、大きく2つの問題が指摘されています。みなさん1人暮らし?
私は1人暮らしです。
電気代の領収書見てる?
見てます。
領収書に「再生エネルギー賦課金」って書かれた数字を見たことある?
そこまでは見てない…。
実は書かれています(笑)平均的な世帯で月に800円くらい「再エネ賦課金」を負担しています。だから年間1万円くらいだね。
結構な額を払ってますね…。そのお金は何に使われているんですか?
電力会社は再生可能エネルギーを買うことを義務付けられていると説明しましたよね。
はい。
つまり買い取る際の費用を「再エネ賦課金」として利用者に負担してもらっているというわけです。
そうなんですか!
そして、再生可能エネルギーの導入量が増えるにしたがって電力会社が買い取る量も増えるので「再エネ賦課金」も高くなります。
えー!
そして、もう1つが再生可能エネルギーによる発電は不安定だということ。
不安定?
太陽が陰ったら太陽光発電はできないし、風が止めば風力発電はできない。計画的に必要な分だけ発電することができないんです。この2つが大きな課題です。
では、どんな社会が実現すれば温暖化は止められるのでしょうか?
1つの形としてありうるのはこんな感じでしょうか。
それぞれの世帯に太陽光発電など再生可能エネルギーで発電する装置をつけて、電気自動車などのエコカーのバッテリーに電気を蓄える。
そして必要な時にバッテリーから電気を供給するという仕組みが普及すれば脱炭素社会は可能だと思います。
技術的には可能なんですか?
いまでもある程度可能になってきています。実際には家庭用の太陽光パネルの発電量は一般家庭の年間電力消費量の7割くらいだから、完全に賄うには少し足りないんだけど、年々家電も省エネ化が進んでいるのでそれで吸収できる範囲。
だから一軒家であれば家庭レベルでの脱炭素化って意外とできるんじゃないかなと思います。
民間企業って温暖化対策にどこまで真剣に取り組んでいるんですか?
再生可能エネルギーを新たな産業にしている企業が増えてきています。ほかにも、企業が使う電力の100%を再生可能エネルギーにするということを宣言している「RE100」という国際的なグループもあります。
具体的にはどんなことをしているんですか?
日本の場合、すべて再生可能エネルギーで発電するのは難しいんですが、再生可能エネルギーで発電している電力会社から優先的に電力を買ったり、自分の会社の敷地などに太陽光パネルを置いたりしています。
あとは企業でいうと、保険や金融の業界ですね。
温暖化対策とは縁遠いような気がしますが…
中でも温暖化対策に積極的なのが再保険業界です。再保険というのは「保険会社の保険」。保険会社は、災害などが相次いで保険金を支払えなくなるときに備えて再保険を掛けています。
この業界は30年ぐらい前から温暖化対策を進めないと災害が相次いで損害保険が成り立たなくなると主張しています。
そのため、温暖化対策にお金を支援したり、温暖化対策に積極的な企業に保険料を優遇したりしています。
なるほど。
あと銀行。「温暖化対策に積極的な企業に銀行が支援しましょう」という新たな枠組みが国連の主導で去年つくられました。
温暖化対策が長期的にみれば自分たちの利益になると考える企業が増えているんですね。
そう。そして、温暖化対策を積極的に行っている巨大企業が取引の条件として温暖化対策を求めるようになってきています。
だから温暖化対策をやっていないと世界の取引の中からはじかれてしまう危険も出てきているんです。
企業が生き残るために温暖化対策をしないといけないわけですね。
さらに、投資家の間では「ESG投資」という手法が広がってきている。
単に「もうかっているか、いないか」だけで投資先を決めるのではなく、環境問題などに前向きに取り組んでいるかといった観点から投資先を決める手法です。
ESG投資
ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。日本でも投資総額が増えてきている。
詳しくはこちらをご覧ください→1からわかる!「ESG」
投資を呼び込むために、企業は環境対策などをしないといけないわけですね。
そう。一方で、石炭産業については温暖化対策の機運が高まれば衰退する可能性があるとして資金を引き揚げる動きが増えてきている。
なるほど。
だから、学生が就職活動をするうえで、温暖化対策をちゃんとやっている企業かどうかはチェックしておいた方がいい。それが企業の今後の成長にも関わってくるからです。
そうですね。
欧米だとすでに温暖化対策をしていない企業に良い人材が集まらなくなってきているという動きもあります。
私たちが就職先を選ぶときに温暖化対策を意識できれば、社会が変わるきっかけになるかもしれないですね。
私たちがいますぐできる温暖化対策って何がありますか?
最近よく言われているのが宅配便です。
宅配便?
いまネット通販が盛んで宅配便をものすごく使うでしょ。
そうですね。
だから荷物を再配達してもらうケースが多くなっていますよね。
1人暮らしなので再配達すごく多いです…。
実は国土交通省の試算によると、再配達のせいで年間40万トン以上のCO2を排出している。40万トンというのは杉の木1億7000万本の吸収量に匹敵します。
えー!そんなに!
だからなるべく在宅している時間を指定したり、マンションの宅配ボックスや駅などに設置された宅配ロッカーを利用したりして1回で受け取る方がいいんです。
ネット通販大手や宅配大手の間で、ネット通販で購入した商品を受け取れる「宅配ロッカー」を駅や公共施設などに設置する動きが出てきている。
このほかにも、もちろん公共交通機関を使うとか節電をすることも大切です。
そういえば、節電への意識ってなくなっているような気がします…。
そうですね。皆さん東日本大震災の直後、計画停電って経験しました?
しました。
計画停電
節電しても、電力の需要が供給を上回って大規模停電のおそれがある場合に実施。東日本大震災の3日後から、東京電力の管内で計10日間にわたり行われた。
私も計画停電のエリアに住んでいました。あの頃って節電に対する意識がすごく高まりましたよね。
そうですね。
あの時の反動で、日本でいま節電があまり言われなくなっているというところがありますね。
ただ、個人ができることというのは国や産業界に比べると限られている。例えば、私たちのほとんどが電気自動車を使うようになっても、その電気を石炭でつくっていたらCO2の排出はゼロにならないですよね。
たしかに…
温暖化による被害が深刻化していくのは2050年とか2080年といわれています。あおりを受けるのは、いまの若い人やその子どもたちです。
生活の中で節電などできることをやったうえで、温暖化対策について国はどうすべきなのか、有権者として行動することが求められていると思います。
編集 水上貴裕