2023年01月19日
(聞き手:梶原龍 佐藤巴南)
去年、歴史的な水準にまで達した円安。その後、円高方向へ動きましたが、円安傾向は続き食料品などは値上がりが続いています。この背景には「日本経済の“構造的な課題”」ともいえる貿易赤字が深く関係しているんだそう。
円安・円高と貿易赤字の関係について、1からわかりやすく解説します。
2022年に円安を加速させる要因の1つとなったのが日本の貿易赤字です。
安藤
キャスター
学生
梶原
貿易赤字…。
シンプルに日本の輸出額から輸入額を引いたものがマイナスになっている状態だと思ってください。
円安のもう1つの要因となった日米の金利差について解説「1からわかる!円安・円高(1)」もあわせてご覧ください。
教えてくれるのは経済部の安藤隆デスク。経済部の記者として金融の現場を長年、取材。ロンドン駐在の経験も。現在は朝の経済コーナー「おはBiz」のキャスターを務める。
学生
佐藤
日本の貿易赤字ってどれぐらいなんですか?
去年(2022年)は19兆9713億円の赤字。
1年間の貿易赤字としては比較が可能な1979年以降で過去最大となりました。
19兆円!なぜ、そんなに赤字が…
下の図を見てもらうとわかるんだけど、もともとは日本は、貿易黒字の国だったんです。
1980年代には日本は国内で製造した電化製品や自動車などをガンガン輸出していた典型的な貿易黒字国でした。
ところがその後、日本企業は今とは逆の円高の状況に長く苦しめられてきました。
頑張って海外に日本の製品を輸出しても、貿易相手の通貨の価値が相対的に低いので、なかなか稼ぎにくい状況が続いたんです。
このため、日本企業は次々と海外に工場を移設していきました。
現地で生産を行うことで生産や輸送のコストを抑え、なんとか円高の影響を少なくしようとしてきたんです。
こうした経緯があり、今の日本経済は円安の状況になっても、全体的には輸出が伸びにくい構造になっていると言える訳です。
なるほど…。
さらに2011年の東日本大震災以降、全国各地にある多くの原子力発電所が停止したままになっているため、今の日本は石油や天然ガスを多く輸入する状態になっています。
このため、いまの日本の貿易はそもそもが赤字になりやすい状況なんですが、ロシアによるウクライナ侵攻が、この状況をさらに加速させました。
どういうことですか?
ロシアは、石油と天然ガスを大量に生産する世界有数の「エネルギー大国」です。
ウクライナ侵攻後、欧米諸国を中心にロシアからのエネルギーの輸入を見直す動きが広まったことなどから、石油や天然ガスなどの価格が世界的に高騰したんです。
これと同じことが食料品でも起きました。
ロシアもウクライナも世界的な小麦の産地ですが、ウクライナ侵攻によって、世界的に価格が値上がりしました。
こうして、日本が輸入に大きく頼っているエネルギーや食料品の高騰が、日本の貿易赤字を加速させる原因になっているんです。
ロシアによるウクライナ侵攻が、日本の貿易赤字が増えた要因の1つなんですね…。
そういうことです。
この貿易赤字が続いている状態、実は円安を加速させる要因にもなっているんです。
詳しく教えてください。
円安になると、同じ1ドル分の商品を買おうとした時に、これまでより多くの円を払う必要がありますよね。
はい。
日本が輸入している石油や天然ガスなどのエネルギーや食料品の多くは、代金をドルで支払っています。
このため、円安が進めば進むほど、輸入代金を支払うためにより多くの円をドルに両替しなければなりません。
そうすると、円がよりたくさん市場に出ることになり、そのことがさらなる円安につながるのです。
円安の時に輸入をすれば、貿易赤字になりやすい。
それと同時に、円安そのものを加速させることにもなるのです。
2023年1月には一時、127円台まで円高が進みましたが、この貿易赤字の構造は変わっていません。
2023年も貿易赤字が円安につながりやすい状況は続きそうです。
日本の構造的な課題もあるなかで、「円安が進みすぎてマズいな」という時に、日本としてコントロールすることはできないんですか?
基本的にはできません。
為替レート、つまり円をほかの通貨と交換する時にいくらで交換するかというのは原則としては市場原理によって決まるべきものです。
円が買いたいという人が多いほど円の価値があがっていく。逆に円を買いたい人が減ると円の価値は下がっていく。
モノの売り買いと一緒ですね。
為替レートはどう決まるのか?「1からわかる!株・為替(4)」はこちらからご覧ください。
ただ、あまりにも急激に変動している場合に「市場介入」という措置がとられることがあります。
どういうものですか?
「市場介入」は、国の政府や中央銀行が市場原理によって決められる為替レートを無理やり変えようと、外国為替市場で自国の通貨を大量に買ったり売ったりすることです。
実際に、政府・日銀は、2022年9月に円を買ってドルを売る市場介入に踏み切り、約2兆8000億円分の円を買ってドルを売りました。
効果はあったんですか?
そうですね。市場介入の直後は一時的に円高が進みましたが、その後またじりじりと円安が進みました。
円安になっている要因自体は変えられないので、根本的に局面を円高方面に変えるほどではないとされていますね。
それだと、あまりやる意味がないようにも思えますが…。
決してそうとも言い切れません。
先ほど言ったように為替レートは市場原理で決まりますが、中にはドルと円を頻繁に売買して利益を得ようとする人たちがいます。
単純に言えば、これから安くなるであろう円を売って、高くなるであろうドルを買い続けていると、その差で儲けることができますよね。
この目先の値上がり値下がりで利益を稼ぐことを商売にしている人たちがいて、マーケットでは「投機筋」と呼んでいます。
投機筋の影響力が大きすぎると、通常あり得ないほど円安が進んだり円高が進んだりするので、その動きをけん制する時に、特に市場介入は有効だとされています。
政府・日銀が必要だと判断すれば、ためらいなく市場介入をする姿勢を見せたことで、円安が進むスピードを弱めた効果はあったんじゃないかと思います。
市場介入は異例の対応ですが、より根本的に何ができるのかという意味で、1つ期待されるのは外国人観光客を日本に呼べるかどうかということです。
どういうことですか?
外国人観光客は日本で買い物をする際、自国の通貨を円に両替してくれますよね。
この時、その国の通貨を売った分だけ、円が買われる。
つまり、円の価値が上がるということにつながる動きでもあるんです。
なるほど。円安を改善する効果も期待できるんですね。
岸田首相は“外国人観光客の日本での消費を年間5兆円以上に増やす”と言っています。
ものすごく単純に言えば5兆円分の円を買ってくれるわけなので、それが実現できれば、それなりのインパクトがあります。
新型コロナの感染拡大で減った外国人観光客、特にコロナ前に最も多くを占めていた中国からの旅行者が、今後どのようなペースで回復していくかが鍵となりそうです。
でも外国人観光客が来てくれたらいいな、というのも、少し他力本願というか…。
確かに、そこだけをあてにしてはいけないですよね。
為替レートの問題を別にしても、外国人観光客の需要は今後の日本経済にとっても大事な要素の1つになってくるはずです。
ただ、食料やエネルギーを輸入ばかりに頼っていていいのか、製品の海外生産ばかりでなく、国内生産も増やせないのかといった、貿易赤字の構造的な要因について目を向けていくことも大切です。
あわせて、為替レートの多少の変動に左右されない、しっかりとした経済基盤を築き上げていくためには、世界からお金が集まってくるような企業をどんどん作っていくための政策を5年・10年といった期間で実行していくことが必要だと思っています。
日本経済をもっと元気にしていくためには、こうした中長期的な取り組みが求められているのではないでしょうか。
2022年に大きく動いた円相場。この先はどうなるのでしょうか。ポイントは、アメリカの「インフレ」と呼ばれる状況がいつまで続くのか、というところにあるようです。次回、詳しく見ていきます。
撮影:本間遥 編集:岡谷宏基
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