2022年12月21日
(聞き手:梶原龍 佐藤巴南)
2022年、一時は1ドル=150円の歴史的な水準に達した円安が今度は円高方向に。いったい何が起きているの?その仕組みは?気になるギモンに1からわかりやすく答える入門編です。時事問題対策にもご活用ください。
学生
佐藤
ここ最近、円の値動きに関するニュースをよく耳にするようになりました。なぜ、このような状況が長く続いているのでしょうか。
去年11月以降は円高に戻す動きが見られていますが、全体としては、2022年に入ってから円安の傾向が続いてきました。
安藤
キャスター
まずは、その急激に進んだ円安の状況についておさらいしていきましょう。
2022年10月には一時1ドル=150円という32年ぶりの円安水準になりました。
円安・円高ってなに?
円を海外の通貨と交換する際のレート(為替レート)で、円の価値が下がったら「円安」。逆に円の価値が上がったら「円高」。たくさんの円が少しのドルにしか交換できない状況を「円安・ドル高」、少ない円でたくさんのドルに交換できる状況を「円高・ドル安」といいます。
8月には1ドル130円だったのに、わずか2か月で20円も円安が進んだんです。
それって、大変なことなんですか?
そうですね。例えば、みなさんが海外旅行に行く時、前もってお金がいくらかかるかの計画を立てるじゃないですか?
経済部 安藤隆デスク
1996年NHK入局。経済部の記者として金融の現場を長年、取材。ロンドンにも駐在し、グローバルな金融政策の取材経験も。現在はNHKの朝の経済コーナー「おはBiz」でキャスターを務める。
2か月後にさぁ出発するぞと準備を始めたら、どんどん円安が進んでいて、いざドルに両替すると「あれ、予算がぜんぜん足りない!」ってなっちゃったら困りますよね。
すごく困ります…。
実はこれ、企業でも同じなんです。
企業は円が1ドルいくらと想定して事業の計画を立てています。
だから急激に円安が進むとその計画がどんどん崩れて、まともな計画が立てられないっていうことになってしまうんですね。
あと、最近、いろんなものの価格が値上がりしていますよね。これも「円安」がかなり影響しています。
学生
梶原
たくさんの円を払わないと、同じモノが交換できなくなってしまったということですね。
そういうことです。円安になると、海外からモノを買うためにより多くのお金(=円)がかかることになります。
例えばパンをつくるための小麦にしても、石油や天然ガスなどのエネルギー資源にしても、日本はそのおよそ9割を海外から輸入しています。
このように、私たちの生活は多くの輸入品によって支えられているので、円安になると、私たちが普段、食べたり、使ったりしているさまざまなモノの値上がりにつながるわけです。
そもそもなんで、こんなに円安が進んだんですか?
円安の最大の理由はアメリカと日本の金利の差だと言われています。
金利ってなに?
お金を借りたり預けたりする際、その金額に対して追加で支払ったり、受け取ったりする金額(=利息・利子)の割合のこと。
いま、アメリカではどんどん金利が上がっているのに、日本では金利が上がっていない状況が続いてきたんですね。
この状況だと日本の円を持っているよりもアメリカのドルを持っていた方が、それを銀行に預けたりした時にたくさんの利息を受け取れるんじゃないか、ということになります。
金利が高いと、世界中のより多くの人がその通貨を欲しがる。そうすると、その通貨の価値が上がるわけです。
逆に、金利が低い方の国の通貨は価値が下がる。
つまり、世界中の投資家や銀行なんかが金利の高いドルを懸命に買ってきたことが、これまでの円安の一番の要因だと見られているんです。
誰がそのドルや円を売ったり買ったりしているんですか?
世界中の銀行が主に売り買いをしています。
為替の仕組みについてより詳しく 「1からわかる!株・為替(4)」はこちらからご覧ください。
銀行どうしでもお金の貸し借りをしていますし、その銀行の背後には、お金を必要としている貿易会社だったりメーカーだったり、いろんな企業がいるんです。
そういったところが、銀行に注文をしてやり取りをしている形です。
「金は天下のまわりもの」って言われますけど、お金の回りやすさは金利を上げたり下げたりすることで、大体コントロールできるとされてるんですね。
だから、実は世界中の国々が自分たちの経済を安定させるために、金利を上げたり、下げたりしようとしています。
その金利の上げ下げは、どこが決めてやっているんですか?
中央銀行と呼ばれる組織です。日本でいえば日本銀行、アメリカではFRB(=連邦準備制度理事会)がそれにあたります。
おおむね1つの国や地域に1つずつあって、金融政策と呼ばれる金利の上げ下げを通じて経済と物価の安定を図っています。
では、なぜ、アメリカではどんどん金利が上がっているのに、日本では金利が上がらない状況が続いているんですか?
アメリカでは、おととし(2021年)あたりから物価がすごく上昇しているんです。
継続的に物価が上昇する状況にあることを「インフレ」と言いますが、こうした状況は経済が熱くなりすぎた時に起きやすいんですね。
このインフレを抑えるために金利を上げて、経済を少し落ち着かせようというのが今のアメリカの方向性です。
少し難しいです…。
そうですよね。どういうことか、もう少し詳しく説明します。
たとえばお金を借りたい時に、低い金利で貸してくれる銀行と、金利が高い銀行があったら、低い金利で貸してくれる銀行を選びますよね。
払わないといけない利子が少なくて済みますもんね。
そうですね。このように、金利が上がるほどお金を借りにくくなるんです。
企業は銀行からお金を借りて、工場を建てたり人を雇ったりします。
そして、売り上げをあげてその中から銀行に借金を返すという形で経済は回っています。
なので金利が上がるほど借金がしにくくなるので経済活動は鈍る。
逆に金利が下がればお金の貸し借りがしやすくなるので、どんどん新しい工場を建てたり人を雇ったりしやすくなります。
なので、それぞれの国や地域は、景気が冷え込んでしまっている時はなるべく金利を下げて、少しでも経済を活発にさせようとする。
逆に景気が熱すぎる場合、つまり、みんなモノを欲しがって、物価がどんどん上がって困るという場合には金利を上げて、お金を借りにくくすることで、経済を少し落ち着かせようとするんです。
景気が熱すぎる状態ってよくないんですか?
そうですね。たとえば、みんなが同じ車を欲しがると、その車の数が足りなくなって、値段が上がりますよね。
これが行き過ぎてしまって、みんなの財布の中身が増える以上に物価が急激に上がってしまうと生活に必要なモノまで高くて買えなくなってしまう、という人が出てきてしまうんです。
なるほど…。
多くの国では、働く人たちの給料がしっかり上がりつつ、それに伴って、緩やかに物価が上がっていくことが良いとされています。
その望ましい物価の上がり方は年に2%くらいと言われているんですが、アメリカではいま、物価が去年と比べて7%くらい上がっちゃってるんです。
この急激な物価の上昇を抑えようと、アメリカの中央銀行は過去に例がないスピードで金利を上げてきました。
それでもアメリカのインフレは、しばらく収まらないんじゃないかと言われていて、まだ金利を上げるかもしれないと言われています。
金利の差で円安に進んでいるんだったら、日本も金利を上げちゃえばいいと思うんですけど、日本はなんで上げないんですか?
ひと言で言うと、日銀が金利を上げてしまえるほど今の日本経済は強くないと思っているからです。
日銀は2022年12月20日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和の一部修正を決定。金融市場は「事実上の金融引き締め」にあたると受け止め長期金利が上昇した。この日、円相場は、一時、1ドル=132円台前半となり、日銀の発表前と比べておよそ5円値上がりした。
さっき言ったように金利を上げると、企業がお金を借りづらくなりますよね。なので、いま円安を食い止めるために慌てて金利を上げてしまうと、国内のお金の回りが悪くなって、日本の景気の方がすごく悪くなる可能性がある。
日本経済にとってかえって悪影響を及ぼすだろういうのが金利を上げない理由です。
たしかにお金が回らなくなってしまったら困りますね…。
では、日本はずっと金利を上げずに耐えている状況なんですか?
そうですね。日本ではずっとインフレとは逆のデフレが続いてきました。デフレとは物価が持続的に下がっていく状態です。
物の値段が下がるのはありがたい気がします。
そうですよね。かつて500円で売られていたモノの価格が、400円に下がったらうれしいですよね。
ただ、これも程度によるんです。
あまりに物価が下がる状態が長く続いてしまうと、企業にとっては売上げがどんどん減っていくことになります。
そうすると私たちの給料が減っていきますね。
給料が減っていくと、買えるものが少なくなってしまいます。
巡り巡って私たちに影響が…。
インフレのスパイラルは良くないですけど、デフレのスパイラルも実はよくないっていうことが、日本の20年にわたるデフレによって、世界的に認識されてきました。
なので、ちょうどいい感じで物価と給料が上がって、その結果、景気が良くなっていくという理想の実現に向けて、日銀は低金利政策を続けてきたんです。
もっと金利を下げちゃえばいいんじゃないかと思っちゃうんですけど。
ただ、日本は金利をもう下げられるだけ下げている状態にあるんですね。
例えば、銀行にお金預けて増える感覚ありますか?
正直変わらないイメージですね。
そうですよね。いま、大手銀行の普通預金の金利って0.001%です。
100万円預けたとして、年間につく利息はたったの10円です。
10円ですか・・・!?
そのくらいまで抑えても、日銀が期待していたほど日本経済は活気づいていないのが実情です。
ずっと低成長が続いている状態です。
厳しい状態ですね…
そうですね。アマゾンやアップルみたいに世界で売り上げを伸ばす企業が出てくれば、それは日本経済にとってプラスになります。
そうすれば、外国からどんどんお金が入ってくるかもしれないし、今よりも円安になりにくい状態になるかもしれないというのは理想論ではその通りです。
でも、日本経済はデフレの期間が長かったこともあって、アメリカみたいに経済が大きく成長する状況は起きずに今にいたっているんですよね。
だから日本の構造的な経済の力強さが十分ではないという点で、日本銀行も苦しんでいるというのが今の状況だと思います。
次回は日本経済の「構造上の問題」とも言える貿易赤字と為替の値動きとの関係について詳しく見ていきます。
撮影:本間遥 編集:岡谷宏基
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