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トランプ大統領を読み解く3つのキーワード~前編~

2019年03月01日
(聞き手:工藤 菜摘)

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アメリカのトランプ大統領。過激な発言をしたり、「フェイクニュース」と言ってメディアと戦ったり…。お騒がせなイメージが先行しますが、でもよくわからない…

結局トランプ大統領ってどういう人なの?どう見ればいいの?

日本はどう向き合っていけばいいの?

さまざまな疑問を、学生リポーターの工藤が、国際部でワシントン特派員などを歴任された髙橋祐介解説委員にぶつけてきました。

髙橋解説委員のオフィスにお邪魔すると、いたるところにアメリカグッズが・・・。
トランプ大統領ですか・・・?
歴代の大統領たちがこんなところに!

学生
工藤

アメリカに注目するきっかけはどんなことだったんですか?

学生のときに選挙のボランティアをしてね。1988年の大統領選挙の時、共和党大会にボランティアとして参加したことがあったんです。

髙橋
解説委員

全米から集まった出自も考えも違うひとりひとりの政治的な意思が、やがて大きなうねりとなって大統領を選び、その大統領が世界を変えて歴史を作っていく。アメリカというのはすごい国だなと、このとき思ったんです。

この写真は髙橋さんですか?

そうです。アメリカの大統領図書館(歴代大統領の資料などを保管・公開)で撮影したんですよ。ホワイトハウスの大統領執務室が再現されているんです。

なりきっていますね(笑)

記者になってからもアメリカを取材されてきたのですよね?

そうですね。ワシントン駐在時代はもちろん、世界のどこにいても常にアメリカという国の存在を強く意識し、その動きをつぶさに追ってきました。

そんな“アメリカウオッチャー” 髙橋さんにあげてもらった

「トランプ大統領を読み解く3つのキーワード」

それが…

1)「分断」

2)「再選」

3)「アメリカファースト」

「トランプ大統領を読み解く3つのキーワード」

1)「分断」

この「分断」は、どういうことを指しているのですか?

アメリカは今、あらゆる場面で大きく2つに割れてしまっている。

 

具体的には田舎のアメリカと都会のアメリカ。

 

保守的なアメリカとリベラル(自由主義)なアメリカ。

 

貧しいアメリカと金持ちのアメリカ。

 

白人のアメリカとマイノリティーのアメリカ。

マイノリティーというのはヒスパニック、黒人、アジア系などの人たちのことです。

 

いろいろな分断があって、その溝はどんどん大きくなっている。

そこから生まれてきたのがトランプ大統領です。 

◆ここで押さえておきたいポイント◆

アメリカは二大政党制・・・保守的な「共和党」リベラルな「民主党」

大統領はどちらかの政党から選ばれる。トランプ大統領は共和党。

さっきの大きな2つのグループで、「田舎」「保守的」「貧しい」「白人」は共和党支持者「都会」「リベラル」「金持ち」「マイノリティー」は民主党支持者に大きく分けられる。共和党支持者と民主党支持者では住む場所も違えば、使っている英語の質も違う。

そうなんですか。

どちらかというと共和党支持者の方が学歴は低く、民主党は、逆にインテリが多いと言われている。共和党は一次産業、工場労働者が中心で、民主党は都市のプロフェッショナル。

戦後長らく、真ん中よりちょっと右よりのセンターライトがアメリカの中心線と言われてきたんだけど、それがどんどん二極化して、溝が埋まらないところまできてしまった。

大きく2つに割れているのはわかりました。でもそれがなぜトランプ大統領誕生につながるのですか?

アメリカは「分断」によって、政党政治が行き詰まっちゃったんですね。

オバマ前大統領は分断されたアメリカをひとつにしたかった。言うことは立派だったんだけど、当時の野党である共和党が反発して、必要な予算が全然通らなかった。やりたいことはほとんど前に進まなかったんです。

そういう閉塞感もあって、支持が広がったということですか?

そうなんです。トランプ大統領は大金持ちの不動産王なので、もともとはとてもリベラルな人です。でも共和党から出たので、田舎のアメリカ、保守的なアメリカの人たちをあおって、「私は貧しい白人のみなさんの味方です。今のワシントンの政治ではダメなんです」と言って片方の主張で押しまくった。社会が分断で行きづまるなか、熱狂的な支持を集めたんです。

髙橋さんから見たトランプさんはどんな人ですか?

天才的に人の心をつかむのがうまい人だと思います。

そうなんですか。

どうやって人の心をつかむかなんだけど、彼は難しいことばを絶対使わないでしょ。

そうですね。ツイッターも私から見てもわかりやすい英語ですので。

そうなんです。徹底して物事を単純化する。普通の人が普通に使っている言葉で話す。あと、座談の才能がすごくあって、普段の演説では原稿を見ないで話すんです。

へえ~。

それは彼の才能であり、すごいところなんだけど、危険なところでもある。

危険?

オバマさんみたいに「アメリカをひとつにしましょう。共和党のアメリカも民主党のアメリカもありません」と理想を言って人を惹きつけるのではなく、トランプ大統領は、相手を憎むことで、相手を貶めることで、恐怖をあおることで人を惹きつける。

「アメリカは不法移民に乗っ取られてしまうぞ」とか、「民主党の言うことを聞いていたら、絶好調のアメリカ経済は奈落の底に落ちてしまうぞ」とネガティブなことを言って対立を煽る。いわば分断をあおって利用しているんです。アメリカ社会の分断はさらに深まると見られています。

過激なことを言って、いろんな人を怒らせているイメージですが、なぜ支持者が離れないのですか?

トランプ大統領の支持率は40%前後で、有権者の大体3分の1はコアなトランプ支持者と言われている。この人たちは何があってもトランプさんを支持するんです。

何があってもですか。

典型的な支持者が田舎に住む白人です。

工場労働者とかで所得もそんなに高くない。例えば中国から安い製品が入ってくると、工場がどんどん海外に移転して、仕事がなくなってしまう。

トランプさんは、そういう人たちのところに行って、「アメリカの雇用を奪い返します。自由貿易体制が良くないんだ。中国をおさえつけて、アメリカを守ります」と言って、熱狂的な支持を受ける。

うーん。確かにそう言われたら支持したくなるかもしれません。

よく暴言を吐いているイメージもあります。こんなこと言って大丈夫なのかな?みたいな。

そうだよね。人種のるつぼであるアメリカでは、これまでマイノリティーへの配慮から人種差別は絶対にいけませんということが徹底されていて、人種差別的な発言はタブーだったんです。でもトランプさんはそのタブーを破った。配慮など一切せず、平気で暴言を吐く。

そういうトランプさんに対して「よくぞ言った。よくぞおれが思っていたことを言ってくれた」と溜飲を下げる人たちもいるんですね。

今まで言えなかったこと、我慢していたことを言ってくれたと?

暴言を吐けば吐くほど強くなる。叩かれれば、叩かれるほど強くなる。

怒りや不満をスポンジみたいに吸収して、大きくなる大統領。

 

やっぱり前代未聞だよね。

でも嫌いな人も、いっぱいいるんですよね?

そりゃ嫌いな人もたくさんいるよ。共和党員の支持率は80%を超えている。でも民主党員の支持率は8%に満たない。逆に不支持率が90%。トランプさんは好きか嫌いかのどっちかなんですね。

好きの方をちゃんと確保しとけば安泰ということなんですね。

「トランプ大統領を読み解く3つのキーワード」

2)「再選」

まず、大統領再選の仕組みがいまいちわかっていないのですが、そこから教えていただけますか?

アメリカの大統領は任期が4年。最大2期まで、つまり最長8年できる。トランプさんは現在1期目だから、次の大統領選挙に勝つ、すなわち再選されれば2期目もできる。

二大政党の共和党と民主党がそれぞれ候補者を選んで、最終的にこの2人のどちらかが大統領に選ばれるんだけど、共和党の候補者は現職のトランプさん。対する民主党は、これから党内で候補者を選ぶ予備選挙をして、ここで選ばれた挑戦者Xとトランプさんが来年11月に大統領選挙を戦うことになる。

トランプさんを読み解くキーワードとして「再選」をあげたのはなぜですか?

彼の今の行動原理として、最も大きなものが「再選」だからです。すべての言動は再選のためにあるというか。

どういうことですか?

まずね、アメリカの政治はホワイトハウスだけでは動かない。アメリカ政治の2つの心臓、1つがホワイトハウス、もう1つがアメリカ議会。議会には上院と下院がある。

この間、議会の中間選挙があった。事実上トランプ政権を支持するか、しないかの信任投票だよね。結果は、上院はトランプさんの共和党が勝ちました。でも下院は負けた。日本でもある「ねじれ」の状態だよね。つまり議会も今、「分断」されている状態なんです。

上院と下院で多数派が違うという「ねじれ」ですね。

“何が何でも壁を作る”

トランプさんは「国境の壁」を作ると言っているよね。でもいくら壁を作りたくても予算がなければ作れない。予算を確保するためには議会を説得しないといけない。

でも今、下院は野党・民主党が多数派なので、民主党が「壁なんかいらないよ」、「大事なお金はもっと他に使ってよ」と言って、予算が通らなくなった。そこでトランプさんが行ったのが「非常事態宣言」

これは大統領が非常時に議会の承認を経ず措置をとれるようにする行政手続きなんだけど「こうなったらもう私の権限で、ほかの国防予算から壁の建設費を持ってきて作ります」という強硬手段に出たんです。

非常事態宣言をするほど、急いでいるということなんですか?

いや、急いでいるというより、どうしても壁を作りたい。

どうしてそんなに壁を作りたいんですか?

「壁を作りたい」という姿を、自分の支持者に見せたいということなんです。そのためにわざわざ非常事態を宣言して、支持者に「トランプよくやったな」と思わせたい。いわば政治的なパフォーマンスですね。

壁を作るのはトランプさんがもともとやりたいと思っていたことなんですか?

そう。彼は大統領選挙への出馬を宣言した当時から「メキシコとの国境に壁を作ります。そして、その費用をメキシコに払わせます」と言い続けてきた。

そうなんですか。

トランプさんは、アメリカにやってくる不法移民が後を絶たず、麻薬を持ち込んだり、犯罪を犯したりする人もいると主張しているんだけど、そういう人たちが低賃金で労働すると、アメリカ人が職を奪われてしまう。だから不法移民を入れさせないために壁を作りますと大統領選挙で公約した。その約束を果たそうとして一生懸命、壁を作ろうとしている。

再選のためには公約違反は絶対できないからね。ここまで自分の再選だけに特化した大統領は過去いなかったと思います。

そもそもなんですけど、トランプさんはなぜ大統領になりたかったのですか?

なぜ大統領になりたかったか。多分、あの人はね、自己顕示欲が強い人。承認欲求という言葉があるけど、「自分は誰よりも凄いんだと認められたい」のだと思う。

自分を認めさせるために大統領に?

そう。普通の政治家は、これを成し遂げたいという信念がある。例えばイラク戦争をやめさせたい、テロとの戦いからアメリカを守りたい。イデオロギーというんだけど、絶対これだけは譲れないというものがある。でもトランプさんにはそれがない。政治家としての経験も軍人としての経験もない、きわめてまれな大統領だから、彼が本当に何がやりたいのかというのは誰もわからない。

なるほど…。

ずばり、トランプさんは再選できると思いますか?

今のところ、6対4で優位だと思います。

再選される可能性が高いと?

そうだね、今の時点では。でも民主党の挑戦者が誰になるかで大きく変わってくるので、まだ決まっていないから何とも言えないところはあるけどね。

ただ、やっぱり現職の大統領は強いんだよね。早くから資金集めができるし、外交などの実績をすべて自分の得点にできるから。実は、現職の大統領が再選されなかった例は過去わずかしかないんです。

そうなんですか。

再選されない理由として挙げられるのは、1に経済、2にスキャンダル。

トランプさんが今6割だというのは、アメリカは、今、経済が絶好調なのね。

株価は史上最高値を更新しているし、失業率も過去50年間で最も低い。これだけ経済が良くて、再選されないのはほぼありえないと現時点では思うんです。でもこれが来年の11月まで続くかはわからないですけど。

ロシア疑惑で窮地に?

もうひとつの、スキャンダルは、トランプさんにはないのですか?

あるんだよね。ロシア疑惑。

大統領になった時に、ロシアが選挙に介入して、相手候補だったヒラリー・クリントンさんに不利な情報を流したんじゃないかというもの。それにトランプさんが関わっていたかどうか。

そんなの知らないというのがトランプさんの主張なんだけど、今、その捜査が大詰めを迎えていて、捜査しているモラー特別検察官がまもなく報告書を提出するんです。

ロシア疑惑を捜査するモラー特別検察官

トランプさんに不利なことが出てきそうなのですか?

そうですね。トランプさんの会社で右腕として働いていた顧問弁護士がいるんだけど、その人はトランプさんのありとあらゆるやばいこと、人に知られたくないことを知っていると言われている人で。この人が逮捕されて、トランプ陣営に関する情報を証言する見返りに減刑されるという司法取引に応じてしまったので、やばいことが出てくるのではないかと言われている。

やばいことですか…。

報告書の内容次第では、このロシア疑惑というスキャンダルがどんどん広がって、トランプさんの再選にも影響を及ぼすかもしれない。

1)経済、2)スキャンダル、3)相手候補が誰か、この3つが今後どうなるかで再選できるかどうかが変わってくるということですね。よくわかりました。

後編につづく

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