自由にどこへでも行っていいわけではありません。そういうツアーには必ず北朝鮮の案内人がつきます。なので、行くところは限られます。

ちなみにテレビなどでよく見るキム・イルソン(金日成)主席やキム・ジョンイル(金正日)総書記の銅像を撮影するときカメラを斜めに構えたり、銅像の前で同じようなポーズをとるとすごく怒られます。

「斜めに撮ったり、ポーズを真似するのは不敬だ!」というわけ。また、キム委員長の写真が載っている新聞も破って捨てたりすると拘束されます。

こういうことを知らないで外国人旅行者が拘束されるケースもあります。

少し説教されるけど、釈放されます。

そうですね、韓国料理。でも韓国と比べると味は薄く、あまりおいしく感じませんでした。

食材や調味料が韓国に比べて充実していないからね。でも、冷麺は北朝鮮のほうが非常に上品な感じでおいしかったですね。

北朝鮮は社会主義の国なので、食糧は配給制でした。しかし1990年代、洪水などの災害に見舞われ、深刻な食糧不足に陥り、配給もストップして何十万人と餓死しました。

子どもたちがぼろぼろの服を着て道端に横たわっていたり、ものもらいをしていたりと当時の悲惨な映像はたくさん残っています。

日本ではいまだにそのイメージが強いんだけど、2000年代に入ってから少し改善されたんです。

いや、配給が全くこなくなったので、みんなまずいと思って商売を始めたんです。

国内での闇市での商売や、外国との密貿易です。

ビジネスの才能のある人はどんどんお金を稼ぐようになった。一方、そういう才能が無い人は配給も止まったままなので貧しいまま。

そう。さらに今、賄賂がすごく横行していて、お金がある人は、役人に賄賂を渡して自分のビジネスをどんどん拡大する。賄賂を渡せない人との格差がものすごく広がっている。

首都のピョンヤンは建物も近代化していて、食料もあるし、タクシーも走っている。

だからピョンヤンだけ見ると「北朝鮮って結構発展している」と思ってしまう。

だけど、ちょっと地方に行くと電気は十分に通っていないし、家の窓ガラスが割れたままになっているのも珍しくないんです。

実は北朝鮮って国民に移動の自由がないんですよ。

「あすピョンヤンに旅行に行こう」とかも基本的にできなくて、許可が必要。ピョンヤンに人が集まるのを防ぐために移動の自由を制限しているんです。

そう。ピョンヤンは外国人に見せるための街でもあります。北朝鮮指導部としては「わが国はこんなに発展しています」と外国人にピョンヤンを見せたいんだよね。

だから、ピョンヤンは北朝鮮のショーウインドウなどと呼ばれていて、特殊なんです。

2001年に日本の大学生がつくるNGOが北朝鮮に入った際、同行取材しました。学生たちは電気が通ってない農場の育児施設の屋根に太陽光パネルをとりつけて、暖房器具や扇風機が使えるようにしました。

その時、カメラが回っていないところで農場の女性に話を聞くと「日本人にも親切な人がいますね!」と話してくれたので、カメラマンも呼んでインタビューしようと同じ女性にマイクを向けました。

すると、スッと表情が変わって「偉大なるキム・ジョンイル将軍様のおかげでこのようなものをいただき光栄です」と言い出した。

これまで北朝鮮の思想統制や恐怖政治の中でずっと生きてきて、うかつに本音を言って広がると後でどういう処分を受けるかわからないという思いがあるんですね。怖い国だなと思いましたね。

歴史の話をすると、昔日本に支配されていて、「自分のおじいさんは日本兵に傷つけられた」とか。そういう話をされるんだけど、それをずっと言ってくるわけではない。

むしろ、日本のことをよく知っていて、日本製品は好きですよ。

「日本のたばこが一番おいしい」という人もいたし、北朝鮮の人とご飯を食べに行ったら日本のビールを注文していたり。そんなに日本のことを嫌いじゃないみたい。

僕が行ったのは今みたいに経済制裁が厳しくなる前だけど、いくら貿易を禁止していても、ほかの国を経由して入るのは防ぎきれないんだよね。

中国と北朝鮮の国境を取材したことがあるけど、中国と北朝鮮の国境って基本的に川なんです。その川が冬になると凍っちゃう。

すると、凍った川の上を北朝鮮の人も中国の人もトコトコ歩いて自由に往来していました。そうやって密貿易をするから、物資が入るのを完全に防ぐのは難しいんです。

そうだね。

国内向けに放送しています。ただ、北朝鮮の国営テレビは人工衛星を使って電波を発信していて、日本でも電波を受信することができるから、日本のメディアはニュースなどで映像を使うことができるんだ。

9割は良いことしか放送しません。ただ昔に比べと変化してきている。最近では北朝鮮で台風の被害があったことは知ってる?(※取材日　9月10日)

北朝鮮のニュースでも、台風で何人死んだとか、どのくらい被害が出たとか、悪いニュースでも正直に伝えるようになっている。

外国のメディアが放送を見ているということがわかってきたというのが1つ。支援を依頼するには、被害も見せた方がいいだろうという打算があると思う。

もう1つは、国民が昔と違って外の世界を知るようになってしまったので、うそばかりついてもダメだということがわかってきたのだと思う。

韓国の映画やドラマ、音楽のデータが入ったUSBメモリが、中国から密貿易で入ってくるんです。北朝鮮ではパソコンがある程度は普及しているので、「韓国はおしゃれだなぁ」とか言って、ひそかに楽しんでいる。

通じますよ。

まったく同じじゃない。簡単に言うと、韓国のほうが言葉がやわらかくなり、北朝鮮は昔の言葉をそのまま残している感じ。

例えば、「李」さんっているよね。韓国では「イ」と発音するんだけど、北朝鮮は「リ」と発音します。

また、韓国人が北朝鮮のニュースを見ると「すごく角ばった言葉だな」と言うし、北朝鮮の人が韓国のドラマを見ると「男なのに女々しいしゃべり方だな」と言う。

思うんだって(笑)あと北朝鮮の人は外来語をそのまま使わず、自分たちの言葉に置き換える。例えば、「データベース」という言葉。これもそのまま「資料基地」という言葉に置き換えちゃう。

だから、私も北朝鮮の人と話していて最初分からない単語や言い回しが少なくなく、戸惑いました。

映画がよく見られていますね。北朝鮮の体制を褒め称えるプロパガンダ映画が大半ですが、キム委員長の父親のキム・ジョンイル総書記は映画好きで、みずから怪獣映画をつくったりもしていました。あと、テレビでは子供向けのアニメも流していますね。

さらに今のキム委員長になってからは、遊園地や水族館などの娯楽施設を一生懸命つくっています。

なぜかというと、北朝鮮国民がだんだん韓国や日本には豪華な遊園地があるということを知るようになってきたわけです。そうすると、国民は北朝鮮から逃げたくなるので、北朝鮮にも娯楽施設をつくっているわけ。

地方から許可を得て工場の慰安旅行で来た大人たちが、喜んで遊園地で無邪気に遊ぶ様子もみたことがありますよ。

ガールズグループみたいなのがいますね。

昔はそうだったんですが、今はミニスカートをはいて、歌ったり演奏したりするK-POP風のグループですね。

公式には国民が勝手に外国のテレビや映画を見ることは禁止されています。また、北朝鮮ではスマホもどんどん普及していますが、国外とは通じないようになっています。

外の世界と自由につながることを極端に警戒しているよね。

昔は食べ物がなくて中国に逃げる人が多かったんだけど、最近はK-POPを聞いて韓国にあこがれて逃げる人も結構いるからね。脱北にはかなり厳しい。

北朝鮮の外交官が外国に駐在するときに「子供を1人は北朝鮮に残していけ」と言われることが多いんだけど、なぜか分かる?

駐在している国で逃げないようにする、「人質」だよね。

そこまでしないと維持できない体制なんだったらもうやめちゃえばいいんじゃないかと思ったりもするんだけど、なかなか難しいですよね。

北朝鮮の体制を保証することで、南北の人の行き来の自由を拡大するなどして緩やかに交流を広げていくことも、1つの選択肢なのかもしれません。